幼馴染の王女に聖女のジョブを貸し与える
「ちっ……なんだよ、あいつ等。あれだけ俺が説得したのに。それに国王だってあれだけ念を押していたのに」
俺の事をただの荷物持ち(ポーター)だと思って馬鹿にしやがって。だがまあいい。これで俺の職業貸与(ジョブ・レンド)の枠は余った。最大四人まで。そしてそのうちの一人は俺自身が使用する事ができる。
俺は自由になったのだ。そして俺は闘う力を得た。何をしても自由だ。冒険者になるのもいい。そうやって自由気ままに生活するのも良かった。
俺はもう勇者パーティーのお荷物ではない。ただの荷物持ち(ポーター)ではないのだ。
俺がそう思っていた時だった。
ヒヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
馬の悲鳴が聞こえてくる。その時、俺は偶然旅立った王国グリザイアの近くにいた事を気付く。
「なんだ?」
見ると馬車が襲われているではないか。あれは王国の馬車。乗っているのは王族だ。幼馴染の王女、エミリアが乗っているかもしれない。襲われているのは魔物だった。魔王の配下である醜悪なモンスターだ。
「うわっ!」
配下の兵士達が襲われている。魔物はそれなりに強いんだ。
「まずい」
俺は自分に対して職業貸与(ジョブ・レンド)をした。自己貸与(セルフ・レンド)だ。
俺は自身に『剣聖』のジョブを貸与する。俺は持っている剣を引き抜いた。
「はあああああああああああああ!」
俺は魔物に斬りかかる。狼のような形をした魔物だった。
キャウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!
魔物は果てた。それを見た魔物たちが逃げ出していった。
「ふう……何とかなったか」
それよりも馬車の方は。
「トール……トールなの。どうしてトールが」
馬車から降りてきたのは煌びやかな少女であった。やはり。王国グリザイアの王女であるエミリアだった。
「よかった……やっぱりエミリアが乗ってたのか」
俺は胸を撫でおろす。エミリアの危機を救えてよかった。
「ありがとう! トール! トールが助けてくれたのね!」
「わっ! や、やめろっ! エミリア! いきなり抱き着いてくるな!」
柔らかいものが当たってくる。
「なんで?」
「いいから離れろ……もう」
こっちの心臓が高まって仕方ないだろうが。
「それよりなんでトールがここに? 他の勇者パーティーのメンバーは?」
「追い出されたんだよ」
「ええっ!? あれほどお父様が一緒にいろって言ってたのに、トールを追い出したの!? 信じられないわ! だってトールがいないとあの人達すっごく弱くなっちゃうんでしょ!」
職業貸与(ジョブ・レンド)の効果が切れる事をこれ以上ないくらい端的に彼女は言い表していた。『弱くなる』まあ、そうではある。チート職業から外れ職業になってしまうのだから。
「それはその通りだが、あいつ等言っても聞かないんだよ。俺をお荷物だの、ただの荷物持ち(ポーター)だの。言っても聞かなかったんだ」
「そうなの。そんな事が」
「それより、どうしたんだよ? エミリア。どうしてお前がこんな事に」
「そうだった! そうなのよトール! 王国グリザイアが大変なの!」
エミリアは明らかに大変だった。
「大変? どう大変なのかもっと具体的に言ってみろ、落ち着いて」
「うん。すー、はー」
エミリアは深呼吸した。そして口を開く。
「王国が大変なの!」
「それはわかった。だが具体性がゼロ過ぎてどう大変なのか全くわからない」
「う、うん。王国に魔王軍が襲い掛かってきて、それで王国がめちゃくちゃになっちゃってるの!」
「魔王軍に襲われたのか?」
「うん。そうなの! それで他の国に援軍を呼ぼうと行ってきた帰り道だったの!
トールも王国まで来て!」
「そいつは大変だな。わかった行こうか。エミリア、この馬車の馬を借りていいか?」
「うん。いいけど、どうするの?」
俺は自己貸与(セルフ・レンド)していた『剣聖』のジョブを自己返済する。これで俺は元の職業貸与者(ジョブ・レンダー)になったのだ。そして俺は次に、自分自身に新たな職業を貸与する。騎手(ライダー)の職業を貸与する。
俺は馬に跨った。この職業は馬など生き物に乗る場合、その馬の持っている以上の能力を引き出す事ができるのだ。
「乗れ、エミリア」
「うん。トール」
エミリアはしっかりと俺にしがみついた。柔らかいものが当たる。
「エミリア、少し離れろ」
「え? なんで?」
「いいから、少しだけだ」
「うん。わかったわトール」
「行くぞ!」
ヒヒイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
馬が叫んだ。そして走り出す。
「うわっ! すごい早い! これもトールの職業の力なの?」
「そうだな。その通りだ」
馬は普通に走るよりもずっと早く王国グリザイアを目指した。
◇
「く、くそっ! なんという事なのだ! 魔王軍が我が王国に攻め入ってくるとは!」
「お父様!」
「おおっ! エミリア! そ、それに君はトール君ではないか!」
王国まで戻った時、国王は右往左往していた。
「ど、どうしてトール君がここに! 私は彼等に説明したではないか! 決して離れ離れにならぬようにと!」
「言っても聞かなかったんですよ。俺が何度言っても俺がパーティーにしがみつきたいから嘘を言っているだの、ただの荷物持ち(ポーター)だの言ってくるんで。否応なく」
「なんという事だ! そんな事があったのか! だが王国にとっては幸運だったのかもしれない。トール君の職業貸与者(ジョブ・レンダー)としての力があれば、この王国の危機を救える!」
国王は俺が来た事を喜んでいた。
「トール君、どうかエミリアと共にこの王国グリザイアを救ってはくれないだろうか?」
「勿論です。国王陛下、困っている人達を見捨ててはおけません。エミリア、お前も協力してくれないか?」
「うん。勿論よ。トール。だってこの王国は私が王女をしている王国。そして生まれ育った故郷だもの」
「お前に職業を貸し与える」
俺はエミリアに職業貸与(ジョブ・レンド)する。エミリアは聖なる光を放ち始めた。聖女の恰好になる。
俺はエミリアに『聖女』の職業を貸し与えたのだ。
「す、すごい! トール! わ、私聖女になったの!?」
「その通りだ。俺はお前に『聖女』の職業(ジョブ)を貸し与えた。けど、俺から離れるなよ。俺から離れると強制的に効果が消える。強制返却になるからな」
「う、うん! わかったわ! 絶対トールから離れない!」
エミリアがすり寄ってくる。吐息が当たる程に。
「や、やめろ! エミリア! そんなに近づかなくていい!」
「え? なんで? トール、離れるなって言ったじゃない!?」
「それはそうだが、そうだな。大体100メートルくらいはOKだ。恐らく。それ以上離れたら効果が消えると思っていい」
「なんだ。そんなに離れても大丈夫なんだ」
エミリアは距離を置いた。そんなに近づいていないと効果が続かないんじゃ、俺の心臓がもたない。
「それではトール君! エミリア! 君達に王国の未来がかかっている! 頼んだぞ! なんとしてでも王国に襲い掛かっている魔王軍を撃退し、この王国を救うのだ!」
「「はい!」」
こうして俺は聖女となったエミリアと王国の危機を救う事になったのである。
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