冒険者ギルドで冒険者として登録する
「トール、これからどうするつもりなの?」
エミリアに聞かれる。王国での一件もあり、俺は幼馴染のエミリアと行動を共にすることになったのだ。
「そうだな。まずは近くの町の冒険者ギルドへ行こうと思うんだ」
「冒険者ギルド?」
「そこで冒険者としてとりあえず活動してみたい。色々な情報も入ってくるだろうし」
「なにそれ! 楽しそう!」
王国でずっと生活していたエミリアからすれば何でも新鮮なのだろう。外界での生活を楽しんでいるようだった。
「おいおい、楽しそうって冒険者は危険な仕事なんだぞ。確かにロマンはあるかもしれないが」
「わかってるわよ。じゃあ、行きましょう。そのリンドって町へ」
エミリアは俺の腕を取った。
「お、おい! 必要以上にくっつくな」
「なんで? 私達幼馴染じゃない」
「幼馴染でもだよ」
「はーい」
エミリアは渋々俺から離れる。こうして俺達はリンドの冒険者ギルドへ向かうのであった。
◇
俺達はリンドの冒険者ギルドに入った。
「いらっしゃいませ! リンドの冒険者ギルドへようこそ」
受付嬢の快活な声が聞こえてくる。
「おい! あの女の子、王国グリザイアのエミリア王女じゃないか!?」
「う、嘘だろ! なんでこんなさびれた冒険者ギルドに!」
「べ、別人じゃねーか?。あんな有名人がこんなところに来るわけがない」
「けど、よく似ているぜ。あの美人で有名な王女様に」
やはり王女であるエミリアは有名人なようだ。最悪偽名を名乗らせるか。今のところはいい。他人の空似で通そう。
「とりあえずはエミリア、俺達は冒険者登録をしようか」
「わかったわ! トール」
俺達は受付嬢の元へ向かう。その時、冒険者たちの雑談が聞こえてきた。
「なぁ、聞いたか?」
「何をだ?」
「何でも北の洞窟にドラゴンが出現したらしいぜ」
「マジかよ。ドラゴンが。それでどうなったんだ?」
「手だれの冒険者たちも匙を投げて、それで王国は勇者ラカムのパーティーに依頼をしたらしいで」
「マジでかよ!! あの勇者ラカムのパーティー!! だったら安心だよな。あいつ等なら何とかしてくれるよ。なにせ今は伝説の勇者パーティーだからな」
事実を知らない冒険者たちは呑気に語っていた。
「何を言ってるのよ! あんな弱っちい連中に勝てるわけないじゃない!」
「お、おい! ちょっと待て! エミリア」
素直なエミリアはついつい本音を口走ってしまう。
「今のラカム達に、ドラゴンなんて倒せるわけないじゃない! 全部トールが力を貸してたおかげなんだから!」
「エミリア、ちょっと黙れ。言っていい事と悪い事があるんだぞ」
「んっぐぐっ!」
俺はエミリアの口を塞ぐ。しかし、時既に遅かったようだ。
「ああっ!? なんだ!! そこの嬢ちゃん。嬢ちゃん! てめぇに勇者パーティーの何がわかるっていうんだ!」
「ん? なんだこの嬢ちゃん、エミリア王女に似ているな……そっくりじゃねぇか」
「何言ってやがる! 王国の王女がこんな冒険者ギルドに来るわけねぇだろ! 他人の空似だ!」
「だよな……」
「ま、待てよ。こいつは見た事があるぜ。なんだ、てめぇは勇者パーティーの腰巾着じゃねぇか!」
冒険者たちは俺の事を知っていたようだ。俺は確かについ最近まで勇者パーティーと一緒に行動をしていたのだから。顔を知られてても不思議ではない。
「へへっ! 無能すぎて、ついにクビにされちまったか! この腰巾着めっ!」
「ひどいっ! トールを腰巾着だなんて! トールにかかったらあなた達なんて一瞬でコテンパンなんだからっ!」
「ちょっと、エミリア、本気お前黙れ。ややこしくなる」
「んっ、ぐぐっ!」
俺は再度エミリアの口を塞いだ。
「てめーが勇者パーティーの腰巾着だったら、なおの事、勇者パーティーの凄さを知っているんじゃねぇか? 目の当たりにしてきただろ。連中の凄さを」
「あいつ等ならきっと北の洞窟にいるドラゴンを倒してくれるはずだぜ!」
冒険者たちは呑気にそう語り続ける。
「それは無理よっ! だってもうパーティーにはトールがいないんだからっ!」
「だから黙ってろってエミリア!」
「んんっ! ぐうっ!」
「へっ。口だけは一丁前じゃねぇか。坊主」
「ま、待て。さっきから俺は何一つ言っていない。言ったのはここにいるエミリアで」
「かかってきなさいよ! ここにいるトールがあなた達の相手をするわよっ! もうコテンパンのギタギタにしてあげるんだからっ!」
エミリアが啖呵を切った。
「黙ってろって!」
「んんっ! ぐぐうっ!」
「なんだと!! ぬかしやがって!!」
「いや! 俺何も言ってないでしょ! 全部エミリアが言ってただけで!」
「うるせえええええ! 連れてる女の不始末はてめぇの不始末だ!」
冒険者達が暴力に訴えてきた。拳で殴りかかってくる。
俺はジョブ・レンダーとしてのスキルを発動させる。
自己貸与(セルフ・レンド)。自分自身に職業を貸すスキルだ。俺のスキル・レンダーとしての使用容量(キャパシティ)は最大四人まで。パーティーの数が3人以下なら、自分にも職業を貸す事ができるんだ。
俺は、『格闘王(モンクマスター)』の職業を自己貸与した。
「な、なに!! ぐわっ!!」
俺は冒険者の拳に逆にカウンターを食らわしてやる。冒険者は一発で昏倒した。
「くっ! 間違いねぇ! こいつ強ええ!」
「勇者パーティーに同行していたのは伊達じゃねぇな。こいつただの腰巾着じゃねぇな」
「だから言ったでしょ! トールはすっごく強いのよ!」
「黙ってろ! エミリア!」
「んんっ! ぐうっ!」
「まだやりますか? 俺はこれ以上の戦闘を望みませんが……」
「くっ……分が悪いな。あっち行くぞ」
「うっす」
男達は伸びた男を連れてその場を去っていった。
「すごい……お恥ずかしながら私も勇者パーティーの中ではあまり強くないなんて話を真に受けていたんですが、実際に彼らも見たからわかります。いまのトールさんは全然彼らより……」
受付嬢の言葉に周りの冒険者が息を呑む音が聞こえた。
ギルドの受付は多くの人を見る眼を持っている。だからこそ、その言葉は重い。
ただジョブレントしていたあいつらより強いは言い過ぎだと思うけど……そう見えたならまぁいいか。俺も冒険者としてやっていけるということだから。
とりあえず話を戻そう。
「もう勇者パーティーはやめたから、新規で登録にきたんだ。登録手続きと一緒に受けられるクエストも欲しいんだけど……Eランクからだっけ?」
「な、なあ!! 聞いたか!!」
その時であった。またもは冒険者達の会話が耳に入ってくる。
「何をだよ!!」
「あの勇者ラカムのパーティー、北の洞窟のドラゴン退治に失敗したってよ!!」
「マジかよ!! 連戦連勝中だったあの勇者ラカムのパーティーがついに!!」
「あいつ等でも失敗する事があったんだな。化け物みたいな連中だと思ったからびっくりしたぜ」
やはり……俺の思った通りだ。
「それじゃあ、受付嬢さん。俺達はEランクの冒険者として登録されるんですよね?」
「え、ええ。規定ではそうなっています。ですがトールさん、我が冒険者ギルドからお願いがあるんです!」
「お願いですか?」
「通常、北の洞窟のドラゴン退治はАランク以上の冒険者でなければ受注できません。しかし、先ほどのお姿を見て、トールさんならきっとドラゴンを倒せると確信しました。どうでしょうか? 特別クエストという事でこのクエストを受けて頂けないでしょうか?」
熱烈に受付嬢が頼んでくる。
「どうする? エミリア」
「トールならきっと大丈夫よ! それに皆どうやら困ってるみたいだし、困ってる人は見捨ててはおけないわ!」
「そうか……わかったよ。受付嬢さん、わかりました。その特別クエストお受けします」
「よろしくお願いします! トールさん! もうトールさんしか頼れる人がいないんですっ! 王国の方も手を焼いているみたいで。ドラゴンを倒せたものは特別な報酬も用意されてるみたいですよ」
こうして俺達はまだパーティーを結成したばかり。Eランクの冒険者パーティーの身ではありながら、北の洞窟にいるドラゴン退治に向かうのであった。
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