火山地帯にて

俺達はアウレア火山に来ていた。やはり火山だ。当然のようにとても暑かった。


「……ふうぅ……暑いわねトール」


「ああっ……って」


「なに? トール?」


 エミリアは胸元をわざと大きく開き、手で扇いだ。


「う、うわっ! エミリア!」

 

「どうしたのよ? トール。そんなに慌てて」


 当然のようにそんな事をすれば、胸の大まかな形が見え、先端まで見えてしまいそうになる。


「む、胸っ! 胸っ!」


「ん? 胸? そんな事気にしてたの? 気にしなくていいのに。だって私達幼馴染なんだから」


 エミリアは笑う。「幼馴染」この一言だけで全て流されてしまうのもいかがなものかとは思った。


「はぁ……」


 俺は溜息を吐く。もうどうしようもない。


「だって仕方ないじゃない。暑いんだから! もう暑いんだから仕方ないの!」


「確かに暑いですね」


 セフィリスはライトアーマーを身に着けている為、エミリアのようにだらしなく、はしたない真似はできないが、暑い事は暑そうである。


「それもそうだな」


 俺はジョブ・レンダーとして、職業(ジョブ)を自己貸与(セルフ・レンド)する。自信に『錬金術師(アルケミスト)』の職業を貸与した。


「何なの? トール、その職業は?」


「錬金術師(アルケミスト)だ」


「「錬金術師(アルケミスト)!?」」


「そうだ。要するに色々と便利なアイテムを作れる職業だな。錬金術っていうんだ」


 俺は錬金術師(アルケミスト)としてのスキルを発動させる。


 高速でアイテムを作り出す。


「できた」


 俺は三つ分の飲み物を作り出す。


「トール? 何なのその飲み物? 涼しくなりそうな、おいしそうな飲み物ね」


「こいつはクーラードリンクだ」


「「クーラードリンク!?」」


「ああ。要するに暑さを感じなく飲み物だ。この飲み物を飲むと一定時間暑さを感じなくなる。大体3時間程だから、イーフリートを倒して火山を降りるくらいの時間は大丈夫だ。まあ、足りなくなったらまた作ってやるよ」


 俺はエミリアとセフィリスに一つずつ手渡す。


「ありがとう! トール!」


「ありがとうございます! トールさん!」


 二人は受け取り、クーラードリンクをごくごくと飲み始めた。


 ごくごく、俺も飲む。俺だって一応暑かったのだ。我慢していたというだけで。


「わー! トール! 暑くなくなった! 涼しくなった!」


「確かに、涼しくなりました」


「これがクーラードリンクの効果だ」


「ありがとう! トール!」


 エミリアが抱き着いてくる。


「わっ! 馬鹿! やめろっ! せっかく涼しくなったのに暑くなるだろうがっ!」


 俺はエミリアを引きはがす。


「それじゃあ、火山の頂上を目指すか。炎の精霊王であるイフリートはそこに生息しているらしい」


「はーい!」「はい。わかりました。トールさん」


 俺達は火山の頂上を目指す。その時、俺は何となく視線に気づいていた。この視線、モンスターのものではない。人間のものだ。


 俺は今のところは敵意を感じないその視線を無視し、頂上を目指して歩き始めた。

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