邪神ネメシスの脅威

「な、なんだ! こいつはっ!」


「くっ! 貴様! 我がエルフ国に何の用だ!」


 エルフ兵の前に邪神ネメシスが姿を現した。


「邪魔だ、死ね」


「「ぐ、ぐわああああああああああああああああああああああああ!」」


 ネメシスの攻撃でエルフ兵は一瞬にしてその命を絶たれる。見えない力で一瞬でエルフ兵はぐちゃぐちゃになった。


「脆い。弱すぎる。あまりにも。なんだ、エルフとはこの程度の存在だったのか。1000年前に余を封印した存在としては、あまりに、あまりにも弱すぎる」


 ネメシスはエルフ兵など、敵は愚か障害物ですらないとしか思っていなかった。ただただ、蟻が地面を這っている。その程度の認識である。


 次第にネメシスはエルフ城にたどり着く。


「ここか……ここに奴がいるのか」


 ネメシスはエルフ城の門を潜った。


 ◇


「だ、誰だ!?」


「お、お父様、あ、あのお方は!」


 エルフ王と王女セフィリスの前に謎の女性が姿を現す。美しいダークエルフの少女ではあるが、如何せん放っている気が殺気の塊だった。


 人を物としか見ていないような冷徹な目が恐ろしい。眉ひとつ動かさずに殺せてしまいそうで。


「き、貴様はネメシス! やはり目覚めおったかっ!」


「久しぶりだな。エルフ王……あの若造が。1000年の時を経て、随分と立派になったではないか」


 感慨深そうにエルフ王を見やる。


「ほう……娘か。貴様も娘を持つような年になったのだな。まあ、1000年も経ったのだ。エルフともいえども年を取るし。子も持つさ。人間だったら20世代も30世代も経ているような長い歳月だ。本来であったならば」


「ネメシス、な、何の用だ。我々に。我々をどうするつもりなのだ?」


「決まっているだろう。皆殺しだよ。エルフ王。貴様達は1000年前に余を封印してくれたのだからな。愚かな人間達の手によって蘇る事ができたが。うざったい蠅だと思っていたが、あの人間達には感謝せねばならぬなっ。その点だけは」


「くっ! やはりかっ! 人間めっ! 余計な真似をしおってっ! 大方私利私欲で神殿を荒らそうとしたのだろう。人間とはなんと度し難い存在だ」


 エルフ王は憤っていた。概ね間違いない。その通りである。


「お父様……私、怖いです」


 セフィリスは震えていた。


「安心しろ。セフィリス。お前は私が守る」


「随分と吠えるじゃないか。そこをどけっ。エルフ王」


「ぐわっ!」


 邪神ネメシスの言葉はいわば呪言である。言葉自体に強制力がある。エルフ王の意思とは関係なく体が動きだした。

 エルフ王は娘――王女セフィリスから強制的に離される。


「お、お父様」


「良い事を想いついたぞ、エルフ王。最高の復讐を。お前の目の前で実の娘がいたぶられながら死んでいく様を見せてやろう。その上で貴様をじっくりと殺してやる」


 何とも悪趣味な提案だったが、ネメシスは飄々と告げる。


「な、なんだと! ふ、ふざけるなっ! そんな事させるわけにはっ!」


「貴様の意思など関係ないよ。力なきものは無力なんだ。これは万物の真理みたいなものであろう。それでは行くぞ」


 ネメシスの手に魔力が帯びる。鋭利な刃物のようになった。


「良い声で鳴けよ。小娘。ゆっくりと切り刻んでやるからなっ。くっくっく」


「い、いやっ!」


 セフィリスの悲鳴がエルフ城に響き渡る。


「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 キィン!


 しかし、セフィリスの目の前でネメシスの手刀が弾かれた。白い聖なる光の壁で彼女は守られたのである。


「ちっ! 何奴だ! 余の愉しみを邪魔にする奴はっ!」


 そこに現れたのは二人の人間だった。少年と少女である。


「そこまでにしてくださいっ! 私とトールがこの場に来たからには一切の悪行を断じて許すつもりはありませんっ! 邪神さん!」


 少女が宣言する。


「ちっ!」


 ネメシスが舌打ちした。


「エミリア……覚悟しておけ。こいつ、やはり邪神を名乗るだけあって相当強いぞ」


 少年が告げる。


「舐めるな! 人間! 10年かそこらしか生きていない小童と小娘がああああああああああああああああああああああああああ!」


 キィン!


 少年の持っている剣とネメシスの手刀がぶつかり合い、けたたましい音を奏でた。


 こうしてエルフ国を舞台にした激しい闘いが繰り広げられる事となる。

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