二人で王国の危機を救う
「へへっ!」
「ぐ、ぐわっ!」
兵士が吹き飛ばされた。闘っていたのは魔族だ。
「モロい。モロすぎるぜ! 人間!」
「く、くそっ!」
魔族は高い肉体能力と魔力を持っている。並みの人間では到底太刀打ちできない存在だ。王国側の戦況は決して芳しくない様子だった。
グウウウウウウウウウウウウ!
「ぐわああああああああああああああああああああああ!」
兵士は魔物に襲い掛かられた。
魔族の他にも大勢の魔物もいる。魔物はモンスターのような見た目をしている。魔族との違いは知能だ。連中はただの動物程度の知能しかなく、言語を持たない。だが、数が多く厄介な相手である事に変わりがない。
「どうするの? トール、これから私達」
「まず、俺が職業を自己貸与(セルフ・レンド)して魔王軍を撤退させる。それからエミリアには聖女としての力を使って欲しいんだ」
「うん! わかったわ! トール」
「自己貸与(セルフ・レンド)」
俺は職業を自己貸与する。自己貸与する職業(ジョブ)は大魔導士(アークウィザード)だ。自己貸与した俺は魔導士のような恰好になる。俺は魔法を発動させた。
「マジックレイン!」
俺はマジックアローの上位版魔法を発動させる。天から降り注ぐ無数のマジックアロー(魔力の矢)。その数、数百本。それらの矢は自動追尾をし、魔族と魔物に襲い掛かってきた。
「な、なんだ! この光の矢は! うわっ!」
「「「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」
魔族と魔物は面を食らったようだ。その攻撃だけで果てた魔物も多い。だが、その一撃だけでは大勢の魔王軍を殲滅させるには足らない。だが、形勢を逆転させるなら十分だ。
「エミリア! 聖女としての魔力を発動させるんだ! 支援(バフ)魔法だ!」
「わかったわ! トール! オールステータスバフ!」
エミリアは聖女としての魔法を発動させる。バフ魔法だ。兵士達は聖なる光に包まれた。
この魔法により兵士達のステータスがUPする。要するに強くなるのだ。
「な、なんだ! この光は!」
「力がみなぎってくる!」
「やれる! やれるぞ!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
バフ魔法がかかった兵士達はの目に希望の光が宿った。失いかけていた戦意を取り戻したようだ。
俺のマジック・レインの効果もあり、形勢は大きく逆転した。流石の魔族も突然のことに戦意を大きく失ったようだ。
「な、なんだ! こいつら! あんなに弱かったのに急に強く!」
「く、くそっ! なんでこんな急に!」
魔族達は大慌てをした。
「くっ! 撤退だ! 撤退するぞ!」
そして旗色が悪くなった魔族達魔王軍は撤退を始めた。
「やった! 俺達勝ったんだ!」
「王国を守ったんだ! 俺達!」
兵士達は自国を守れた事を喜んでいた。
「エミリア様! あの魔法はエミリア様がかけてくれたのですか!」
兵士達が俺達に駆け寄ってくる。
「うん。そうなんだけど、私があの魔法を使えたのもトールのおかげなの。それに最初の魔法もトールが放ったのよ」
「ありがとうございます! トール様!」
「あなた様のおかげで我々の王国は救われました!」
兵士達は喜んだ。
「喜ぶのはまだ早い。今回は何とかなったかもしれないけど、これからはそうとは限らないだろ。エミリア、聖女の力を使い、王国に結界を張ってくれ」
「結界?」
「聖なる光で王国を覆えば、魔族のような悪しき者は足を踏み入る事ができない。今のお前ならできるはずだ」
「わかったわ! トール! やってみる! ホーリーウォール!」
「「「おおおおおおおおおおお!」」」
兵士達が感嘆とした声をあげる。聖女となったエミリアの魔法。ホーリーウォール(聖なる光の壁)が王国全土を覆ったのだ。
「この結界は邪悪な者を阻むだけだ。普通の人間が出入りするだけなら問題ない」
「ありがとうございます! トール様! エミリア様!」
「これで王国は救われました!」
兵士たちは大喜びだ。だが、説明は控えたがこの結界を維持するためにはひとつ問題があったのだ。この事は国王には説明しなければならない。
◇
「トール君、誠にありがとう! 君のおかげで我が王国グリザイアは救われたよ」
「いえ。通りがかっただけで偶然ですよ」
「セバス。トール君持たせてやってくれ」
「はっ!」
そう言って執事の男が俺に小包を握らせる。
「英雄トール様。どうか受け取ってください」
「え? いいですよ、別に、俺はそんなつもりでやったんじゃ」
「トール君、王国を救った英雄を手ぶらで帰らせるのは私達としても心苦しいんだよ。それに聞けば君はエミリアの命の恩人でもあるらしい。猶更受け取ってもらわないとならない。我々の為だと思って受け取ってはもらえないだろうか?」
そこまで言われて受け取らないわけにはいかなかった。受け取らない事で相手の立場を無くしてしまうのなら。
「あ、ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」
俺は小包を受け取った。恐らくは金貨だ。しかもびっしりと入っている。
「それと国王陛下、ひとつ報告しなくてはならない事があります」
「なんだ? その報告とは」
「この王国を覆った聖なる光の壁の事です。この結界はエミリアに『聖女』のジョブを与えた事で発動させました。だから俺とエミリアが離れ離れになると結界が消えてしまうんです」
結界がなくなると王国は再び危機に陥る可能性がある。つまり安心できなくなる。
俺の天職がジョブ・レンダーである事を知っている国王にはその事を詳しく説明しなくても、すんなりと理解できる事であろう。
「なんと、そういう事か! だったら話は簡単だ! エミリアとトール君が結婚し、この王国にずっと居座ればいいではないか」
国王は俺にそう提案してくる。じょ、冗談ではない。エミリアと結婚するって事はゆくゆくは俺が国王となるって事だ。荷が重すぎる。
「そうね! そうしましょう! トール。二人でずっと王国にいればいいのよ!」
「エミリア、お前まで乗っかるな! あ、ありがたい申し出ですが、今回の件で俺の職業貸与者(ジョブ・レンダー)としての力を世界は必要としていると思ったんです。俺は自分の力を世の中の為に役立てたいと思っています。王国に定住するのはまだ早すぎると考えています」
「うむ。そうか。残念だの」
国王は落ち込んでいた。
「そうであるならばエミリア、トール君の傍にいて彼を助けてやってくれ」
「いいのですか!? 国王。エミリアは王女なのですよ。世界を旅すれば当然危険に」
「我々は王族だ。時には身を挺して人々を守る必要性もある。それにかわいい子には旅をさせろという。この旅できっとエミリア自身も大きく成長できるはずだ。どうだ? エミリア」
「うん。お父様、私もトールと離れ離れになりたくない。一緒にいたい」
「だそうだ。トール君。不束な娘ではあるが、エミリアをよろしくな」
「よろしくね。トール」
「ああ。こちらこそよろしく頼む、エミリア」
こうして俺は王女であり幼馴染、そして聖女となったエミリアと。二人で旅を新たに始めるのであった。
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