第14話・待ち人来ず

「ねえ、本当に来るの?」


「イラは我慢が苦手だよね?」


 俺とイラは街の外に来ている。目的は新しい仲間を迎えるため。


 今日は師匠を介して俺たちのパーティーに加わる人がこの街にやってくる日だ。


「……ねえ、スロス?」


「何?」


「新しく加わる人って王都に住んでたのよね?」


「みたいだね」


「……スロスは怪しいと思わないんだ?」


「師匠のことは信じているから」


 イラがため息を吐く。彼女のため息の理由は単純なものだと思う。


 俺たちがいる街は『リズー』、観光を売りにした温泉の都。


 つまり片田舎。それに比べ王都は国の中枢。


 リズーよりも圧倒的に栄えているし、求人だって豊富なはず。


「……こんな田舎街にわざわざ来る人なんて変人に決まってるわ」


 イラがボソリと愚痴る。まだ会ったことすらない人に失礼だよね。


「師匠の手紙には好きにセクハラして良いよって書かれてたんだ」


「え!? ……新しい仲間って女の子なの?」


 イラが驚いた様子を見せる。


「ボンキュッボン!! らしいんだ。楽しみだなあ」


「スロス、私に何回くらい殺されたいの? て言うかノーベル様もついでに殺すわ。セクハラして良いって何よ?」


 イラが拳を強く握りしめる。無視しよっと。


 新たなセクハラ対象が来るのだから。俺の表情が緩み切ってしまうな。


「……ねえ、どうしてイラは俺を縄で縛り付けるの?」


「スロスが新しい仲間にセクハラをしないように!! 今のうちに縛っておくのよ!!」


 イラも無駄な努力をするよね? 俺を誰だと思っているのやら。


「……」


「私に縛られながら器用にプレートを出すんじゃないわよ!! って、きゃああああああ!!」


「今日は白か……」


「なんで唐突もなく私のスカートを浮遊させるのよ!!」


「お尻の火傷が心配だったから」


「へ!?」


 イラが間の抜けた返事を返してくる。


「イラのお尻を摩擦熱で消毒したでしょ? 大丈夫かなって思って」


「それって今必要なことなの!?」


「男爵からオリハルコンを貰い受けただろ?」


「あんたって本当に会話が一方通行ね!!」


「男爵が所持していたオリハルコンが思った以上に大量でさ」


「……そのオリハルコンをスロスの『怠惰スーツ』の素材にするんじゃないの?」


「余りそうだからオリハルコンでイラのパンツも作っちゃおうかなって」


「は!?」


 再びイラが間の抜けた返事をしてくる。


 だけど俺は心配なのだ。イラのお尻にセクハラをしていいのは俺だけだから。


 イラのお尻が他の男から守るためだ。俺も頑張らねば。


 俺の情熱は怠惰スーツの開発とイラのセクハラにしか向かないのだ。


 ああ、疲れた。今日の俺は一年分くらいは喋ったぞ?


「スロス? ……一応確認するけどオリハルコンって伝説の素材なんだけど?」


「そだねー」


「……あんたが男爵から強奪した量があれば王都でも豪邸を建てられるんだけど?」


「だねだねー」


 イラが顔を痙攣させている。


 俺との会話で顔を痙攣させるようなポイントがあったのかな?


「どこの世界の女子が国家予算レベルと同等の価値を持つパンツを履くのよ……」


「イラだよ」


「そんな下着を貰っても外に干せないじゃない!! て言うか気持ち悪いからプレゼントするなっての!!」


「大丈夫。たまに俺が浮遊魔法を使って拝借するから」


「たまに部屋の外に干してあった私の下着が無くなるんだけど……もしかして?」


「大丈夫だよ。ちゃんと返してるから」


「下着泥棒は、お前かあああああああ!! 何が大丈夫なのよ!!」


 イラが俺に顔を突きつけてくる。俺とイラの顔をゼロ距離。


 うん、イラはやっぱり可愛い。『見た目だけ』は俺の好み、どストライクだ。


 俺はイライラしない代わりにムラムラしてしまった。


「やべえ、イラとチューしたくなっちゃった」


「死に晒せええええええええ!!」


 ただ新しい仲間を待っていただけなのに。


 何故か俺はイラに本気で殴られてしまった。

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