仮初の勇者パーティーとの闘い上

 灼熱の火山地帯で俺達はラカム達とにらみ合う事となる。


 このラカム達は以前俺が職業を貸与していた時と同じくらい。いや、それ以上に強いかもしれない。


「来ないのか? トール!? いや、荷物持ち(ポーター)のお荷物トール、俺達にビビって何もできねぇんだろ」


 ラカムは俺を露骨に挑発してくる。


「バカ言わないでよ! トールがそんな臆病者なはずないじゃない!」


 エミリアが叫ぶ。


「よせ、エミリア。挑発に乗るな」


 俺はエミリアを制する。


「来ないのか? だったらこっちから行くぜ! 真勇者アタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアク!」


 ラカムが俺に襲い掛かってきた。


「自己貸与(セルフレンド)! 剣聖!」


 剣聖の職業(ジョブ)を自己貸与した俺はラカムの剣を受け止める。その力はまさしく、勇者の力そのものであった。


 キイイイイイン!


 お互いの力の衝突が激しく、猛烈な風圧を発生させる。


「トール!」


「トールさん!」


 エミリアとセフィリスが心配そうに声をあげる。


「へっ! ただの荷物持ち(ポーター)だと思ってたんだけどな、トール。存外やるじゃないか」


「答えろ! ラカム! その力誰から授かった! 村人のお前に、勇者としての力が宿るわけがない!」


「へっ。誰が教えるかよ」


 ラカムは当然のように喋らない。だがその口ぶりからやはり、何者かから、力を授かったのは間違いないようだ。


「お前たちに力を授けた誰かから、俺達を襲うように命じられたんだろ?」


「だから誰が教えるかって言ってるんだよ!」


 キィン!


 ラカムは再度俺に攻撃をしてくる。お互いの剣が激しくぶつかり合い、剣戟を繰り広げる。


 ラカムは否定するが、間違いはないだろう。教えられないというだけで、まず間違いなく第三者からの命令を受けて奴らは俺達を襲ってきている。


 やはり魔族か何か。それもこれだけの力を授けられる者となると限られている。魔王自身か、その配下である四天王。それくらいだ。これだけの芸当ができるのは。


「その力、魔王軍から借り受けたんだな?」


「へっ。よくわかったじゃねぇか。正解だ。答えを教えてやる。俺達は魔王軍の四天王であるルシファー様のおかげだ! ルシファー様のおかげで俺達は真なる力に目覚めたんだ!」


「違う! ラカム! その力はお前達の真なる力なんかじゃない! 仮初の力だ! お前達は勇者を自称したパーティーでありながら、悪魔に魅入られ、そして魂を売ったんだ!」


「う、うるせぇ! このお荷物トールが! 俺様は勇者だ! 第勇者ラカム様だ! くらえ! 真勇者アタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアク!」


 ラカムは再度俺を攻撃してくる。


 一方その頃。


「ぷぷぷっ。無駄に足搔いちゃって。私の大魔法でイチコロなのに」


「大丈夫ですか? メアリー。このまま魔法を撃つとラカムにまで当たってしまいますよ」


「大丈夫よ。グラン。もしラカムが死んでもあなたが蘇生させればいいじゃないの」


「それもそうですね」


「それじゃあ、行くわよ! ラカム! 避けなさいよ! これからトールに私の大魔法をお見舞いしてやるんだから!」


「おう! わかったぜメアリー!」


 ラカムは飛びのく。


「食らいなさい! トール! 私の大魔法を! 燃え盛る紅蓮の炎があなたを黒焦げにしてあげるんだから!」


 メアリーは魔法を発動させる。


「フレイムノヴァ!」


 炎系最上級魔法。フレイムノヴァ。紅蓮の炎が俺に襲い掛かってくる。


「ちっ」


「ホーリーウォール!」


 俺に直撃する直前、エミリアが聖なる壁を発動させ、俺を紅蓮の炎から守った。


「ふっ! やるじゃないの! 王女様! 私の大魔法をしのぐなんて」


「大丈夫だった? トール」


「ああ……エミリアのおかげでな」


 闘いって思った通りだった。やはり奴らは俺がジョブレンドしていた時と同じか、それ以上に強い。全く、厄介な相手だった。


 そして思った通り、奴らは魔王軍の四天王から力を借り受けていたのだ。


「全く、勇者を自称しておきながら、敵である魔王軍の手下になるとは」


「やっぱり、あの子達、そういうわけだったのね。急に強くなったと思ったら。トールがいなかったら何もできない弱ちい連中のはずなのに」


「何とか、あいつ等を正気に戻す。その為に時間を稼いでくれ、エミリア。セフィリス」


「はい! トールさん!」


「わかったわ! トール! 何とかやってみる!」


「自己貸与(セルフレンド)」


 俺は剣聖のジョブを返却し、新たな職業を自己貸与(セルフレンド)した。


 こうしてラカム達のパーティーとの闘いは佳境へと突入していくのである。



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