第16話・スロスは登山でもセクハラに手を抜かない

「スロスちゃん!! こっちだよーーーーー!! きゃは♪」


 まあちゃんが俺に手を振ってくる。


「はーーーーーーーーい」


 俺たちは魔王城に足を運んでいる。今はその道中だ。


「ぜえ、ぜえ……。魔王城って、こんな厳しい山岳地帯にあるの? 岩肌が固いし、傾斜も尋常じゃないわ」


 イラが愚痴を零す。


「きゃは♪ 魔王城だからね〜。敵に簡単に攻め入られるわけにはいかないのだ」


「うーーーーー……ん。ほとんどロッククライミングじゃない!!」


 イラが汗を掻きながら登頂している。


 俺は浮遊魔法を使うから登山の実感が湧かないんだよね?


「スウ……」


「スロス!! あんたは私が苦労してる横で寝ながら浮遊登山するなあああああああ!!」


 イラはうるさいなあ。


 そんな元気があったら登山に集中すれば良いのに。


「じゃあ俺が手伝おうか?」


「えっ!? ……めんどくさがりのスロスが私を手伝うなんて……、天変地異じゃない?」


 イラって本当に失礼だよね?


 俺をなんだと思ってるんだよ? 下心があるから手伝うに決まってるじゃん。


 俺って欲望の塊だよ?


「……」


「きゃああああああああ!! スロス!! 下から押すフリして人のお尻を撫で回すなああああああああああ!!」


「ほほお……。さすがはイラ。良い肉付きしてるぜ。グッジョブ」


「ぶっ殺す!! スロス、あんたは後で確実にぶっ殺す!! 泣かしてやるんだからああああああああ!!」


 イラが大声を上げながら登山を続ける。


 さすがはイラだ。


 どれだけ俺のセクハラを嫌がろうとも、この山岳部を登頂しないことには何もできない。


 それを理解しているらしい。


「スロスちゃんのセクハラって楽しそうだね? 私にもやって。きゃは♪」


 まあちゃんは慣れた足取りでピョンピョンと跳ねながら登っていく。


 しかも俺に向かってお尻をフリフリと振ってくる始末。


 さすがは元魔王だ。


「そして元魔王は、お尻も素晴らしい」


「ちょっと!? スロス!? まさか私を置いてまあちゃんにセクハラしに行くつもり!?」


「……行きたい」


「ダメよ!! 私は限界なんだから!! 腕がプルプルしてるの!!」


 イラが限界を主張する。


 確かに岩肌を掴むイラの腕がプルプルと震えている。


 イラは仲間だから。さすがの俺も見捨てるわけには行かないのだ。


「イラのお尻を見捨てるわけには行かないんだ」


「スロス!! 私はあんたのなんだって言うのよ!?」


「おし……。大切な仲間だよ」


「『おし』って何よおおおおおお……。私って、こんな苦労してまでスロスに付き合ってるのに……お尻扱いなの?」


 およ? イラが本気で泣いてる?


 うーん、ちょっとだけやり過ぎたかな?


 イラが両手で顔を隠しながら泣き喚く。


 傾斜のついた山岳部で器用にバランスをとりながら泣いてるよ。


 やればできるじゃん?


「……イラ?」


 さすがに俺も責任を感じてしまった。紳士たる俺が幼馴染とは言え女の子を泣かすなど。


 あってはならない事だ。俺はイラの顔を覗き込んだ。


「スロス、捕まえた!! もう逃さないからね!!」


 失敗した。まさかイラが嘘泣きをしていたとは。


 イラが俺を抱きしめて離さないのだ。


「イラ、俺が重いんだけど?」


「知るもんですか!! このまま私を上まで連れて行きなさい!!」


「きゃは♪ 二人とも楽しそうだね?」


 まあちゃんは魔王城のある山頂に到着したらしい。


 山頂部からまあちゃんが俺に手を振ってくる。


「はあ……、仕方ないな」


「スロスも観念したようね!?」


 俺はイラに抱きつかれながら浮遊魔法で山頂を目指すことにした。


「ちょっと!? イラってば、早すぎるんだってば!!」


 浮遊魔法で上昇を始めるとイラが泣き喚きだす。今度は本当に泣いているようだな。


「うほおお……、イラの可愛い顔がこんな近くに」


「うるっさいわね!! ゆっくりと登りなさいよ!!」


「イラにムラッとしちゃった。チュッチュベロベロして良い?」


「このど変態、普通にチューって言いなさいよ!! それと山頂に着いたら覚えてなさいよ!!」


 イラの叫び声が山岳部に木霊する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る