第4話 「小テスト頑張ろうよ、天使ちゃん!」


「とは言ったものの、まずは金曜日の小テストだ」


「はい、先生!」


 修学旅行が一か月とちょっと後にあり、二週間後には二学期中間テストを控え、さらには今週の金曜日、つまり三日後には英単語と漢字兼熟語の小テストがある。普通に考えてかなりハードスケジュールではあるが頑張って勉強すればこけることはない。


 ——と、俺は思っていたのだが。現実、俺だけの都合で世界は回っていはないのだ。


 彼女、ミスコン準優勝の女子高生。


 いや違う。


 この一週間、二人きりで登下校してきて思ったことは霧雨麗奈は天使である――ということだ。ふと見せるスマイルは僕の心を浄化する。おかげで毎朝鏡を見ると目つきが悪いと言われていた目も若干の光を宿らせることが出来ている気がする。


「それで、今のところの状況を教えてほしいだが?」


「英単語は10点、漢字は2点…………」


「——おい、正気かよ」


「正気、です。先生」


 想像以上だった。


「あれ、だよね? 100点満点……だよね?」


「はい、先生っ! 正真正銘の赤点です‼‼」


 まあ小テストとはいえ、簡単にできる数字でもなかった。いや、凄まじい。配点が大きいと言い訳すればその通りだし、一問10点問題って言うのも割と難しい。


 だとしても、だった。


 誇るように笑って言う彼女を前に正直に告げる。


「それは誇ることじゃないけどな——?」


「っ! ……わ、笑ってくれない……の?」


 彼女は上目遣いで涙を目に浮かべて言ってくる。さすがにやめてほしい。顔が可愛いんだから、そういう武器を持たないでくれ。


 折れるから、ヤバいから。


「笑わないし……というか笑える限度を超えてる」


「んがっ⁉ そ、そんなになのっ先生――――!?」


「そ、それはまぁ、事実……」


「ん、そ、そんなぁ……ひどいよぉ……先生」


「仕方ないよ——あと、先生呼びはやめてくれ、なんか罪悪感ある……」


「んぐっ……でも、私から見たら先生なんだけど、なぁ……」


「それに敬語もやめてくれ……俺の調子も狂う」


 ぐへ~~、と首を垂れる霧雨さん。まだ始めて数分しか経ってないぞ。


「でもぉ」


「でも?」


「私、教室でやるのは恥ずかしいんだけど……」


 あぁ、確かにそうだったか。でも今は放課後だから誰もいないんだけどな。


「誰もいないけど……」


「う、うん……一応そうなんだけど、そういう問題じゃないというか? なんか雰囲気がね」


「雰囲気……勉強するのにってこと?」


 彼女は小さく頷いた。


「でも、それならなおさら教室の方がやる気でr————」


「——私は、でないもん」


「そ、そうなの……か」


 俺の言葉を遮って彼女は言った。先ほどの威勢の良さはどこかに消えて、今の表情は真剣であった。


「私、勉強苦手だし」


 自信なさげ。

 霧雨さんの感情は表に出ている。


「——それは、苦手なだけでやっていないだけだと思う」


「……」


 無言。

 きっと図星なのだろう。

 これで結局してこなかっただけなのだ。努力のやりようはいくらでもあるし、ここからは伸びしろも大きい。むしろ、やって損ではない。


「図星、だよね」


「……むぅ、ひどいぃ」


「でも、そういう自分から信じないといい点は取れないし。そこから学べば絶対にいい点とれるんだけどなぁ」


「そ、そうなの?」


「うん、事実俺はそうしてきたよ?」


 霧雨さんは俯いた。


「頑張るだけ、頑張ろうよ」


「……わ、分かった」


 そして、頷いた。


「でも、その代わり……お願いだからさ、昇二くんの家に行ってみたい!」


「俺の家?」


「うんっ!」


「来たいだけじゃ——」


「じゃあやらない!」


「はぁ……それは困る」


 別に、俺に彼女の成績アップをさせる義務はない。というより、そうしない方が効率的ではある。でも、俺的には見捨てることはできなかった。


「でしょ?」


 またしても上目遣いだったが、今回の目は光り輝いていた。

 思うが、マジで来たいだけなんだな。


「……分かったよ」


「ほんとにっ⁉ じゃあいくぅ~~‼‼」


 そうして俺たち二人は帰りの身支度をしたのだった。



 

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