第4話 「小テスト頑張ろうよ、天使ちゃん!」3


「お茶、お茶、お茶……っと」


 俺は一階のリビングに降りて、キッチンにある冷蔵庫を漁っていた。


「お茶がいいの?」


「あ、うん、麦茶がいい、母さん」


「母さんは麦茶じゃないですっ」


 渾身のギャグだったのだろうか。

 Gカップ級の巨大な胸を大きく張ってドヤ顔をする母さん。それをジト目で見つめる俺を見かねてすぐに咳払いをし、コップ二つ分のお茶を入れ始めていた。


「それで、どうしたんだよ母さん。冷や汗なんか掻いちゃってさ」


 俺がそう訊くと母さんはこっちを向いて俺を睨みつける。


 まるで冷や汗に何か恨みがあるような目だ。

 

 いや、冷や汗に恨みがあるって意味が分からんけど。


「……な、なんだよ、その目は……っ」


 さすがに息子も母の眼光には敵わない。この眼付きの悪さも母からの遺伝のため、睨みも俺よりも洗練されている。余計に怖さが増していた。


「だって、しょうちゃんがあんないい女の子連れてくるから……よ」


「まあ、なんというか――流れだな。多分」


「流れって……いつのまにナンパをできる男になったのよ!」


「うるせえ! ナンパじゃねえよ‼」


 ナンパじゃない、断じてナンパじゃない。

 大事だから二回言ったぞ、俺は。


「……っ!」


 ギラリと母さんの眼力が俺の瞳を突き刺した。


「っひ!」


「……私はねぇ、驚いてるのよこの成長に」


「っ、はぁ……その、それはどこの成長だよ……?」


 俺の短い悲鳴に目もくれず、母さんは神妙な面持ちで語り始めた。


「しょうちゃんが小学生だった頃はすっごく充実しててねぇ、友達の家に遊びに行くし、外でもすぐに走りに行くような子供だったし、それを見ていた私はすっごい案していたのよ」


「はぁ」


「でもね、しょうちゃんが中学生に上がったと同時に亮二さんの仕事が転勤になって私たちも引っ越したでしょ……そこから、私知ってるのよ? いじめられていたことだって、大体、急に遊んだりしなくなるし、痩せちゃうし、すっごい心配だったの」


「……なら、その時に言ってほしかったけどなぁ」


「言ったわよ」


「え、そんなの覚えてないけどな」


「それは脳みそが怖いのは忘れたいと思って忘れたからよ、絶対にね」


「ふぅん……」


 まあ、そう言われてみればそんな気もしなくはない。あの頃の学校はとにかく憂鬱で家にいる時間が一番楽しかった。だからこそ、あの頃の思い出は何一つないのだろう。


「それで、なんとか卒業して勉強頑張って高校に行った」


「そう……だから、私はしょうちゃんを抱きしめたでしょ? あの時」


「嫌だったけどな」


「んな、なーーんでそういうこと言うのよ‼‼」


「いや、もう高校生にもなる男が母さんに抱きしめられたらいやに決まっているだろ、普通」


「私は、ばぁばに抱きしめられて嫌なことなかったわよ?」


「あんたは男かっ」


「で、それでね」


「無視かよ!」


「——しょうちゃんにもようやく青春が来るよーって思っていたらまた、友達出来ていないって。部活にも入らなかったじゃない?」


「……んぐ」


 何も言えない。

 事実、母さんにはすべて見透かされていたようだった。


「そしてまた転勤してみたらあんたが、女の子連れてくるのよ……ほんとびっくりだわ」


「……それはまぁ、いろいろな」


 俺はすこし照れて顔を赤くしていると、母さんは顔を耳のそばまで持ってくる。


「な、なに——」


「————いい女の子そうじゃない? 顔だってかわいいし、すっごくちゃんとしているわ。女の私から見てもいい感じだからきっと大丈夫、狙って早く落としちゃいなさいよ」


 少し驚いたが一体全体、これは母親が言っていい台詞なのか。それとも母さんがナンパや合コンやらを経験してきた超陽キャラな人間だから言える台詞なのか。本当に理解しかねる。


「う、うるさいよ……だいたい、そんなの俺の勝手だろ?」


「私は忠告してあげてるの~、大学生を舐めない方がいいわよ? 高校みたいな深い関わりは全然ないし、むしろ理系のしょうちゃんならなおさら女の子会えないわよっ」


「余計なお世話だ、そのくらい知ってるし!」


「それならもっと——」


「はいはい、分かったいいからそういうのっ」


 そう言い残して俺はその場を後にした。

 無論。母さんの言っていることは的を射ているし、正論だということも分かっている。でも、それを純粋に心に留めることが出来なかったという子供心から来る何かだったのだ。


「よいしょっと――――霧雨さん、お茶持ってきたから開けてくれないか~~」


「あ、うんっ、待って!」


 そしてすぐに扉が開く。


「これ、麦茶だけど大丈夫?」


「うんっ! 全然大丈夫だよ~~」


「はい、じゃあどうぞ」


「ありがとぉ~~」


 俺がコップを渡すと霧雨さんはがっしりと手ごと掴んできた。


「っ」


 すこしだけ驚いてしまった俺に比べて、彼女は何も気にしない顔で机の上にそれを置いた。


「じゃあ、やろ?」


「え——あ、うん……やるか」


 ――そして、俺たち二人のプチテスト勉強が本当の意味で幕を開けたのだった。




<あとがき>


 こんばんは、歩直です。

 ようやく軌道に乗ってきたかっ! 目指せ100フォロワー、目指せ1000フォロワー精神で頑張っていきたいと思います!


 良かったら、レビューしてください‼‼

 まだ終わってないので、本編は下に!




~~~~~~~~~~~





「あ、でも、その前にさ」


「ん?」


 霧雨さんはニコッと笑いながら机の下をごそごそと漁る。


「えっとぉ~~ねぇ……あ、これこれ!」


「っ⁉」


 そう言って、彼女が手にしたのは――――


「このぉ、間違え天使たんのはだかえっちのてんごく……っていうやつは、なぁに?」


「っ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼‼‼‼」


 エロ同人誌の発見と同時、俺の悲鳴が高橋家を震わせたのだった。



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