「君、勇者じゃなくて村人だよ」職業貸与者《ジョブ・レンダー》~パワハラ勇者達に追放されたので、貸してたジョブはすべて返してもらいます。本当は外れ職業と気づいて貸してくださいと泣きつかれても、もう遅い!
つくも/九十九弐式
ジョブ・レンダー追放される
15歳になる時に天職を授かる世界。
俺達5人の幼馴染は勇者として魔王を倒す為に旅立つ時がやってきた。
旅立つより前に俺達は王国グリザイアの国王から説明を受ける事となる。
「良いか。そなた達は五人でひとつのパーティーだ。いかなる時も離れ離れになってはならぬ。絶対にだ。例え足を引っ張る者が現れても支えあい、旅をしていくのだ!」
俺達は国王からそう説明を受けた。
「わかっていますよ! 国王陛下!」
「ええ! 当たり前じゃないの! 私達は五人でひとつのパーティーなんだから!」
「その通りだぜ!」
「ええ! その通りです! 僕たちはいつも一緒です!」
俺の名は トール、与えられた天職は『ジョブ・レンダー《職業貸与者》』という職業だった。
ジョブ・レンダーのスキルは『最大四人の人間(自分)を含む』相手にどんな職業でも貸与する事ができる。
俺は旅立つより前に四人のパーティーメンバーに職業を貸し与えた。
村人ラカムには『勇者』の職業を。
遊び人メアリーは『大魔法使い』
農民ルードには『聖騎士』を。
さらには無職グランには『大僧侶』の職業(ジョブ)を貸し与えたのである。
だが、その代償として職業を貸し与えた俺は戦闘面からすれば無能力者となってしまう。仕方なく俺はパーティーの荷物持ち(ポーター)として貢献する事を決めたのである。
「特に彼、トール君と決して離れ離れになってはならぬぞ! よいなっ! 彼はジョブ・レンダーとして君達に職業を与えているんだぞ! 絶対に離れ離れになってはならぬぞっ!」
国王はラカム達に念を押していた。
「わかってますよ! 俺達は支えあってこそのパーティーなんですから!」
「ええっ! わかってるわ!」
「俺達はなんていっていたって仲間なんだからな!」
「困った時は皆で助け合いますよ!」
この時はまだ、俺達のパーティーとしての結束は固いのだと信じて疑わなかった。
「よし! では旅立つのだ! 勇者達よ! 諸君等の活躍に世界の未来がかかっているのだ!」
「「「「はい!」」」」」
俺達は旅立つ事になる。世界の未来がかかった旅に。魔王討伐の旅に出かける事となる。
「トール……」
美しい少女が俺に声をかけてくる。白いドレスを着た絶世の美少女。王国グリザイアの王女エミリア。そして俺の幼馴染だ。
「気を付けてね。トール」
「安心しろ、エミリア。絶対に無事に帰ってくる」
「うん。トールなら大丈夫よ、私信じている」
エミリアは寂しそうな目で俺を見てきた。
こうして俺達は旅に出る事となったのだ。
◇
あれからの事だった。勇者パーティーは連戦連勝を続けていた。モンスター達をちぎっては投げ、村や王国の人々、そしてギルドの人々からも感謝され、至るところで功績を残していった。
全ては俺がジョブ・レンダーでチート職業を貸与していたからこそできていた事なのだが、彼らはそのことに対して不満に思ってきたようだ。
「トール、お前さ。さっきっからずっと俺達が闘っているところを見てただけだよな?」
ラカムが聞いてくる。
「何か不満でもあるのか?」
「大ありだろ! 何もしないでサボってばかりいやがって!」
「同感だ! トールは俺達の闘いを見ているだけでパーティーに何の貢献もしていない!」
ルードが怒鳴ってくる。
「大体、トールが俺達に職業を貸している、っていうのがおかしな話だと思うんだ。俺達が、そんな外れ職業に選ばれているわけがねぇ! この大勇者ラカム様は勇者になるべく生まれてきた人間なんだからな! だから俺様は勇者に選ばれているに決まっているんだ!」
「同感よ! この大魔法使いメアリーも、絶対大魔法使いになるために生まれてきたのよ! そうに決まっているわ!」
「同感だ。俺は聖騎士になるために生まれてきたような男だからな。トールが俺達に職業を貸し与えているなんてとても思えない」
「ええ! その通りです! 聡明な僕が外れ職業に選ばれているはずがありません! なぜトールのようなただの荷物持ち(ポーター)が僕たち勇者パーティーにいるのか、理解に苦しみます」
各々が勝手な事を言い始めた。
「お前達、国王陛下に言われた事を忘れたのか? 俺達は五人でひとつのパーティーなんだぞ。一人でも欠けたらだめなんだ」
「今更そんな事。もう結構前の話じゃねぇかよ。俺、思うんだよ。実はトールが俺達に職業を貸しているのなんてただの嘘でさ。本当はこいつ、ただの天職が『荷物持ち(ポーター)だったんだよ!」
「ぷふふっ! なにそれっ! ありそうっ! ありそうねっ!」
「それで、俺達勇者パーティーの功績にしがみつきたいトールが、咄嗟にそんな嘘をついたんだ! 俺達に職業を貸してるって嘘をつけばただの『荷物持ち(ポーター)』でもパーティーに一緒にいられるからなっ!」
「なるほど……そういうわけか。まるでコバンザメだな。勇者パーティーの功績にしがみつき、それで何もしないで利益を得ようとしていたのかこいつは。何とずるがしこいやつだ」
「何もできない外れ職業の『荷物持ち(ポーター)』でも勇者パーティーの一因ともなれば、世界を救った際、英雄扱いされます! きっと多額の報奨金ももらえ、その後の生活も保障されるでしょう! 何もできない無能のトールなりに考えたんですね」
四人は俺の存在価値を疑いはじめ、嘲り始めた。
「ほ、本気で言ってるのかよ、お前ら。俺がそんな嘘をついてまでお前達と一緒にパーティーをやっているのだと」
「ありえそうだぜ! なにせお前の幼馴染はあの王女エミリア様なんだからな。きっと、あの王女様とつり合いを取るために、勇者パーティーの一因としての功績が欲しかったんだ! 世界を救った英雄の一因として、勲章が欲しかったんだろうぜ!」
「なんと浅ましく、見苦しい奴だ。そんな見栄を張ってまで、エミリア王女に気に入られたかったのか!」
「ふざけるな! お前達! いい加減にしろよ! 俺は嘘なんて言ってない! 俺はただの荷物持ち(ポーター)じゃなくて、ジョブ・レンダーなんだ! 俺はお前達に職業(ジョブ)を貸しているんだ! ラカムお前は勇者じゃなくて村人なんだ!」
俺は叫ぶ。
「そんな大嘘はいいから。出てけよ! 荷物持ち(ポーター)。俺達最強の勇者パーティーにただの荷物持ち(ポーター)なんて必要ねぇんだよ」
「その通りだ!」
「そうよ! そうよ!」
「そうです! 僕たち勇者パーティーに荷物持ち(ポーター)なんて必要ないんですよ!」
「くっ!」
ついには、ラカム達は国王の言いつけを破り、俺をパーティーから追い出そうとしたのだ。
「本当にいいのか? 俺はジョブ・レンダーとしてお前達に職業を与えてたんだぞ。お前達は本当はただの外れ職業で……」
「いいから。俺達、最強の勇者パーティーにただの『荷物持ち(ポーター)』なんて必要ないんだよ。出てけよトール!」
自分を本当の勇者だと思い込んでいるラカムは俺にそう告げてくる。
「そうか……わかった。出てくよ。俺は」
俺は出来るだけ説得した。だが、こいつらは聞き入れようともしなかった。
去り際に俺は呟く。そう、俺のジョブ・レンダーとしての能力は一緒にいないと効果が持続しないのだ。距離が離れると強制返却される。
「お前達に貸してた職業、返してもらうからな」
こうして俺はラカム達のパーティーから追放される事となる。
しかし、この時から連戦連勝できていた勇者パーティーは連戦連敗していく。
そして周囲の評価も地の底まで落ちていくのであった。
その時はまだ彼等はその事を想像すらしていなかったのである。
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