第24話・魔王たちの歴史
「ほお……」
思わず見惚れちゃったよ。めんどくさがりだって感動するからね?
「凄い……。これが歴代魔王達の墓地なの?」
イラが感動しているらしい。
密閉された空間にも関わらず、どこからか月夜のごとく光が差し込める部屋。
時折見せる儚い七色の発光が人の心を掴んで離さない。
「きゃは♪ まあちゃんも墓地に初めて来ちゃった」
「え? そうなの?」
まあちゃんは元魔王なのに、ここに足を踏み入れた事がないんだ。
こんなにも幻想的な空間なのに勿体無い。
「うん。だってお墓参りってつまらないし。きゃは♪」
「そうだよね? お墓参りって、お供物をパクるくらいしなやることないよね?」
実際、お墓の前で手を合わせても人が生き返るわけではないしね。
「スロス……、あんたって頭の中どうなってるの?」
どう言うわけかイラが俺に憐みの目を向けてくる。
「え?」
「あんた、脳みそまで浮遊させてるの?」
イラも失礼な。このメイガスのスロスの脳みそは世界の宝だぞ?
「イラッとしちゃった。えい」
「きゃああああああああ!! 唐突に人の胸を触んな!!」
「へぶし」
イラに思いっきりぶん殴られちゃった。
「ああ、いっけない!! またスロスを殺しちゃった!!」
イラが慌てふためく。でも大丈夫。イラが蘇生させてくれるし。
それに俺は幽体とその意識を浮遊させることができるから。
俺は死んでいる間も意識を保つ事ができるのだ。
俺を殺すとイラが慌てふためく。
だけど不思議なものだ。イラが蘇生魔法を覚えるまで、俺は一度として死ななかった。
それがイラが蘇生できる様になった途端に死亡回数が増える。
当の俺は死んでも生き返れるからと容赦なくセクハラを繰り返す。
「イラちゃんってスロスちゃんに手加減しないよね? きゃは♪」
「うーん、なんて言うかスロスに対しては殴る時に無意識でメリケンサックを装着しちゃうのよ」
マジで!? イラって恐ろしい女の子だよね?
「もう……この者の死を拒絶する。……『レイズ』」
イラの蘇生魔法で俺の意識が強制的に体内に戻っていく。若干だけど、イラは不貞腐れながら蘇生魔法を使ってるんじゃないか?
「イラ、成長したね? グッジョブ」
「だから生還して早々にセクハラ発言すんな!!」
「ちぇっ」
「二人は見てて飽きないよね? きゃは♪」
倒れている俺の顔をまあちゃんが覗き込んでくる。
うん、まあちゃんが屈んでくるから揺れるんだよね? ボンキュッボン!! のボンがね。
平たく言えば胸が揺れるんだ!!
無意識で俺の視線と心が揺れちゃうよ。きゃは♪
「で、まあちゃんは何でお墓に来たかったの?」
「にゃ?」
「スロス?」
二人が俺に怪訝な顔を向ける。
だが俺だって何も考えてないわけじゃないんだからね?
「ここで何かが起こる。それを対処するために俺たちを連れてきたんでしょ? いくら師匠の紹介でも初対面の俺たちに、普通は魔王城の墓地まで案内しないでしょ」
魔王は死してまで人間の前に晒されたくないだろうからね。
「うわあ……、スロスが名探偵っぽいことしてるんだけど。似合わないわあ……」
イラが顔を痙攣させている。
本当にイラはとことん失礼だよ。俺だって、お墓に到着してから興奮を抑えられないんだよ。
何しろ歴代魔王達の墓標が浮遊しているんだから。あれがおそらく……。
「まさか歴代魔王たちの墓標そのものが浮遊石だったなんて」
何度でも言おう、俺は感動している。
まあちゃんが墓地と呼ぶ部屋に墓標が漂い、それらに光が当たり一面に反射する。
幻想的な空間を彩るんだ。
「スロスちゃんって、スッとボケてるけど油断できないにゃ。きゃは♪」
まあちゃんが俺の後ろから話しかけてくる。
「それでも、この後はどうするの?」
「うん。ケルちゃんを連れて行きたんだ。きゃは♪」
「ワオーーーーーーン!!」
部屋の片隅でお座りをするソリッドが遠吠えをしている。ソリッドを連れて行きたかったってどう言う事?
「まあちゃん、ケルちゃんってお墓の番犬じゃなかったの?」
「イラちゃんの言う通りだよ。でも私が魔王と引退してから数年間も一人ぼっちにさせてたから。きゃは♪」
「はっはっはっはっは」
ソリッドが舌を出しながら呼吸を荒げている。
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