第12話・スロスの本領発揮

俺は三度パチンと指を鳴らす。


「きゃあああああ!! お尻が熱い!? ちょっと、スロス!! なんで私のお尻に火炎魔法を使うのよ!?」


「消毒だよ? 男爵の汚い手で撫で回されたでしょ? それに火炎魔法じゃなくて浮遊魔法で空気の摩擦熱を起こしただけだから」


「人様のお尻を摩擦熱で消毒するな!! て言うか、撫で回されたって表現するな!! あんたなんてスロスどころかエロスじゃない!!」


「せっかく消毒したのに……」


「うっさいわね!! あんたのせいで私のお尻が丸見えじゃないのよ!! 人の服を燃やすなああ!!」


 イラは酷いな。


 俺は君のことを思って消毒したのに。熱処理が一番効率の良い消毒方法なんだよ?


 俺は床に落ちている男爵から抜き取った金歯に視線を送った。


 金歯か、脅すには丁度いい。


 男爵の金歯を指差して、魔法を発動させる。どうやら男爵には事の重大さが伝わったらしい。


 何しろ金は無機物、沸点が2700℃だからね。


「金歯が……蒸発しただと!?」


「俺の浮遊魔法を甘く見ないでね? 血液を沸騰させる方が可愛いでしょ?」


 俺は金の分子を浮遊魔法で動かしたのだ。


 つまり、分子の動きで摩擦熱を生み出したと言う事。


 男爵が俺の言葉に固まってしまった。俺の脅しは効果があり過ぎたらしい。


 普通の魔道士は金を蒸発させられないからね?


 俺は自分でも気付かない間に男爵を睨みつけれていたらしい。


 イラとベアルーシが先ほど以上にドン引きしてるんだよね。


 俺の表情がそこまで怖かったのかな?


「お、おおおおお前!! 浮世、俺は貴族だぞ!? 俺を殺したら、お前なんて極刑になるだけだ!! それを理解しているのか!!」


「……イラ、そうなの?」


「……ベアルーシ、どうなの?」


「……二人とも、俺が答えないと分からないか? 」


 確認完了だね。やっぱりベアルーシはこの件を隠蔽する気満々だ。


「うーん、念には念を入れて男爵を殺しちゃおうか? 死体を燃やせばバレないよね?」


「浮世おおおお、何度言えば分かるんだ!! 俺は貴族だぞ!! その俺をなんだと思ってるんだ!?」


「粗大ゴミ。それじゃあ、ゴミの焼却を開始しまーす」


 男爵の顔色が瞬時に青ざめていく。どうやら男爵はベアルーシさんに泣きつくつもりらしいな。


「ベアルーシ!! あいつを止めてくれ!! 金ならいくらでも出すから!!」


「……良く良く考えたら男爵が焼身自殺した事にすれば俺が楽できるな」


「ベアルーシ!?」


 ベアルーシさんもノリが良いよね? あの人も本心では男爵に呆れてるのだろうから。


「男爵、君には好きな死に方を選ばせてあげるよ。心臓、血液。浮遊魔法で君の体から取り出してあげる」


 俺は男爵に手のひらを向ける。浮遊魔法で少しだけ血液に摩擦熱を起こす。


「は、ひい!?」


 男爵も間抜けな声を出すものだね。俺の魔法で男爵の体温が5℃くらいは上昇しているはずだら。


 さすがに間抜けな男爵も危機感を感じたようだ。


「ほーい。本気を出しちゃうよー。男爵の血液を100℃くらいに急上昇!!」


「うひゃあ!!」


 男爵が恐怖のあまりに目を回し始めている。終いには口から泡を吐き出す始末だ。


 男爵は完全に気絶したらしい。


「スロス、最後の方は遊んでたでしょう?」


「さすがイラ。俺のことを良く分かっているね?」


 男爵が気絶するなり、イラが俺に歩み寄ってくる。若干だが俺に呆れているようだ。


「今回はオートモードを使わなかったの? アヴァを確保する時は使ったのに」


「うん? 最初は使おうと思ったんだけどさ」


「……けど?」


 俺は長期戦や長時間の移動を嫌う。それらはカロリーを多く消費するから。


 そう言う状況を想定できる時は俺自身を魔力で自動操作するようにしている。


 つまり自分の感情に関係なく行動してしまうわけで、感情よりも本能と合理性を優先する。


 それがイラの言う『オートモード』。


 だが今回は男爵の言動にイラッとしちゃったから。オートモードになると俺の感情に殉じれない。


 今回は男爵に脅しを効かせたかった。


 それにオートモードには他の欠点もあるんだよね……。


「さっきも言ったじゃないか。イラのお尻を触って良いのは俺だけだって」


「だから、さっきも言ったわよね!? んなわけあるか!!」


 イラが大声を上げる。


「はあ……、俺は、この件を財務大臣様にどうやって報告すれば良いんだ?」


 ベアルーシは部屋の片隅でスロスとイラの喧騒を見つめながら、小さく呟いていた。


「あー……、呼吸するのだるいなー」

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