第21話・スロスはゲーマーだった

「ケロ助」


「ケロ吉」


「うーん、けろけろけろっぴー」


「スロス、それってカエルじゃない?」


「モンスターの名前を決めるのって難しいね」


 俺とイラは手懐けたケルベロスの名前で揉めている。


「ガウガウ!!」


「え? ……スロス、この子が言うにはね」


「うん?」


「もう名前があるんだって……」


「そう言うことは先に言ってくれない? お前の名前はタマで良いや」


「ガウ!?」


 俺とイラはケルベロスの名前を決めるのに、どれだけ時間を費やしたことか。


 ちょっとだけイラッとしちゃったよ。俺のカロリーを返せ。


「ガウガウ!!」


「え? うんうん、……ええ? スロス、この子が尻尾の蛇に名前を付けてくれって」


 イラがケルベロスの通訳をしてくれる。


 と言うかイラもサーカスのバイトだけで、ここまで自在にモンスターと会話できるようになるなんて凄いな。


 そう言えばイラがサーカスのバイトを辞める時に揉めたと言っていたな。


 サーカスの団長からの引き留めが凄かったって。


「蛇はやる気が出ないなー。だって爬虫類でしょ? カロリーの無駄」


「ガウウ!?」


「ちょっと、スロス!! この子、落ち込んじゃったじゃない!!」


「ええ? めんどくさいモンスターだな」


 名前を考えるのだってカロリーを消費するんだからね? 


「スロス!! この子が可哀想でしょ!? 私たちを背中に乗せて道案内までしてくれてるのに!!」


「ガウガウガガウ!!」


 イラが俺を責めてくる。その上、モンスターまで調子に乗りやがって……。


「イラッとしたから適当に考える。……お前はソリッドだ」


「ガウ!?」


 ソリッドが奇妙な鳴き声を上げる。


 ふん、犬畜生の分際でメイガスのスロス様に楯突いた報いだ。


「スロス、因みに……理由を教えてくれる?」


「尻尾がスネークだから。ソリッド・スネーク」


「ばっかじゃないの!? スロスってば、ネーミングセンス最悪よ!!」


 イラだってネーミングセンス死んでるでしょうが?


「イラの考えた名前をもう一回だけ言ってくれる?」


「え? ガウって響きが可愛くない?」


「ガウガウ!!」


 なんだよ。二人して俺を責めるないでほしいな。


「やる気が無くなったからイラがサーカスでバイトしてた時に撮った写真でも拝むか」


「へ? スロスってば、そんな写真撮ってたの?」


「うん。これ」


「って!! きゃああああああああ!! スロス、あんたは何て写真を撮ってるのよ!!」


「イラがバニー姿で客引きしてた時にコソッと……」

 

 突然イラが暴れだす。彼女は俺から写真を奪おうとしているのだ。


 イラも無駄なことするよね?


「って!! スロス、写真を浮遊させんなあああああ!!」


 俺が写真を浮遊させるとイラが必死になって手を伸ばす。


 高速移動しているモンスターの背の上でイラも良くやるよね?


「イラ、ソリッドの背中から落ちちゃうよ?」


「うっさいわね!! こんな写真を後世に残せるもんですか!!」


「データも残してあるよ? デジカメは俺の部屋にあるし」


「スロスううううううう!! デジカメをよこしなさい!!」


 イラが必死になって俺の胸ぐらを掴む。何度でも言おう。


 イラの顔が至近距離すぎてムラッとするんだよね。


「やだよ。あれは永久保存ものだから。パソコンにもバックアップ取っちゃったから」


「人の醜態をクラウドで保管してるんじゃないわよ!! って、きゃああああ!!」


 突如としてケルベロスの動きが止まった。


 もしかして道案内が完了したのだろうか?


 イラがケルベロスと会話を始める。


「うんうん……、え? ご主人様?」


「イラ、何かあったの?」


「スロス、この子のご主人様が近くにいるんだって」


「で?」


「そのご主人様のところに行きたいって。どうする?」


 めんどくさいけど、俺はこいつの背に乗っかっていれば良いのだから。勝手にすれば良い。


「好きにすれば? 俺は目的地に着くまで寝てるから」


「ガウガウ!!」


 嬉しそうなケルベロスの鳴き声が地下通路に響き渡っている。

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