エルフの国での出来事

 エルフ兵たちが森の周辺を見回っていた時の事であった。


「ん? なんだ? あれは?」


 神殿の方から無数の怪物がエルフの国に向かって襲い掛かってきたのである。しかもそのモンスターは通常見ないようなモンスターだ。


 太古に存在し、そして封印されていたとされる強力なモンスター。数は多いが、そこらへんの雑魚モンスターとは異なり、侮れない存在である。


「う、うわっ! なんだあのモンスターは!」


「もしかして、神殿に封印されている邪心が放たれたのか!」


 見回りをしていたエルフ兵は大慌てだ。


「敵襲! 敵襲だ!」


「み、皆に危険を伝えにいくぞっ! これはこのエルフ国の存続に関わる大問題だっ!」


 エルフ兵は大慌てで国に戻っていった。


 ◇


 エルフ国。エルフ城。深緑の森にあるエルフの国は天然の守りにより守られている。

 結界により視覚を誤魔化し、その上で防御用結界も張り巡らされている。だが、それでも完全というわけではない。

 居所を見抜かれれば防御用結界も突破される事もあるだろう。それだけの力のある存在であれば可能だ。

  

 そう、例えるならあの邪心ネメシスであれば決して不可能ではない。


「お父様、私怖いですわ」


 ラフィリス。黄金の髪をした美しい少女ではあるが尖った耳からわかるように彼女は人間ではないエルフだ。

 

 エルフ国にいるのだから当然といえば当然だが。


「案ずるな。ラフィリス。このエルフ国は、お前は私が守る」


 国王は言った。国王とは言ってもエルフなのでかなり容姿としては若い。せいぜい、20代~30代程度。中年ではなく、青年といったところで通用しそうな程だ。


 娘の手前強がってはみせたが、国王もまた不安ではあった。なぜなら見た目とは生判定に実年齢自体はそれなりに長いのだ。


 長年で培った叡智があった。その中で、邪神に対する知識もあった。あれは魔王程ではないが、それなりに恐ろしい存在であったのだ。


「くっ……な、なぜだ。なぜ、今になって邪神の封印が解かれた」


 国王は訝しんだ。


「まさか、バカな人間が私欲を満たすために神殿に足を踏み入れたのか。ありうる話だ。愚かな人間め。本当にどうしようもない。救いようもない連中だ」


「国王陛下! 神殿の魔物が襲い掛かってきていますっ! さらには邪神ネメシスが目覚めたようですっ! 遥か後方にその姿も確認されましたっ!」


「くっ! やはり邪神は目覚めたのだなっ!」


 飛び込んできたエルフ兵の言葉で国王は確信を持つ。邪神の目覚めを。


「お、お父様、ど、どうされるのです?」


 ラフィリスは困惑していた。


「心配するな。ラフィリス。このエルフ国には二重の結界がある。しばらくは持つであろう」


 だが、あくまでもそれは邪神のような別格の存在がいない場合だけだ。高い知能と魔力を兼ねそろえた存在であれば、視覚用結界。防御結界。両方突破される事は十分考えられる。そしてそれにかかる時間はさほど多くない。


「国王陛下! 我々はどうすればっ!」


「防御結界が突破された場合、エルフ兵を全軍出現させろっ!」


「はっ!」


「それから不本意ではあるが人間に援軍を頼むのだ。恐らくは愚かな人間が邪神の封印を解いたのだっ! 尻ぬぐいをさせろっ!」


「はっ! わかりましたっ!」


 こうしてエルフ国は援軍を人間国に要請するのであった。かくして国王の予想通り、防御結界はさほどの時間を置かずに破かれる事となる。


 ◇


「ふふん……視覚用の結界が張ってあるわね……けどそんなもの、この魔眼持ちのネメシス様には関係ないのよっ!」


 ネメシスは見るなり、視覚用の結界に気付いた。普通だったら気づかないであろうがネメシスのような魔眼持ちに嘘やごまかしは通用しない。


 ネメシスの力により、結界が破壊される。


「ふふっ……エルフの民。1000年前は随分な扱いをしてくれたじゃないのさ。ねぇ」


 ネメシスは封印された1000年前の事を恨んでいた。その封印に一役買ったのが高い魔力を持つエルフ族である。


「さてとっ! じゃあ……次は? ん?」


 ネメシスは防御結界を見つける。防御用の結界なので誰でも見えるようにはなっていた。

 無色透明な光の盾が、エルフ国を必死に守っている。だが、そんなものネメシスにとっては紙細工にすぎない。


「無駄よっ! はっ!」


 ネメシスは防御結界を斬り裂いた。力任せに。そもそも魔力(ちから)が違うのだ。どんな守りであってもそれ以上の圧力を受けたら決壊する。自明の理である。


「それじゃあ、エルフ国にお礼参りと行きましょうか」


 ネメシスは舌なめずりをする。


「殺戮劇の始まりよ」


 そう、これは戦闘ではない。蹂躙である。始まるのは戦争ではなく、殺戮である。


 それほど邪神の力は絶大なものであった。最初から勝負になっていないのだ。

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