第22話・スロスのボケはマニアック

「ん?」


 俺は違和感を感じ取った。


「スロス? どうしちゃったの?」


「……オートモードが切れちゃった」


「……あんた、いつの間にオートモードに切り替えてたの?」


 イラが呆れた様子を見せる。


「ソリッドを捕獲してから」


「ガウ!?」


「え? うんうん、……スロス、この子がソリッドって呼ぶなって言ってるんだけど」


 知るか。人に無駄なカロリーを使わせておいて。


 今の俺はイラッとしたり、ムラッとしたり。精神状態が安定しないから余計なことを言うと痛い目に見るぞ?


 だけど小一時間も背中に乗ってると、いくらモンスターでも愛着は湧くよね?


「おい、カロリーメイト食べるか?」


「スロス……、そのボケはダメよ? 私でも付いて行くので精一杯だから」


 イラが呆れた様子を見せる。


「ええ? 潜入ゲームの鉄板ネタなんだけどな」


「その潜入ゲームが分からない人がいるって言ってるの!! だから私のお尻を撫で回すななああああ!!」


「カンチョー……、スウ」


「きゃああああああああ!! 女の子にカンチョーするな!! そして滑らかな流れで寝るなあああああ!!」


 イラもセコイよね?


「お尻なんて減るものじゃないじゃん」


「妙な言いがかりをするんじゃないわよ!! って、……ん?」


 イラの様子がおかしい。何かあったのかな?


「どうしたの? 俺はもう限界なんだけど。一生分の会話した気分だよ、それに眠い……」

「あんた、冒険者として終わってるわよ?」


「ガウガウ!! ワオーン!!」


 ソリッドが雄叫びを上げている? 急にどうしたんだよ、うるさいなあ。


 俺は目を擦りながら前方に視線を送る。すると人影を見付けた。


 あのボンキュッボン!! は、もしかして?


「スロス!! あれって、まあちゃんじゃないの!?」


「そだねー。おーい、まあちゃーーーーーん」


「あんた……、急にテンションを上げてきたわね?」


「……」


「スロス!! だからプレートで会話すんな!! 何よ、『イラに不足しているものが、まあちゃんにはある』って!! 私に足りないものを言ってごらんなさい!!」


 イラが俺の胸ぐらを掴んでくる。だから顔の距離が近いんだって。


 眠いしてムラッとするし。これで腹が減ったら俺は三大欲求の塊じゃないか。


「胸」


「二文字で終わらすなあああ!!」


「キュッキュッキュ」


「効果音で済ますんじゃないわよ!! スロス、舐めてるの!?」


 イラはワガママだな。


「スロスちゃーん!! イラちゃーん!! こっちだよー。きゃは♪」


 ソリッドがまあちゃんの前で急ブレーキを掛けて止まる。


 このモンスター、まあちゃんを見かけると同時にテンションを上げたかと思えば。


 今度は呼吸を荒げている。


 このソリッドの反応は、もしや……。


「同志か?」


「スロス、言葉の意味は分からないけど、絶対に違うから」


 イラめ、俺の魂の叫びにツッコみを入れるとは。


 俺はてっきりソリッドが胸フェチかと思ったのに。


「おい、ソリッド。俺のことをソリダスって呼んでも良いからな?」


「ガウ?」


「この子が混乱しちゃったじゃないの……。止めなさいよ、仲間を置いてきぼりにするボケは」


「ケルちゃんだあ!! 久しぶりだねえ。きゃは♪」


 まあちゃんがソリッドに『ケルちゃん』と呼びながら抱きつく。


 これは……。


「羨ましいな」


 どう言うわけか俺はイラに無言で引っ叩かれてしまった。

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