ルシファーとの闘い下

「くそっ! 舐めるなよ! ジョブ・レンダーだかなんだか知らないが! 高々人間一人で魔族であり、魔王軍四天王の一人である僕を何とかできると思うなよ!」


 キィン! 俺はロイヤルガードの盾でルシファーの攻撃を防ぐ。


「暗黒結晶弾!」


 距離を取った、ルシファーは遠距離攻撃を放ってくる。黒い弾丸のようなものが襲い掛かってくる。


「くっ!」


 俺はその攻撃を盾で防いだ。やはりロイヤルガードは守備よりの職業だ。単体で闘う分には不自由な職業だった。所謂盾役の職業なのだ。攻撃力に乏しい。


「職業返却(ジョブリターン)!」


「させるかっ! 馬鹿めっ!」


「ちっ!」


 キィン!


 ジョブ・レンダーとしての俺もまた万能でも全能の存在ではない。職業を切り替える時、一旦返却しなければない。そこに僅かな隙があった。ルシファーはその隙を許しはしないのだ。


「口ほどにもないな! ジョブ・レンダー! 君の力はその程度なのかっ!」


「……く、くそっ!」


 隙を作れず、職業のスイッチをできない俺は苦戦を強いられた。


 ――その時であった。


「……なんだ? 貴様らは」


 複数人の少年少女達が姿を現す。


「……へっ。トールの野郎、随分、あのルシファーに苦戦してるみたいじゃねぇか!」


「ラカム……メアリー……ルード……グラン……お前達、一体……」


「元勇者パーティーとして、魔王軍の凶行を見捨てるわけにもいかないからな」


「な、舐めるなよ! この雑魚ども! お前達みたいな雑魚どもに一体何ができるんだ! 僕が力を授けなければ何もできなかった雑魚が!」


「職業返却(ジョブリターン)」


 自己貸与していた職業を俺は返却する。俺はただのジョブ・レンダーに戻ったのである。

  

 それに気づいたことがあった。今ここにいないエミリアとセフィリスに貸与していた職業(ジョブ)が返却されていたのである。俺の四人までが上限というジョブ・レンダーとしての上限に空きができたのだ。


 恐らくはエミリアとセフィリスは国王とフィオナ姫を逃がすために、俺の能力の範囲外まで行ってしまったのだろう。


 だが、これは好都合でもあった。


「ラカム、メアリー、ルード、グラン。お前達にもう一度だけ職業を貸与してやる」


「……どうして、そんな気になった?」


 ラカムが意外そうな顔で聞いてくる。


「それがベストな方法だと思ったからだ。今は手段を選んでいる場合じゃない。他に方法がない。皆で力を合わせて、あの四天王のルシファーを倒すべき時だ」


「へっ……いうじゃないか。皆、聞いたか。トールがまた俺達に職業を貸してくれるってよ」


「ええ。聞いたわ」


「聞きました」


「聞いたぞ!」


「俺達、勇者ラカムの最後の活躍! 花道を飾るには相応しい舞台だぜ!」


「ええ! 最後にあのルシファーにガツンと大魔法をぶち込んであげるわよ!」


「ああ! 俺の聖剣エクスカリバーの最後の輝きを見せてやる!」


「はい! その通りです! 最後に大僧侶として皆さんのお役に立ててみせますよ!」


 ラカム達はそう言っていた。最後……そうか。こいつらはもうパーティーを解散するつもりなのか。無理もない。チート職業を失った彼らはもうこれ以上パーティーを続けていくことは困難であろう。


 現実を思い知り、ついに彼らは決断したのだ。かつての子供のような無邪気さは彼らにはなかった。どこか達観としていたのだ。


「何をごちゃごちゃ言っているんだ! このゴミムシどもが!」


「職業貸与(ジョブレンド)!」


 俺は職業貸与者(ジョブ・レンダー)としてのスキルを発動した。ラカム達に職業を貸与する。ラカムに勇者、メアリーに大魔法使い、そしてルードに聖騎士、グランに大僧侶。


 俺が返してもらったチート職業を再び彼らに貸与(レンド)する。


「へっ。ありがてぇぜ。トール、再び勇者としての力を得られるなんて」


「私も大魔法使いになれるなんて」


「聖騎士として再び聖剣を振るえる機会があるなんてな」


「皆さん! もし怪我をしても大僧侶になった僕がいるからもう安心ですよ!」


 ラカム達は力を得て、失った自信を取り戻していた。


「このゴミムシどもがあああああああああああああああああああ! 調子に乗るなよ! 僕の本気を見せてやる! うあああああああああああああああああああああああああ!」


 ルシファーは叫んだ。メキメキと、背中から黒い翼ができる。そして筋肉が膨張していた。美しい少年のような見た目は仮初の姿だった。ルシファーは殻を破った。悍ましい悪魔のような化け物。


 あの邪神の真なる姿と同じように、ルシファーも本当の姿を隠し持っていたのだ。


「これが僕の本当の姿! 本当の力だ! この力をもって、お前達みたいなゴミ虫!   踏みつぶしてやるからな! あっはっはっはっはっはっは!」


「トール……ありがとうな。再び職業を貸してくれて」


 ラカムは柄にもなく、俺にそんなことを言ってきた。


「礼はいい。今は目の前にいる化け物――ルシファーを何とかしてくれ。頼んだぞ、お前達」


「行くぞ! 野郎ども! これが勇者ラカムのパーティーの最後の闘いだ!」


「うん!」「おう!」「はい!」


 こうして真なる姿を現したルシファーと勇者ラカム達の闘いが始まったのである。




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