第10話・スロス、駆けつける

「……男爵は魔神召喚用の壺をオークションで落札していてな」


「魔神召喚用の壺って違法じゃない!! ベアルーシ、監視が手を抜くんじゃないわよ!!」


「相変わらず喧しい娘だな。監視だから証拠を押さえたかっただけだ」


 男爵と召喚された魔神を目に前に口論を始めるイラとベアルーシ。


 そして二人の様子に苛立ちを覚える男爵と彼の命令を待つ魔神。


 部屋の中央に佇んでいた。


 イラとベアルーシの漫才に呆れながら。魔神は額に大粒の汗を垂らしている。


「我が名はサラマン、魔神である。召喚者よ、早く俺に命令を下せ」


「そこの小娘とジジイを焼き殺せ!!」


 口論を続けるイラたちを指差しながら男爵が大声をあげる。


 サラマンと名乗る魔神は視線をイラとベアルーシに向け、魔法を発動させる準備に入る。


 サラマンの敵意がイラとベアルーシに向く。


「ちょっと!? 私は魔神の相手をするなんて聞いてないわよ!!」


「はあ……、お前らが何も考えずにことを起こすからだろう?」


「何よ!? 私が悪いって言うの!? 悪いのは肥えたヒキガエルみたいな男爵の方でしょうが!!」


 イラは焦っている。彼女が焦る原因は魔人の存在。


 魔神とは本来、人間が相手をして良いものではない。


 人間では考えられないほどの魔力を有する彼ら。魔神を敵に回せる人間は、この世界に存在しない。

 

 ……『彼』を除いて。


「俺の仲間に手を出すんじゃないよ」


 部屋にパチンと指を鳴らす音が小さく鳴り響く。


 いつの間にかスロスが部屋にいた。彼は、いつも通り浮遊魔法で宙に漂っている。


「え!? 魔神と火炎が消えた? スロス、あんたは何をしたの!?」


「イラ、お待たせ。火炎を浮遊させて飛散させんだ」


「スロス、久しぶりだね?」


「およ? ベアルーシさんじゃない。お久しぶり〜」


「こ、今度は誰だ!!」


 男爵はスロスを見知らない。


 だがイラやベアルーシの反応を見て、スロスが自分の敵だと判断した。


「初めまして、ジル男爵。俺はスロス、『浮世のスロス』って通り名があるんだ。よろしくね」


「お前が王国最強の魔導師、メイガスのスロスか!?」


「そう。あんたがジル男爵だよね?」


 スロスは目に殺気を込める。ジル男爵へ向けた明らかな敵意。


「ま、まさか!? お前も貴族である俺を殺しにきたのか!?」


「最初は殺そうかと思ったけど、状況が変わった。ベアルーシさん次第かな?」


「スロス、どう言う事だ?」


 ベアルーシが眉間に皺(しわ)を寄せる。


「ベアルーシさんがいるって事は少なくとも国は男爵の悪事に感づいてるんでしょ?」


「……賄賂、脱税、闇オークションへの参加、禁止されている魔神関連アイテムの所持それにギルドへの不正介入。そんなところだな」


「ベアルーシさん、足らないよ」


「……スロス、何が足らないのだ?」


「イラへのセクハラ。イラへセクハラをして良いのは俺だけだよ」


「良いわけあるか!! スロス、あんたは私のお尻をたまに触ってくるけど、セクハラに時効はないんだからね!!」


「……男爵、あんたは俺を怒らせた。それも三度も」


 スロスはイラの言葉を無視して男爵に話しかける。


「スロス!! 私を無視すんな!! セクハラで訴えてやるんだからね!!」


 イラが俺に猛抗議をするも、俺は彼女を無視して男爵へ話を続ける。

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