アークデーモンとの闘い
「よい……余の力がみなぎってきたぞ」
目覚めたばかりの邪神はホームである神殿で失われていた魔力を集めていた。
「いでよ。アークデーモンよ」
邪神は目覚めた力で僕を呼び出す。恐ろしい上位悪魔である。Sランクの冒険者パーティーでも舐めてかかる事ができない、強力なモンスターだ。悍ましい形をした悪魔である。
「……よいな。アークデーモンよ。エルフの国を滅ぼせ。エルフの国には侮れぬ力を持つ人間がいるぞ。エルフの姫もろとも、姿かたちが残らぬように捻りつぶすのだぞ」
「わかりました。我が主、ネメシス様」
「では向かえ!」
「はっ!」
こうしてアークデーモンは邪神が封じられていた神殿からエルフの国へ進撃するのであった。
◇
俺達は邪神が封印されていた神殿へと向かった。邪神はそこで魔力を回復させているらしい。
俺は感じた。凄まじい力を。神殿の方向から。
「エミリア! セフィリス姫! 来るぞ! 神殿の方から物凄い力が!」
目の前には砂漠が広がっている。その為、みはらしは良かった。遠方から襲来してくる、巨大な物体。
禍々しい身体。間違いない。この力は悪魔の力だ。それもただの悪魔ではない。上位悪魔の力。
「はい! トール様」
俺が前衛を引き受ける。後衛職であるエミリアとセフィリスは後衛につく。二人は基本的に接近戦が得意ではないからだ。
上位悪魔(アークデモーン)は俺達の目の前で歩みを止める。俺達は見下されていた。かなり威圧感のある見た目であった。その上中からあふれ出てくる力は凄まじく、決して見た目だけの張りぼてではない事を意味していた。
「ふむ。なんだ、貴様等……人間。それにエルフか。そうか、貴様達が我が主であるネメシス様がおっしゃっていた難敵か」
「お前は、やはりネメシスの僕か何かか?」
「いかにも、我はネメシス様が召喚なさった悪魔だ」
アークデーモンは語る。
「悪魔か……」
「どうしたの? トール」
「極めて悪魔に対して有効な職業があるんだ。しかもパーティー構成的に俺は前衛職を自己貸与(セルフ・レンド)すべきだろう。その点でも合致している職業(ジョブ)がある」
「何を躊躇っているのよ? トール。敵は目の前なのよ! 躊躇している場合じゃないじゃない!」
「だよな……」
エミリアに諭され決心がついた。
「何を呑気におしゃべりしている! こちらからいくぞ!」
「くっ!」
アークデーモンは巨大な拳を放ってきた。砂漠に砂煙が立つ。
「ちっ。仕方がないな。自己貸与(セルフレンド)」
俺は自身に『聖騎士(パラディン)』の職業を貸与する。
「な、なに!? なんだこの力は! くっ!」
慌ててアークデーモンは俺に拳を振り下ろしてくる。俺はその攻撃を聖剣エクスカリバーで受け止めた。聖剣が眩いばかりの光を放ち、アークデーモンの拳とせめぎあう。
「トール! その職業は!」
「ああ……残念ながらルードに貸してた職業だ。ひどく印象が悪い」
あいつは今や聖騎士ではなく、農民だから被ってはいない。だが、何となく個人的な印象は悪かった。とはいえ、今は戦闘中だ。生死に関わる。だからそんな事を言ってられなかった。
「くっ! 貴様か! 面妖な力を持つ人間とは!」
邪神は俺の力を一度見ている。その事を伝えたのだろう。
「食らえ!」
アークデーモンは口からブレスを吐いた。暗黒のブレスが俺を襲う。
「ホーリーウォール!」
「ぬっ! な、なにっ!」
アークデーモンは面を食らっていた。エミリアの放った聖女の力。聖なる光の壁で俺への攻撃が阻まれたからである。
「聖なる矢(ホーリーアロー)!」
弓聖の職業(ジョブ)を貸与されているセラフィスは聖属性の矢を放つ。魔族の基本的な属性は闇属性だ。故に聖属性の攻撃が弱点となる。セラフィスはちゃんとその弱点属性で攻撃をしているというわけだ。
「ぐっ! こ、小癪なっ!」
アークデーモンは怯んだ。矢のダメージはさほど大きくないが、弱点属性の攻撃である事もあり、それなりに痛かったようだ。
「今だ!」
俺は聖剣エクスカリバーの力を解放する。聖なる光の気が天まで届く程、高くまで伸びる。
「な、なにっ!?」
「食らえ! アークデーモン!」
俺はその聖なる光の気を振り下ろす。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「ぐ、ぐわああああああああああああああああああああ!」
聖剣エクスカリバーの放つ光に飲み込まれたアークデーモンは一瞬で消失する。肉片のひとつも残さず、灰塵と化した。
「やった! トール! すごい!」
エミリアとセラフィスが駆け寄ってくる。
「喜ぶな……まだ手下を倒しただけだ。肝心の邪神が残っている」
「そうね」
「行こうか。邪神のいる神殿へ」
「うん」
俺達は向かう。邪神がいる神殿へ。
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