プロローグ 「親の転勤」2
——それから二週間後、引越の荷下ろし作業や住民届、学校への編入届など。諸々のやるべきことを済ませて、あっという間に転入の日が来てしまった。
「それじゃあ、入ったら軽く自己紹介よろしくね~~」
ニコッと笑った担任の女性教師のリクルートスーツからはみ出るばかりの豊満な胸に見惚れつつも、心臓の鼓動はバクバクと鳴っていた。大袈裟に言えば、心臓の動きで肋骨が折れてしまえるくらいには緊張でヤバかった。陰キャ生活に終止符を打てると思っていたのだが、今までの陰キャ生活が仇に出て、まったくと言って口が動かない。
「あ、あの、あのの……さs、さあ、さっぽろから、やってきた……た、高橋昇二……ですっ……、しゅ、しゅしゅ、趣味はあ、あ、アニメを見ることですt……よよ、よろs——よろしこお願いしますっ‼‼」
噛んじまった。
「「「「「…………」」」」」
沈黙が流れて、俺の心は空白で埋まっていく。
まるで、心臓でも握る潰されるかのような痛み。あの頃の、高校一年生の頃のトラウマが再び、俺の目の前に現れて————
「——さ、札幌出身なのっ‼⁇」
————そして、通り過ぎていった。
一人の女子生徒の一言で、そのトラウマは完膚なきまでに消え去っていった。
「まじかよ」
「すっご!」
「めっちゃやばくね」
「なまらすごぉ」
「テレビ塔とか‼‼」
「雪まつりとかいいなぁ!」
「やっべぇ~~都会だ~~」
教室中が湧きだった。有名人でも来たのではないかと言わんばかりに、騒ぎ出すクラスメイト。まだ、顔も名前も知らないというのに彼女たちは、彼らは大きな声で騒いでいた。
「はいはい、その話はあとでね~~、ホームルームは終わるよ~~」
手元に持った名簿帳と日直日誌を教壇でトントンと叩きながら、女性にしては少し高めの声で言う。
「え~~!」
「いいじゃんなべっち~~!」
「なべっちのけち!」
「おたんこなす~~」
「いいだろ~~」
「今、おたんこなすって言った人?」
隣からでも分かるギロリと光らせた瞳が座っている生徒たちへ突き付けられる。しかし、女性教師にそう言うのもなかなか凄いなと感心しつつ俺は行く末を見守っていた。
「————減点ね」
「えええ‼‼」
「それは言いすぎだわ~~」
「bkだろ?」
「草~~」
ネットのように飛び交う言葉にさすがの俺の驚きを隠せない。しかし、そんな風に困った顔をしていると……。
「高橋君困ってるから男子やめて~~」
女子生徒の発言に、うんうんと頷く女性教師。
「ほらぁ、霧雨さんの言う通りよ~~男子たち静まって~~」
女性教師に言いくるめられて教室は静まっていく。
「はーい、じゃあ高橋君。席はえっとぉ――——あそこかな、あの窓際の一番後ろで!」
「は、はい……」
恐る恐る返事をして俺は席まで移動する。
人生でここまで注目されたのは初めてと言っていいほどに視線を浴びながら、ようやく俺は席に着いた。
座って数秒後。
——隣の席の彼女は言った。
——さっき、男子を沈めて、それよりも前に皆を沸かせる一言を言った女子生徒。
「よろしくね、高橋昇二くんっ……!」
すらりと肩まで伸びた銀髪に、碧眼の瞳、華奢で小さな身体なのに胸が大きく、お尻も大きな、色気と可愛さを兼ね備えた——まるで理想の女子高生。
彼女こそが、昨年の北海道ミスコン準優勝、百年に一度の奇跡と謳われた北海道弁の道産子女子高生。
————可愛い道産子天使ちゃんこと、「
[豆知識]
・「したっけ」-北海道弁で意味的には「それじゃあ」みたいな感じ。
・「セコマ」-北海道のローカルコンビニ「セイ〇ーマート」の略称。
・「洞爺湖町」-北海道の町。札幌の南側にあり、有珠山、昭和新山などの活火山に囲まれていて、今でも20年前の噴火の被害がそのままの形で残っている。洞爺、支笏国立公園にある洞爺湖はテレビアニメ「宇宙のメソッド」の聖地。元々は虻田町と呼ばれていた。
<あとがき>
みなさん、初めましての方は初めまして! 最近、新作を投稿しまくりの歩直です。一応、メインで書いてる二作と並行でこちらは不定期投稿すると思います。たいあっぷさんの方で応募できたらと思ってるので、良ければこちらの小説をフォロー、いいね、星評価、レビューお願いします!
目指せ☆100、目指せフォロワー1000人を目標に頑張ります!
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