Sランクの冒険者パーティーに昇格する

「おめでとうございます!」


 パン! パン! パン! クラッカーが鳴らされた。


「ん? ……」


 俺達がアレクサンドリアの冒険者ギルドに入るなり、いきなりの歓迎を受けたのである。


 パチパチパチパチパチパチパチパチ。


 複数人の受付嬢から冒険者達が拍手を鳴らしていた。


「これは何を祝ってるんですか? このギルドを訪れたのが100万人目とか、そういうやつですか?」


「何を言っているんですか! トールさん! 報告は聞いております! あの炎の精霊王イフリートを倒されたそうですね。つまりはクエストをクリアされたという事です! Sランクの冒険者パーティーに昇格されたってことですよ!」


「……ああ。そういえば、そうだった」


 俺達は炎の精霊王であるイフリートを討伐したのであった。だが、俺達はその後ラカム達とも交戦したのである。その時の印象の方が強く、ついイフリートを討伐していたことを忘れていた。


「おめでとう!」


「おめでとう! こいつはものすごい冒険者パーティーが誕生したもんだぜ! この短期間で最上級のSランク冒険者パーティーまで昇格するなんて!」


「全くだ! 前代未聞だな。恐ろしい冒険者パーティーだよ」


「皆様! トールさんの冒険者パーティーに再度の盛大な拍手を送ってください!」


 受付嬢に促され、冒険者達は再び盛大な拍手を送る。


パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ。


「トール、私達Sランクの冒険者パーティーになったのよね?」


「正確にはこれから昇格の手続きはあるが、もう昇格クエストをクリアしたのだから実質確定したようなものだろうな」


「すごいじゃない! トール! やったじゃない!」


 エミリアが抱き着いてきた。


「流石トールさんです!」


「セ、セフィリスまで……」


 セフィリスまで抱き着いてきた。


「お前ら、大げさだろ……大体、あのイフリートを倒した時点でSランクの冒険者パーティーに昇格するのはわかっていたことだったろ」


「それはそうだけど、実感すると嬉しくなるじゃない!」


「はい! エミリアさんの言う通りです!」


 二人は俺に猫のようにじゃれてくる。


「いい加減離れろ……今は公衆の面前なんだぞ。皆見ている」


「はーい!」「はい。わかりました」


 二人は渋々俺から離れる。


「ギルドマスターがお呼びです! 是非マスタールームに伺ってください!」


「わかりました。向かいます」


 俺達は受付嬢に促され、ギルドマスターのいる、マスタールームへと出向くのである。


 ◇


「全く……ものすごい連中だよ。Sランクの昇格クエストをたったの一回でクリアするなんて。普通は何回も失敗しつつ、やっとの事でつかみ取る栄光であろうに。末恐ろしい連中だ」


 ギルドマスターが俺達を出迎えた。普段表情を変えないように思えたが、今日ばかりは流石に表情がほころんでいる。俺達がSランクの冒険者パーティーに昇格したことがそれだけ嬉しかった様子だった。


「規定の報奨金だ」


 俺は再び金貨を渡される。今度は前回よりももっと大きい袋だった。


「うわっ! トール、またすごく沢山お金もらえたわねっ!」


「ああ……ただ、これだけ貰えると嵩張る。荷物になるから、銀行に預けようか」


 王都には銀行が存在した。金を預けたり、借りたりできるのだ。そういう金融ネットワークを各国に持たせる事で、柔軟に金を引き出したり、借りたりできる。


「うん! そうしよう! トール!」


「それでこれがアダマンタイト製の冒険者プレートだ」


 俺達はギルドマスターから冒険者プレートを受け取った。


「これで昇格の手続きは終わりだ。細かい事務手続きは冒険者ギルドの方で進めておくよ。これで君たちはSランク、つまりは最上位の冒険者という事になる。その事を自覚し、皆の手本となるパーティーを目指して欲しい。頼んだぞ」


「「「はい!」」」


 俺達は答える。


「私からは以上だ。他に何か欲しい褒美でも欲しいか?」


 ちなみにアレクサンドリアのギルドマスターは女性である。しかも若い。それだけではない。かなりダイナマイトなバディーをしており、露出も高い。正直、目のやり場に困る。


 大きく裂けた胸元は男であるならば目を反らすのが困難であろう。


「褒美ですか?」


「ああ……なんでも聞いてやるぞ。なにせ今日はトール君。君がSランクの冒険者になった日だ。つまりは特別な日だ。何でもいいんだぞ。君が望むなら私が一晩君の相手をしてやってもいい」


「……そ、それは」


 ごくん。思わず俺は唾を飲み込む。


「だ、だめよ! トール! そんなHな誘惑につられちゃ!」


「そうです! トールさん! Hなのはいけないと思います!」


 エミリアとセフィリスは俺を諫める。何を言っているんだ? セフィリス。こいつはエルフの国で俺の背中を流しに風呂に入ってきただろう? あれはHな事じゃないのか。エルフの倫理観とか価値観が俺にはよくわからなかった。


「なんてのは冗談だ。彼女達二人から顰蹙を買いそうだから、からかうのはこれくらにしよう。ふっふっふ」


 ギルドマスターは笑みを浮かべる。


 こうして俺達はマスタールームを後にした。


 ◇


しかし、これで一件落着とはいかなかったようだった。


「た、大変です! トールさん!」


 受付嬢が声をあげる。何かあったようだ。大慌てをしていた。ギルド内の雰囲気もどこか慌ただしい。


「マ、マジか? 魔王軍が……」


「ああ……何でも魔王軍の四天王の軍隊が王都に攻め入ってきたらしい」


 冒険者達も大慌てをしていた。


「どうしたんですか? 受付嬢さん?」


「大変なんです! 魔王軍が王国アレクサンドリアに攻め入ってきたんです!」


「なんですって?」


「どうか、トールさん! パーティーの方々、Sランクの冒険者パーティーとしてこの王国の危機を救ってください!」


「はい! 受付嬢さん! トールとセフィリス! 三人で力を合わせて、必ずやこの危機を救ってみせます!」


 エミリアは力んでいった。


「私も微力ではありますが、全力でトールさんのお手伝いをいたします!」


 セフィリスはそう力んでいった。


「任せてください。受付嬢さん。必ずや、この王国の危機を俺達で救ってみせます」


「トールさん! 詳しい報酬は緊急事態ですので後回しです! ですがギルド及び王国からきっと、満足いただけるだけの報酬が用意されると思います!」


「報酬の話は今はいいです。今はそれどころじゃない。エミリア、セフィリス、行くぞ!」


「はい! トール!」「わかりました。トールさん!」


 こうして俺達は王都の危機を救うべく、魔王軍を相手に立ち向かう事になったのである。









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