第20話・アヴァにまあちゃんの口癖が移る

「どうなってんだ?」


「きゃは♪ 何がかにゃ?」


 アヴァは後ろを振り向いて呟く。


「いやさ、どうしてモンスターたちが、ずっと俺たちの後を付いて来るのかなと思ってさ」


「気にしなくて良いよ? あの子たちは私のファンだから。私はファンの子達を差別しないもん!! きゃは♪」


 アヴァは再び後ろを振り向く。その視線の先にはアンデットが長蛇の列を形成している。


「まあちゃんのプロ根性は素晴らしいけど……これは冒険者としては……良いのか?」


「大丈夫だよ!! アヴァっちは心配性だな〜。きゃは♪」


「だよねー? 俺ってチキンハートだからさー、まあちゃんのキューティクルさは世界を征服できちゃいそうだね!! きゃは♪」


 アヴァにまあちゃんに口癖が移った。


 彼も、とうとうまあちゃんワールドに足を踏み入れてしまった。


「んでんで、アヴァっちは何をしに魔王城にきたのかにゃ? きゃは♪」


「普通にクエストだよ? きゃは♪」


「どんな内容かにゃ? きゃは♪」


 まあちゃんが首を傾げる。


「そこはあれだ。冒険者同士の暗黙のルールって奴だろ? どんなクエストを引き受けたかは聞くものじゃないよ。まあちゃんはビギナー冒険者だから知らないと思うけど、気をつけた方が良い。きゃは♪」


 冒険者には互いに引き受けたクエストに干渉しない、という暗黙のルールが存在する。


 アヴァはまあちゃんに注意を促す。


「そんにゃ固いこと言わずに!! きゃは♪」


「だよね〜!! ここだけの話なんだけど、魔王城にケルベロスが住み着いてるらしいんだよ。きゃは♪」


 アヴァはまあちゃんに屈してしまった。


「ケルベロス? それって大きい奴? きゃは♪」


「うん!! とっても大きい奴!! 俺は、そいつの討伐クエストを引き受けたんだ!! きゃは♪」


「…………。きゃは♪」


「ん? まあちゃん、どうしたの? きゃは♪」


 まあちゃんは意味深な表情を浮かべて口を閉じる。


「な〜んでもないにゃ。きゃは♪」


「そっかそっか。……でも。きゃは♪」


「アヴァっち、どうしたにゃ? きゃは♪」


「うん、……まあちゃんに付いてくるファンたちが増えすぎじゃないか? きゃは♪」


 アヴァが三度後ろを振り向く。


 その視線の先にはすでに1000体を超えるアンデットたちが列を形成してる。


「大丈夫だよ〜。きゃは♪」


「そうかな? もう魔王城にいるアンデット全てが付いてきてるんじゃないの? きゃは♪」


 さすがにアヴァも後ろに列を成すアンデットたちを無視できなくなっていた。



 アヴァは列の最後尾を視認できない。この光景は上級冒険者として見過ごせないのだ。


「この子たちは私の元配下だからにゃ〜。にゃはは。きゃは♪」


「え? まあちゃん、今何か言った? きゃ…………は?」


 アヴァはまあちゃんの方を振り向き直した。すると彼は思いもよらない光景を目撃した。


「きゃは♪ アヴァっちには一足早くファンサしてあげるにゃ」


 まあちゃんの拳がアヴァの腹を貫いていた。


 アヴァの腹から滴る鮮血にニヤけるまあちゃん。


 まあちゃんの表情を見ながらアヴァは地面に膝を付ける。


「これが……まあちゃんのファンサ? 病みつきになる〜、きゃは♪」


 まあちゃんはアヴァの腹から拳を抜き取った。


 するとアヴァは前のめりになって地面に倒れ込んでいく。


「きゃは♪ アヴァっちには悪いけどケルちゃんを討伐させるわけにはいかないのにゃ」

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