「君、勇者じゃなくて村人だよ」職業貸与者《ジョブ・レンダー》~パワハラ勇者達に追放されたので、貸してたジョブはすべて返してもらいます。本当は外れ職業と気づいて貸してくださいと泣きつかれても、もう遅い!
【ラカムSIDE】神殿に封じられていた邪神を目覚めさせる
【ラカムSIDE】神殿に封じられていた邪神を目覚めさせる
「ここが神殿か……」
勇者(だと自分で思っている)パーティーのラカム達は邪神が封じられている神殿にたどり着いた。
「なんか雰囲気あるぜ」
「だな」
「ええ。けど今の僕達ならやれるはずですよ! 昨日の自分と今日の自分は違うはずです! 本来の力を取り戻しているはずですっ!」
「ええっ! きっとそうよっ!」
四人は呑気だった。
「俺は思うんだ。勇者っていうのはきっと特別な存在。これも何かの伏線なんだ」
ラカムは語り始めた。
「「「伏線?」」」
「ああ。聞いてくれ。仲間のピンチ、そして自分のピンチ。極限まで追い詰められた俺は封じられていた力を覚醒するんだ! そしてその力で敵をバッタ! バッタ! と薙ぎ払い! そしてお前達、仲間を助けるんだよ!」
「「「おお~」」」
「ありそうねっ!」
「ええ! ありそうです! ありそうな展開!」
「俺も聖騎士ではなく、超究極聖騎士になるかもしれんなっ! がっはっはっはっはっはっは!」
四人は呑気だった。都合のいい妄想を並べていた。
「それでフィオナ姫はトールじゃなくて俺に惚れ直すんだ。えへへっ」
以下。ラカムの妄想。
「勇者ラカム様。いえ、大勇者ラカム様」
フィオナ姫が寄り添ってくる。
「ど、どうしたんだ、フィオナ姫。やっぱりトールなんてお荷物じゃなくて、俺の真なる魅力、真なる強さに気づいたのか」
「は、はい。お慕い申しておりますわ。ラカム様は私と結婚して、国王になるんですの。それで……今夜は私と――」
フィオナ姫は顔を赤くして、目をそらした。
「へへっ。可愛い子猫ちゃん。今夜は寝かさないぜ」
「は、はい。ラカム様。覚悟しておりますわ……」
二人は見つめ合い、そして――。
ラカムの妄想は終わる。
「むふふっ! むふふっ! 夢が広がるぜっ!」
ラカムは能天気な笑みを浮かべる。
「行くぜ! 野郎どもっ! 俺達の本来の力を存分に発揮するんだ!!」
「おおっ!!」
こうして四人は邪神が封じられた神殿に入っていった。
本当はその本来の力なんていうものは微塵も存在せず、今の実力が本来の実力なのであるが。悲しい事なのか幸いなのか、四人はその事を知らなかった。
◇
「へっ。ここが邪神が封じ込められた神殿か」
ラカム達は歩きだす。
「なんだ、なんてことねぇじゃねぇか。敵も特段でてこねぇしよ」
ラカム達は呑気に歩いていた。
――と、ドスン、ドスン、ドスン! 音がした。
「な、なんだこの音は!」
敵はいなかったのではない。大きすぎて見えなかったのだ。ラカム達の前に巨大なゴーレムが姿を現す。
「「「「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああ」」」」
ラカム達は絶叫をあげた。
「あ、慌てるなっ! ここで俺の真の実力がっ! ひ、ひいっ!」
巨大な足の裏がラカムを押しつぶさんとする。踏みつぶされて死んでしまえば真なる力もくそもない。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ラカムは無様に逃げ出した。
◇
「「「「はぁ……はぁ……はぁ」」」」
四人は命からがら、ゴーレムから逃げ出してきた。ラカム達は神殿の最奥部まで到達する。
四人は逃げ足だけは早かったのだ。
「な、なんだ……。何とかなったか」
「見てください! ラカム! レアそうなアイテムですよっ!」
不気味な光を放つ黒い宝玉がラカム達の目の前にはあったのだ。
「へへっ! こいつはきっとレアなお宝だぜ! きっとあの成金貴族も喜ぶに違いないっ!」
ラカムはその黒い宝玉を手にとった。
「う、うわっ!! な、なんだ、この光は!」
黒い光が周囲を照らす。
そこに現れたのは美しい少女であった。褐色の肌をした少女。所謂ダーク・エルフと呼ばれるような種族だった。
「な、なんだっ! このダーク・エルフはっ!」
「久方ぶりの目覚めだな……愚かな人間よ。我の名はネメシス。1000年前に魔王様に仕えていた存在だ」
少女は笑う。美しい少女ではあるが、あまりの威圧感に、ラカム達は押されていた。
「ま、まさかっ! こいつは1000年前に封じられていた邪神かっ!」
「邪神か。余をそう呼ぶ者もいたな」
「へっ! 上等だっ! あの貴族の依頼よりももっとでかい手柄をとってやるっ! 勇者アタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアク!」
「目触りだ、蠅」
「ぶ、ぶばぁ!」
触れる事もできずに、その一言でラカムは吹き飛ばされた。
「ラカムっ!」
「く、くそっ! なんでだっ! なんで俺の封印された力が目覚めねぇんだっ! 俺は勇者なのに!」
「弱すぎて殺す気にもならん。蠅め。何が勇者だ。戯言も大概にしろっ!」
「そんなっ……くっ」
眼中にない様子でネメシスは歩きだす。そして神殿の外へ出ていった。
「ち、ちくしょうっ! な、なんでこんな事にっ!」
こうしてラカム達の暴挙により、邪神は目覚めてしまったのであった。
「そうだな……手始めにエルフの国でも滅ぼしてやろうか」
ネメシスは笑う。神殿に眠っていた、多くのモンスター達が目を覚ましはじめた。
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