第17話・こいつってこんな性格だったかな?

「あん? お前は……スロスじゃねえか?」


「うん? あ、アヴァだ」


 魔王城に着くなり見知った顔を見かけた。


「アヴァ!? もう釈放されたんだ」


「おお!! イラじゃねえか!!」


 アヴァがイラの存在に気付く。


 彼はジル男爵が逮捕されたことで、晴れて自由の身となっていた。


「スロスとイラには、きちんとお礼を言いたかったんだが。こんな場所で悪いな、男爵の件、恩に着るよ」


 アヴァが深々と頭を下げてきた。何故かアヴァはイラを見ながらソワソワしている。


 どうしたんだろう?


「ん? 私の顔なんてチラチラと見ちゃって、アヴァ?」


「……なんでもねえ」


「ちょっと!! 言いたいことがあるなら、はっきりと言いなさいよ!!」


「いやあ……、恩人の嫌がりそうな事は言えねえよ」


 アヴァが小さく首を振る。イラが嫌がりそうな事って何だ?


「そんなもん、聞いてから判断するから!! 言いなさいよ、アヴァ!!」


 イラがアヴァに詰め寄って大声を上げる。そして萎縮するアヴァ。


「怒るなよ?」


「何よ!?」


「…………イラに罵って欲しいんだけど」


「…………は!?」


 イラが間抜けヅラを晒しながら固まる。いつもの事だ。


 何しろイラに罵られたい男性冒険者は山ほどいるのだから。


 『イラに罵られ隊』、イラのファンクラブの名称だ。なんと王都には支部があると言う。


「アヴァ、俺の盾になる? 頭下げなくても罵られるよ?」


「良いのか!? スロス、お前って奴は!!」


 アヴァが本気泣きしてるよ。


 『強欲のアヴァ』、彼が冒険者になる以前に傭兵だった頃に付いた通り名。


 なんでも欲しいものは土下座をしてでも手に入れるらしい。


「アヴァ!! 私は了承してないんだからね!!」


「ああ……、良いよ。イラに罵られると天使が降臨したかのような幸福感を感じるんだ……」


 アヴァって他人の話を聞かないタイプだったんだ。


 アヴァが膝を付いてイラを拝み出す。こいつって、こんなキャラだったっけ?


「アヴァ!! あんたの事、見損なったわよ!!」


「見損なってくれるのか!? イラ、どんどん見損なってくれ!! そして俺を罵ってくれ!!」


「私にしがみ付くな!! アヴァ、止めて!! まだお尻が火傷でヒリヒリするのよ!!」


 アヴァがイラを掴んで離さない。これは見ていて面白いな。


 だけどイラが気になる事を言っていたな。


「イラ、お尻がヒリヒリするの?」


「スロスも話に乗っかってこないでよ!! 既に地獄絵図なんだから!!」


「きゃは♪ イラちゃんはお尻がヒリヒリするのかにゃ?」


「まあちゃんも乱入してこないで!! もはや会話の内容がカオスだから!!」


 まあちゃんが会話に入ってきた。その様子を見て慌てるイラ。


「イラのお尻は俺専用の枕も同然なんだよ?」


「スロス!! それってどんな自慢よ!? しかも会話が成立してないじゃないの!!」


「イラのお尻のメンテナンスは俺の役割だから」


「きゃあああああああ!! スロスーーーーーー!! スカートを浮遊させんなあああああああ!!」


 浮遊させたスカートを必死で押さえるイラ。俺はイラのお尻を定期点検したいだけなのに。


「……良いなあ。俺もスカートを浮遊させてイラに罵られたい」


 アヴァが鼻血を垂らしながら呟く。


「アヴァーーーーーーー!! あんたも余計なことを言うんじゃないわよ!!」


 イラも必死だね?


 まさか魔王城に来てまでセクハラの嵐に合うとは思わなかったんだろうな。


 ノーセクハラ、ノーライフ。


「きゃは♪  まあちゃん、なんだか楽しくなってきちゃった」


 まあちゃんが俺の前で元気に飛び跳ねる。最高の光景だよ。


 師匠の手紙に書いてあった通りだ。ボンキュッボン!! は正義だよね。


 『揺れる胸は夢のエクストリーム』、俺は手紙に書かれていた師匠の言葉を座右の銘とすることにした。


「うっほほー。まあちゃんが飛び跳ねる姿は眼福だね」


「スロス!! お願いだから、この状況をなんとかしてええええええ!!」


 俺はもはや浮遊石が手に入らなくても良いや、と思ってしまった。


 泣きじゃくりながらスカートを必死に押さえつけるイラの姿を心に刻む。


 俺にとって『怠惰スーツ』の開発が霞むくらいに最優先事項だ。


「くっそー。カメラを持って切るべきだったな。イラのこんな姿を拝めるなんて」


「スロス!! 後で本当にぶっ殺してやるんだから!!」

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