第3話 「一か月後、修学旅行なの? いやその前にテストもあるし?」」


 そして今日で、かつ丼を食べた日から一週間が経った。

 俺の聞いたミスコンの事もばつが悪そうにはぐらかされてあの日の帰りは若干気まずかったがそれからの学校では忘れたかのように話してくれていた。きっと、他人には言えない、思い出したくはない何か辛いことがあって――――俺自身もこの話題にはあまり振れないのが正解だろう。


「あ、高橋君っ、今日の数学の宿題だした?」


 俺が机の上で次の授業の準備をしていると前の方からクラス数人分のノートを持った委員長がやってきた。


「うん、出したけど……」


「おっけ~~、じゃあ全員分ねっ、出しにいこっと」


 ——てな感じでわりと話しかけてくれるようになり、クラスに馴染むことが出来ていた。前の学校であったような陰湿ないじめもなく、どうやら俺もようやく高校生になれたらしい。


「っぷふぁ~~、つっかれた~~‼‼」


「大丈夫、霧雨さん?」


「んん~~、だって授業とかだるいじゃん? 私、勉強苦手でさ~~……ってそういや、また霧雨さんって言ったでしょ?」


「……あはは、ちょっとまだ慣れなくて…………」


「もう一週間なんだけどぉ」


「ご、ごめんって……」


 さ、さすがにたったの一週間じゃ女子を愛称で呼べないよ。まず、俺たちはまず付き合ってないし、そういうのはそれが済んでからって言うか……とにかくまだ、早い。


「はぁ……まあいいけど! ささっご飯食べちゃおう!」


「うん……」


 そう言って俺たちは別々にご飯を取り出した。


「今日の、今日の、ご飯は~~なんだろ~~♪」


 ニコニコと変な歌を歌う彼女。周りの生徒たちはいつも通りの事だと視線を逸らしていたが逆に、その気が俺の羞恥心に突き刺さる。


「あ、やった唐揚げじゃ~~ん!」


「良かったな」


「うんっ! 私揚げ物大好きなんだよね~~!」


 そう言っている割にはお腹は出ていなかった。体質なのか、嘘も方便なのか。いつも思うけど可愛い女の子ってこういう時案外食べるんだよな。俺も唐揚げは好きだが体質的太るから毎日、走ってるけど。


「そ、そうなんだな。俺も割と好きだよ……」


「え、好きなのっ⁉ なんか嬉しい~~」


 すると、周りの生徒が一斉にこちらを向いた。


「え、何⁉」

「好きって、言った?」

「まじで? 転校生、霧雨が好きなのっ?」

「おいおい、スクープ!」

「きゃー、うらやまし~~!」


 ——どうやらみんな勘違いをしているようだ。さすがに俺も間違えられえると困るし、彼女も彼女だ。何もわかってない顔をしてお弁当を美味しそうに食べている。


「唐揚げが」


 その瞬間、ずてーーっん‼‼ みたいな音がした。


「やれやれだよ……まったく」


 まだこっちに着て一週間だ。親ですらまだ慣れていないと言っていたのに息子が慣れるわけもない。子供は何事も早いと言うが陰キャな俺がその上の告白なんてことできるわけねえ。


 ——まぁ、妹の京はもうできたらしいけど。あいつ中学生だぞ、その血俺にも分けてほしい。


 そして、取り出したコンビニのサンドイッチを食べ始める。最近は母親も趣味に忙しいらしく夜ご飯とその他家事くらいしかやってくれない。母親がそれで大丈夫なのかよ、専業主婦なのに……。


「あれ、昇二ってまたサンドイッチなの~~⁇」


「ん——そうだけど」


「体に悪いよ? そう言う菓子パンばっかじゃ~~」


「知ってるけどなぁ、母親が作ってくれないんだよ」


「えっ⁉ ご、ごめんっ!」


 途端に頭を下げる彼女、焦った顔がちらっと見える。


「え、なに急に?」


「だ、だって――――その……お母様が……なんか、あったのかなぁっていう……」


 どうやら彼女も勘違いだったらしい。


「……ははっ、別に何もないよ。専業主婦なのに専業してないだけだよ。お金はくれるから俺は大丈夫だけど」


「そ、そっかぁ……って! それダメじゃん!」


「そうか? まあダメなのかもだけど、俺は特に不都合はないよ?」


「……そ、それなら……まぁ。私に他人の家庭事情はツッコめないわね」


「ははは……でも、心配してくれたのはありがたいよ」


「友達だもんっ! 心配するのが普通でしょ?」


「————そ、そうだね」


 友達————ね、俺にはまったくもって縁のない言葉だ。


「それでさ、霧雨さん?」


「ん、なに?」


「もうすぐ―—」


「あ! そうだよね、修学旅行だよね! 良かったら私と一緒に回ろうよ!」


「……」


「いやぁ、楽しみだよね~~私ね、札幌行けるなんて聞いてびっくりしたよ~~! その後は稚内にも行くらしいけどやっぱ都会の札幌に行きたいかなぁ~~‼」


 もの凄く焦っているのか、額には汗が滲んでいた。いつものにんまりとした笑顔はどこに行ったのやら、そう思っても仕方がないほどに不思議な、不自然な笑みを見せていた。


「その前に」


「っ――――!?」


 途端、霧雨さんは肩を震わせた。今度は箸を持つ手も徐々に震えだし、口がパクパクし目が点になっていく。


「————中間テストだよね?」


「っ……あああああああ、言わないでェえええええ‼‼‼」


 そして、とてつもない悲鳴とともに俺と霧雨さんのテスト勉強が始まったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る