第25話・スロスの煩悩が全開する【前編】

「アイドルを引退したらケルちゃんのことを思い出しちゃってね。きゃは♪」


「ガウガウ!!」


「ソリッドの餌代で破産しそうだね?」


「ガウ!?」


「ちょっと!! スロスも可哀想なこと言わないの!! 確かに遠吠えがご近所迷惑になりそうだけど、じっくりと見れば可愛いじゃないのよ!!」


「ガウ……」


 イラが俺に文句を言う。


 だけど君の方が酷いからね? じっくりと見ないと可愛くないんでしょ?


 ほら、ソリッドが落ち込んでるじゃない。


「にゃはは。実際のところ、ケルちゃんの見た目はブッサイクだから。きゃは♪」


「ガウ……」


 まあちゃんの言葉がトドメになったな。ソリッドの体が透けていく。


 え? 透ける?


「ソリッドが透明になっていく?」


「ああ、ケルちゃんの固有スキルだよ」


「おい!! ソリッド、お前を解剖しても良いか!?」


「ガウ!?」


 俺はソリッドに詰め寄って大声で話しかける。


 だが、それは仕方がない。何しろソリッドには男のロマンが詰まっているのだから!!


「お前の透明化スキルがあればイラの入浴シーンの覗きを監視アイテムに頼らなくて済むんだ!! ソリッド、俺の夢の前進に協力してくれ!!」


「スロスーーーーーー!! あんた、今言ったわね!? 私の入浴をガチで覗いてたって言ったわね!?」


 イラが俺の肩を掴んで離さない。だが、そんなこと知るか!!


「ソリッド!! 後生だ、……俺に夢を与えてくれ!!」


「スロス、あんたって奴は。……ケルちゃんに土下座するの止めなさいよ……」


 イラが俺の土下座にドン引きしている。だが、それも知るか!!


 今この時、俺は全カロリーを消費するだけの価値がある存在が目の前にいるんだ!!


「ガウガウガウ」


「え? うんうん、……本当にそのまま伝えて良いの?」


「ガウ!!」


 ソリッドの言葉をイラが通訳している。


「ねえ、スロス……」


「イラ!! ソリッドはなんて言ったんだ!?」


「えっとね……、『同志に力を貸したいのは山々だけど、透明化スキルは強力な呪いだから生きてる人間にはリームー』だって」


「じゃあ俺が死ねば良いだな? 俺が死ねばイラの入浴を堂々と覗けるんだな!?」


「あんたは覗きと自分の命のどっちが大事なのよ!! て言うか、そもそも覗くな!!」


 俺はソリッドにしがみ付いて泣きじゃくる。そしてイラが俺の頭を引っ叩く。


 魔王城の墓場は想像以上に混沌とし始めた。


 だが、この状況をまあちゃんの一言が一変させる。


「スロスちゃん、必死なところ申し訳ないんだけど。そろそろケロちゃんを連れて行きたいの。きゃは♪」


「まあちゃん!! 待ってくれ!! 俺の心の友を連れて行かないで!!」


「ガウガウ!!」


「スロス!! 良い加減にしないとぶっ殺すわよ!!」 

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