【ラカムSIDE】勇者ではなく村人である事を知る

「ほわああああああああああああああああああああ! はわああああああああああああああああああああああ!」


 職業鑑定士の館で、鑑定士のおばばが長ったらしい、気合の籠った叫び声を放つ。


 熱心に目の前の水晶に向かって念を送っているように見えた。実際のところは魔力を注いでいるのであろう。


 水晶が怪しく光り出す。そして光を放ち終えたようだ。元に戻る。


「ふむ。鑑定結果が終わったぞよ!」


「ど、どうだったんだ! 俺様は勇者に決まってる! なんたって大勇者ラカム様なんだからなっ!」


「私もそうよ! 大魔法使いメアリーに決まっているんだから!」


「俺もそうだ! 俺の名は聖騎士ルード! 聖騎士として聖剣を振るう為に生まれてきた男なんだ!」


「僕もそうです! 僕程聡明な人間が外れ職業であるはずがありません! 僕は大僧侶グランです! そんなはずはありませんが、一応、職業を確かめておきたいんです!」


 皆、冷や汗を流していた。いくら何でも、現実から目を背ける事ができなくなっていたようだ。流石の四人も「もしかしたら」という程度の懸念を抱き始めていた。


 チート職業についていて、今まで連戦連勝を重ねてきた、そして周囲からの名声や金、地位などを得ていた。その事だけが彼等の唯一のアイデンティティだったのだ。


「うむ! 鑑定結果としてはだ!」


 職業鑑定士のおばばは語り始める。妙に間を置いていた。緊迫な空気が流れる。


「「「「…………」」」」


「ど、どうしたんだよ! お婆さん! そんな重そうな空気だして! 俺は勇者なんだよな! そうなんだよな!」


「私は大魔法使いでしょ! 大魔法使いメアリーよね!」


「俺は聖騎士のはずだろ! 聖剣を振るう為に生まれてきた聖騎士だ!」


「僕は大僧侶ですよね! 聡明な僕が外れ職業なんかに選ばれているはずがない!」


 四人は必死になっていた。必死に不安から目を背けようとしていた。


「うむ……実に言いづらいが」


 鑑定士のおばばは躊躇った後に真実を告げる。


 今明かされる衝撃の真実――であった。四人にとっては。


「おぬしらは!」


 ごくり。四人は唾を飲んだ。


 緊迫した空気が流れる。時がスローモーションのように流れた。


「ラカム! メアリー! ルード! グラン! そなた達四人は!」


 鑑定士のおばばは告げるのであった。


「自分達の思っているような天職には就いておらん!」


ガガガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!


 そう音がしそうな程であった。彼等四人の頭に巨大な石を投げつけられたような。それほどのショックであった。あるいは雷に打たれたような衝撃。


 それほどのインパクトのある告白であった。


「な、なんだって! それは本当か! 鑑定士の婆さん!」


「う、うそでしょ! そんなこと! うそよ! うそに決まってるわ! ねぇ! 嘘って言ってよ!」


「し、信じられない! 何かの間違いだろ!」


「う、嘘です! 僕は大僧侶グランに決まってます!」


 四人は鑑定士のおばばに食って掛かった。


「わしに言われても困る……なぜそなた達がそんな勘違いをしていたのか。わしにもわからん」


「な、何だっていうんですか! 俺が勇者でないって言ったら、俺は何なんですか!?」


「うむ。ラカム! そなたの天職は『村人』じゃ!」


ガガガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!


再度の衝撃がラカムを襲う。


「お、俺が村人だと……」


 ショックのあまり、ラカムはその場にヘタレ込んでしまう。


「わ、私はなんだっていうのよ! お婆さん!」


「うむ。メアリーよ。そなたは遊び人じゃ!」


「わ、私が遊び人……」


 メアリーはその場にヘタレ込んだ。


「お、俺はなんでいうんですか! 聖騎士じゃないなら! なんだって!」


「うむ。ルードよ。そなたは農民じゃ!」


「の、農民……お、俺が農民だって!」


 ルードもショックのあまりヘタれこんだ。


「ぼ、僕はなんだっていうんですか! まさか聡明な僕が外れ天職に選ばれているわけが!」


「うむ。そのまさかじゃ。グランよ。そなたの天職は無職じゃ」


「ぼ、僕が無職! そ、そんな馬鹿な」


 グランもヘタれこんだ。


「何をへたれこんでおる! ショックを受けられてもわしは天職を鑑定しただけぞよ! さあ! 鑑定料を払って出て行っておくれ! 次の客が入ってくるのぞよ! さあさあ! 迷惑だ! 出ていけ!」


 ショックを受け、ヘタれ込んでいるラカム達を鑑定士のおばばは追い出す。別に冷たいわけではない。わけもわからずその場にヘタれこんだラカム達は仕事の邪魔でしかない。


 こうして真実を告げられたラカム達は職業鑑定士の館から追い出されたのである。

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