炎の精霊王イフリートとの決着

「自己貸与(セルフレンド)!」


 俺は自身に召喚士の職業を貸与(レンド)する。二度目の貸与である。


「リヴァイアサン!」


「ぬっ! なにっ! リヴァイアサンだと!」


 俺は召喚獣を呼び出す。リヴァイアサン。長い蛇のようなドラゴンだ。水属性のドラゴンとして有名な召喚獣である。


「行け! リヴァイアサン!」


キュエエエーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!


 リヴァイアサンは甲高い泣き声をあげた。


「アクアウェイブ!」


 起こったのは大洪水を巻き起こすような大津波である。


「ぬ、ぬおっ! なっ、なにっ!」


 炎の精霊王イフリートは大津波に飲み込まれていく。水属性の攻撃なので効き目は抜群のようであった。


 いくらイフリートが相手とはいえ、軽くはないダメージを与える事となる。


「ちっ! この小蠅ともがっ!」


「エミリア、ここに来るまで俺は錬金術師(アルケミスト)を自己貸与(セルフレンド)しただろ」


「うん。あの冷たくておいしいジュースを作って飲ませてくれたわね」


 クーラードリンクだ。まあ、名前なんてどうでもいいが。


「確かに錬金術師(アルケミスト)は非戦闘用の職業とみられる事が多い。要するに生産系の職業だな。だけど決して戦闘中に役立てれないという事ではない。使いようによっては十分に戦闘職たりうるんだ」


「へー。そうなんだ。あんなおいしいジュース作れるだけじゃなくて、闘う事もできるのね。すごいじゃない」


 俺は錬金術を発動する。俺はアイテムを作り出した。液体である。だが、ただの液体ではない。


「なにそれ、トール」


「氷結剤だ。水で塗れたイフリートを一瞬で氷結させる」


 俺は氷結剤を使用した。


「ほらっ!」


「な、なにっ!」


 ピキィ!


 洪水に巻き込まれたイフリートが一瞬にして凍り付いた。


「ば、馬鹿なっ! こ、この我が人間如きに敗れるなどとっ!」


 イフリートは負け惜しみを言いつつ、消え去って行った。HPがゼロになったのであろう。


「やったわね! トール!」


「やりましたね! トールさん!」


「ああ……やったな。これで俺達もSランク冒険者パーティーだ」


「うん! Sランクの冒険者パーティーね」


「冒険者ギルドに報告すればだけどな……帰って報告しないとだな」


 俺達はそう思っていた。その時の事であった。


 四人の人影が姿を現す。やはり、俺達は何者かに付けられていたようだった。というよりは俺は既に、付けていたのが誰なのかを理解していた。恐らく……いや、間違いなくあいつ等だ。


「へっ! 随分と強いじゃねぇかよ! とてもあの荷物持ち(ポーター)のトールとはおもえねぇな。まぁ、勿論この真なる大勇者であるラカム様よりは弱いんだけどよぉ。くっくっく」


 俺達の目の前に四人が姿を現す。そう、ラカム達だ。


「この人達は……あの時の」


「やっぱりお前達かラカム達」


「なんなのよ! あんた等! またトールをパーティーに引き抜こうとしているの! しつこいわよ! もう遅いのよ! トールも嫌だって言ってるじゃないの!」


 エミリアは叫ぶ。


「ん? そんな必要はねーよ。だって俺様は真なる大勇者ラカム様なんだからな。本物の勇者なんだから、職業を借りる必要なんかねぇだろ。くっくっく」


 余裕のある笑みを浮かべる。かつての虚仮ではない。真なる自信をラカムは持っているようだった。実力が裏付けられた自信。その自信や余裕は決して張りぼてのものではなかった。


「嘘だ。お前の本来の天職は村人だ。ラカム、本当のお前は勇者なんかじゃない。村人なんだ」


「うるせぇ! 俺は勇者なんだよ! てめぇが言っているのは嘘っぱちだ!」


「その力、誰から借りたんだ? 俺以外の誰かから借りたんだろ? 恐らく、その相手は魔族か誰かだ。きっと良くない存在だ。そういう良くない存在に魂を売って、お前達は力を借り受けたんだ」


「うるせぇ! 違うって言ってるだろ! この力は俺の力だ! なんてったって俺は大勇者ラカム様なんだからよ!」


「くっ……」


 問答したって仕方がない。こいつ等は恐らく洗脳されている。もはや俺の言葉など耳に入らない。最初から耳に入れるような連中ではなかったが。余計にそうなっている。


「トール……お前もちったぁやるみてぇだが! それでも大勇者ラカム様にはかなわなねぇんだよ! なんてったって俺達は最強の勇者パーティーなんだからよ! なっ! 皆!」


「ええ! そうよ! 荷物持ち(ポーター)のトールなんて、私の大魔法でイチコロよ! すぐに氷漬けにしてあげるんだから! くっくっく! それか火炙り! おいしいステーキ肉みたいに! ジュージューと焼いてあげるわよ!くっくっく!」


「トール! お前が多少は強くても、俺の聖剣に斬れないものなど存在しない! 聖騎士である俺は勝利が運命づけられている! 故に、いかにお前が強くとも、俺達勇者パーティーが敗北する事など絶対にありえない!くっくっく!」


「その通りです! 僕たち勇者パーティーに荷物持ちの無能など必要ありません! 万が一パーティーのメンバーが傷ついても、大僧侶である僕の回復魔法で一瞬で回復させてあげますよ! くっくっく!」


 ラカム達のパーティーは皆、余裕で不気味な笑みを浮かべる。


「トール、どうするのよ? 元々頭のおかしい子達だったけど。なんか余計に頭がおかしくなってるわよ。それになんかやばい雰囲気を感じるわ」


「どうやら、闘いは避けれないみたいだな」


「そのようですね。彼等には正気に戻ってもらわなければなりません」


 セフィリスも弓を構える。戦闘準備は先ほどのイフリートで完了している。


「へっ! やるっていうのかトール! 無駄なあがきをしやがって! てめぇがどれだけ強くても! この大勇者ラカム様が負けるはずがねぇだろ!」


「あんたなんてイチコロ! 私の大魔法でイチコロなんだから!」


「トール! 貴様はこの聖剣の錆になってもらう!」


「この大僧侶グランがいる限り! 勇者ラカムのパーティーに敗北などありえません!」


「来るぞ! エミリア! セフィリス! 前のあいつ等じゃない! 完全な別人だと思え!」


「「はい!」」


 俺がチート職業を貸与していた時と同じ。いや、それ以上の力を得たラカム達が俺達に襲い掛かってきた。交戦はもう、避けられない。

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