第13話・スロスはエロスにグッジョブする

「ふきふき」


「……スロス?」


「ふきふき」


 イラが深いため息を吐く。


 ここはギルドに併設された食堂。


 俺とイラは男爵を懲らしめることに成功した。今は戦利品の確認を行なっているわけだ。


「スロス……、効果音だけ口にするの止めない?」


 俺は男爵かオリハルコンを強奪したのだ。今は、それを磨いている真っ最中。


「えー? だって効果音ないと虚しいじゃない」


「あんたは、めんどくさがりのくせに雰囲気だけは出そうとするわよね?」


 俺が魔法で浮遊させた水と布でオリハルコンを磨いてることが気に入らないらしい。


 なんで?


「これで俺の夢に一歩前進だよ〜」


「スロスの夢って『怠惰スーツ』の開発のこと?」


「……」


「だから唐突にプレートで会話を始めるんじゃないわよ!! 『イラと会話するの疲れた』って何よ!? 舐めてんの!? 大体、今回のあんたは……」


 イラがビールを口に流し込みながら俺に説教をしてくる。


 これは長引くやつだな。イラは酒が入ると説教が長くなるのだ。


 あ、イラがグラスをテーブルに叩きつけた。


 ……オートモードになっておこうかな。


 魔力を使って俺自身を自動操作すればイラへの対処が楽だから。


「……ちょっとカッコ良かったじゃない」


「へ?」


 イラの予想外の反応に俺は間抜けヅラを晒してしまった。


「だって……私がジル男爵にいやらしい事をされてると思って急いで駆けつけてくれたんでしょ?」


「う、うん」


 俺は判断を誤ったかな?


 オートモードって所定時間を経過しないと解除されないんだよね?


「屋敷の使用人たちを一人残らず催眠魔法で眠らせて……やけに早く駆けつけてくれたし」


「ま、まあね? 実際に急いだから」


「……めんどくさがりのスロスには珍しい事じゃない? 発言は色々とアレだけどキュンとなっちゃった」


 おーーーーーー!! 今日のイラは色っぽい。


 アルコールで頬が赤く染まっているから余計に色っぽい。


「イラの状況はアイテムを使って逐一確認しているからね?」


「…………どう言うこと?」


「イラは大切な仲間だからね。監視アイテムで一日中見守ってるんだ」


 お? イラの右目がピクピクと痙攣し出したぞ?


「……あんた、一日中って言ったわね?」


「うん。言ったよ」


「私の入浴中は、当然監視を中断してるのよね?」


「あ、このカツ丼美味いね。これって世界を救った勇者が、この国に残した味だっけ?」


「誤魔化すんじゃないわよ!! このデバガメ野郎!!」


 およ? イラの目が血走っているな。


 俺は何か悪いことしたのだろうか?


 俺は仲間を思う純粋な気持ちから監視アイテムを使っていただけなのだが。


「イラは入浴時間を短縮した方が良いよ? 一時間も湯船に浸かるんだったら魔法の修行をした方が良い」


「なんで、あんたが私の正確な入浴時間を把握してるのよ!?」


「……」


「スロスーーーー!! 『右胸のところにホクロがあるでしょ?』ってどう言う意味よ!? て言うかプレートで会話するなあああああああ!!」


「そんな大声出すと周囲に聞かれるよ?」


 周囲の冒険者たちが俺たちの方をチラチラと見ているんだよね? イラって人気あるからな。


 因みにイラは男性冒険者の間で『殴って欲しい女性冒険者No.1』でもある。


 うちのギルドって特殊な性癖持ちが多いんだよね。


「スロスのせいでしょうが!! って、手紙なんて読んでないで人の話を聞きないさいよ!!」


「……師匠からの手紙なんだよね」


「えっ!? ……師匠ってノーベル様?」


「他に俺の師匠がいるの?」


 イラの表情が一瞬にして青ざめる。イラは俺の師匠が苦手だからな。


 別に嫌いとかではないらしい。ただ俺の師匠はトラブルメーカーなんだよね?


「……なんて書いてあるの? ノーベル様はなんて言ってるの?」


「んー? えっとね、俺のパーティーに加えて欲しいメンバーがいるみたい」


 イラの表情が強張っていく。しかも全力で顔を痙攣させ出す始末だ。


「……ノーベル様って良い人だけど、不幸を撒き散らすのよね。私、苦手……」


「久しぶりに師匠に会いたいな?」


 俺の師匠は、この国の財務大臣を務める人物。


 あまりにも多忙過ぎて俺と面会する時間も確保できないほどだ。


「スロス、止めてね? 街諸共粉々にするつもり?」


 イラが俯きながら呟く。


 そして歯軋りをしながら俺を睨みつけるんだ。


「イラ? どうしたのさ?」


「スロス、……あんたは私に殺されたいの?」


「? 俺がイラに何かした?」


「あんたが私のスカートの中を覗いているからでしょうが!!」


「しまった、俺はオートモードだった」


 オートモードになると、たまに俺の本能に従って動くからな。


 だけどグッジョブだ。セルフグッショブ。


「イラも中々大胆な下着を履くよね? 似合ってるよ」


 俺はイラを褒めたつもりだった。にも関わらずイラが鬼神の如く表情に怒りを体現する。


 結局俺はイラに夜通し説教されてしまった。

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