邪神討伐クエストを受注する

「へくしゅっ!」


 俺はくしゃみをした。


「どうしたの!? トール風邪!! ちゃんと寝なきゃだめよ!! 私が看病するから」


 エミリアがそう心配してくる。


 俺達は今、王国アレクサンドリアの冒険者ギルドにいた。Bランクの冒険者になったという事で、大分活動の幅が広がっている。今では大抵のクエストなら受注できるようになっていた。


 俺達は冒険者としてクエストをクリアする毎日を送っていた。


 そんな日常を過ごしていた時の事だった。


「お、おい! 聞いたかっ!」


「ああっ!! 聞いたぜっ!」


「なんでもエルフの国近くの神殿に封印されている邪神が目覚めたらしいんだ!」


「邪神ってあれだろ!! 全盛期の魔王がいた1000年前に大暴れしていた恐ろしい化け物なんだろっ!」


「な、なんでそんなもん目覚めちまったんだよっ! 恐ろしいな」


 冒険者達の会話が聞こえてきた。


 やっぱりか。さっきのくしゃみ。嫌な予感がしていたんだよな。もしかしたら、大方どこかの勇者パーティーがやらかしたに違いない。実際のところ勇者パーティーではなく、村人率いる道化集団だと俺だけが知っている。


「じゃ、邪神ですって!! 大変じゃないっ!」


「そうだな」


「あら。あなたがトールさん」


 受付嬢が声をかけてきた。色っぽい受付嬢だ。グラマラスで妙に露出が多い。胸元が強調されている。


「むっー! トール! おっぱいばっかり見ないでよっ!」


「み、見てないよっ!」


「そ、そんなに見たいなら、後で私の見せてあげるから」


「えっ? なんだって」


 ぼそぼそと言ってくるもんで聞こえてこなかった。


「な、何でもない、なんでもっ!」


 エミリアは顔を真っ赤にして頭を振った。


「聞いたわよ。あなた達、北の洞窟のドラゴンを倒したそうね」


「え、ええ。まあ」


「評判よ。とんでもないルーキーが現れたって」


 実際のところはルーキーではなく、あの勇者ラカム率いるパーティーに在籍はしていたが。


「え、ええ……まあ」


「ねぇ、あなたにお願いがあるの」


「だ、だめよ! トール! トールには私というものがあるんだからっ! そんなおっぱい女の誘惑に乗っちゃだめよ!」


 エミリアが騒ぐ。


「頼むから黙っててくれ。エミリア、多分。これ真面目な話だ」


「ギルドマスターがお呼びなのよ。マスタールームまで来てくれない? そこで大切な話があるの」


「ギルドマスター!?」


 王国アレクサンドリアの冒険者ギルドにも、当然のようにギルドマスターはいるのか。


「来てくれないかしら」


「え、ええ。行くだけなら構いませんが」


「こっちよ」


 俺とエミリアは受付嬢についていく。


 ◇


 そこには美しい女性がいた。いかにも戦士風の凛々しい女性だ。やはりギルドマスターと言っても男ばかりとは限らないようだ。


「私がこの冒険者ギルドのギルドマスターだ」


「なんでしょうか? ギルドマスターさん」


「トール君とエミリアさんだな。話は聞いているよ。なんでも、北の洞窟のドラゴンを二人だけで倒したそうだな。俄には信じがたいが、それは本当なのか?」


「トールはすっごいんだからっ! ドラゴンなんてちょちょいのちょいであっと言う間だったのっ!」


 エミリアは主張する。


「おい。エミリア。出しゃばるな。恥ずかしいだろ」


「そうか。どうやら本当のようだな。五人がかりでも倒すのが難しいドラゴンを二人でなんて。君達になら安心して頼めそうだ。話には聞いているだろう? 邪神が目覚めたそうだ」


「邪神……エルフの国近くの神殿ですよね」


「ああ。エルフの国からも救助要請が出ている。邪神が目覚めた事で中にいる強力なモンスター達がうじゃうじゃと出始めてな。とても手に負えないそうだ」


「そんな事が……」


「君達に特別クエストを頼みたい。その邪神の討伐だ。報酬はそうだな。まずはАランクまでの昇格は保証しよう」


「Аランク……」


「それと、やはり金か?」


「い、いえ。結構ですお金は」


 もう十分、金なら貰っている。これ以上あっても使いきれそうにない。


「なんだ? だったらあれか? ……君は私の身体でも要求するつもりか? 真面目そうな顔して結構すけべぇだな」


「なっ!?」


 ギルドマスターはわざとらしく胸元を主張してくる。露出の高い服で、今すぐにでも零れ落ちてきそうだ。


「ちょ、ちょっと! トールあまりジロジロ見ないでよ! 後で私のを見せてあげるから!」


 エミリアは顔を真っ赤にして主張する。こいつ、何言ってるんだ。


「な! だから見てないって言ってるだろ! ジロジロなんて!

!」


「なんていうのは冗談だ。聞き流してくれ。そうだな。やはり賞金は渡そう。義務だからな。金貨200枚」


「だ、だめですっ! そんなにお金を渡されたら家政婦を雇い放題になって、主婦として私がだめになっちゃいますっ!」


 だからエミリア。こいつはさっきっから何をやってるんだ。


「これは義務だからな。それと、こいつを渡そう」


 短剣を渡される。なんだ、これは。


「こいつは報酬の前払いだ。魔封じの短剣。邪神のような闇属性の奴に効く、短剣だ。こいつを使うがいい。まあ、使える状況まで追い込まなければならないがな」


「ありがとうございます」


 俺は魔封じの短剣を胸元に入れる。


「それで、その短剣を受け取ったという事は依頼を受けてくれるって事なんだろう?」


「ええ。まあ、そうなりますね。やはり邪神は放っておけない。それにエルフの国も気がかりです」


「流石トール! なんだかんだで私達も助けてくれたし、優しいのねっ」


「よせ、エミリア。照れるような事いうな」


「それでは、目覚めた邪神の討伐クエストを頼んだぞ」


 俺はギルドマスターに頼まれる。


 こうして俺達は邪神が封じ込められた神殿。エルフの国の方を目指して旅立ったのだ。


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