【ラカムSIDE】北の洞窟のドラゴン退治に盛大に失敗する

勇者ラカム達は王国アレクサンドリアに来ていた。王国アレクサンドリアには国王とそれから王女がいた。


実情を知らない国王と王女は羨望の眼差しで勇者パーティーを見ている。だが、実情を知ったら途端に失望してしまう事間違いなしであった。


「勇者ラカムのパーティー殿……ん? 何やら一人足りないではないか? どうかしたのか?」


 国王はパーティーが一人減っている事に違和感を覚えたようだ。


「気にしないでください、国王。ただのお荷物を一人追い出しただけです。戦力としては一切の低下もありません!」


 自分がただの村人に成り下がっているなど、思ってもいないラカムは自信満々であった。


「うむ。そうか……。ならよいのだが。実は勇者パーティーの諸君等にお願いがあるのだ」


「お願いですか? どんなお願いでしょうか? 国王様」


「うむ、実はだな。北の洞窟にドラゴンが巣食っているそうなのだ」


「ド、ドラゴンですか!」


「北の洞窟は山を越える通路にもなっていてな。そこにドラゴンがいると貿易をする上で大変不便なのだよ。北部にある国に行く場合、わざわざ高い山を越えなければならない。だが、洞窟にドラゴンが巣食っていてはどうしようもない」


 国王は嘆いていた。


「行商人は何日も余計に時間をかけて、わざわざ山を登って北の国々まで行っているのだよ。我々も冒険者ギルドに依頼をしたりして、討伐をしてもらえるように頼んでいるのだが。如何せん、ドラゴンは強力なモンスターだ。皆、手を焼いているのだ」


「そこで俺達の出番ってわけですね! 国王陛下!」


「う、うむ。頼む、勇者パーティーの諸君、ドラゴンを退治してはくれぬかっ! 他に頼める者もいないのだ! 褒美は十分に出す! 金貨100枚、い、いや、金貨200枚! ドラゴン退治にはそれだけの価値があるのだ」


「やってみせますよ! 俺達勇者ラカムのパーティーが! なぁ! 皆!」


「おう! そうだなっ! 俺達以外にできるパーティーはいねぇよな!」


 ルードは意気込んでいた。


「私の大魔法の出番よね! ドラゴンなんて氷魔法で氷漬けにしてあげるわよ!」


 メアリーも意気込んでいた。


「万が一パーティーに何かあっても、この大僧侶グランが皆さんを一瞬で治療させてみせます! 毒や麻痺などを食らっても、一瞬で治してみせますよ!」


 グランも意気込んでいた。


「う、うむ! では勇者ラカムのパーティーよ! 是非北の洞窟に巣食っているドラゴンを退治してくれ! 期待しているぞ!」


「勇者様……」


 尊敬の眼差しで王女は勇者ラカム達を見ていた。王国一との美少女と謡われる美しい王女であった。彼女に恋い焦がれている国民は多い。


「気を付けていってらっしゃいませ、勇者様」


「ええ。王女様、心配無用ですよ。ドラゴンなんて一ひねりしてきます。はっはっは!」


 こうして勇者ラカム達は北の洞窟へと向かった。


 ◇


「へへっ……あれは間違いないぜ。王女様は俺に惚れてるな」


 ラカムは余韻に浸っていた。


「間違いないぜ。俺には未来が見える。魔王討伐の末に、俺はあの王女と結ばれるんだ。それで俺がアレクサンドリアの国王になる! あの王女様とは何人も子供を作って、幸せな未来を築いていくんだぜ!」


 ラカム達は意気込む。


「僕はきっと大僧侶として、皆から崇められるすごい存在になりますよ」


「俺はそうだな。王国の騎士団長として大陸中に名を知らしめるだろうな」


「私はそうね。世界一の魔女としておそれられる存在になるわ。私の魔法はもう、すっごい威力なんだから!」


 皆が皆、未来を楽観していた。


「よし! いくぞっ! 野郎ども! 北の洞窟のドラゴン退治だ! サクッとやっちまおうぜ!」


「「おう!」」「はーい!」


 こうして北の洞窟に面々は向かう。自分達がチート職業に就いているのはただの仮初のものだったとも知れずに。実際は外れ職業である事も知らずにだ。


 ◇


「へっ。ここが北の洞窟か」


 北の洞窟には『この先ドラゴンが出現! 立ち入り禁止!』という立て看板がされていた。

 ラカム達は北の洞窟に入っていく。


 洞窟内は静かだった。


「なんか不気味ね」


「怖いのか? メアリー」


「そんなわけないじゃない! どんな強力なモンスターが出てきても、私の魔法でイチコロだっての!」


「だよな……ん?」


 ダダ広い空間が洞窟内には広がっていた。そこにはドラゴンが眠っていた。ベーシックなドラゴン。火竜(レッドドラゴン)である。

 物音でドラゴンは目を覚ました。


 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


 けたたましい咆哮が北の洞窟に響き渡る。


「へっ! おいでなさったぜ!」


「さくっとやっちまおうぜ!」


「そうね!」


「何かあっても回復なら俺に任せてください!」


「いくぜ! 大勇者ラカム様の一撃ぃ! 勇者アターーーーーーーーーーーーーーーク!」


 キィン! しかし放った剣はドラゴンの鋼鉄のような皮膚に傷ひとつ付けられなかった。


「ば、バカなっ! ぐわっ!」

 

 ラカムはドラゴンの尻尾で壁にたたきつけられる。


「ぐ、ぐわあああああああああ!!! い、いてええええええええ!!! いてえええよおおおおおおお!!! 死んじゃうよおおおおおおおおおお!!!」


 ラカムは泣きべそをかいていた。


「何をやっている! だらしない! 聖騎士としての俺の剣技を見せてやる! くらえ!! ホーリーストラッシュ!!!」


 キィン! またもやルードの剣はドラゴンに弾かれた。


「ば、バカな!」


 ボワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


 ドラゴンブレス。炎のブレスがルードを襲う。


「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!! あ、熱いいいいいいいいいいいいいいい!!! 死ぬっ! 死ぬっ!」


 引火したルードは転げまわってなんとか、消そうとしていた。


「ば、バカね! 何をやってるのよ! 食らいなさい! フロストノヴァ!」


 メアリーは氷系最上級魔法を放とうとしていた。


シーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!


 しかし何も起こらなかった。


「な、なんで! なんでこんな事が起こるのよ!」


「グラン、俺の傷を癒してくれ! 早く、俺死んじまうよ!」


「わ、わかってます! ヒール!」


シーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!


しかし何も起こらなかった。メアリー同様だ。


「な、なんで何も起こらないんですか! 僕はちゃんとヒールをかけたはず」


「わ、わけがわかんねぇよ!」


 予定外の出来事にラカムは慌てていた。


 ドスン、ドスン、ドスン。


 今なお強大なドラゴンは健在。餌だと思われたのか、睡眠を邪魔されて不機嫌になったのか。虫の居所が悪そうであった。

 今のラカム達にとっては恐怖以外の何物でもない。


「ど、どうするのよ! ラカム! あなたがこのパーティーのリーダーでしょう!」


「くっ! 仕方ねぇ! 撤退だ! わけがわかんねぇけど、死ぬわけにもいかねぇだろ!」


「そ、そうね」


 異論を口にするものはいなかった。こうして、勇者(だと思っている)ラカムのパーティーは結成以来、初めて敵から撤退をしたのである。

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