第8話・男爵はメイドとにゃんにゃんしたい
「はっはっはっは!! オリハルコン、この光沢……。いつ見ても素晴らしい」
肥えた男が金色に輝く鉱石を手にいやらしい笑みを浮かべる。
「旦那様、オリハルコンの落札に費やした費用。相当な出費になりましたが?」
肥えた男の側に控える執事服の男。肥えた男に礼を尽くしている。
「良いのだよ、これがあれば。このオリハルコンを陛下に献上して俺は地位を得る」
「……国王陛下はオリハルコンにご執心のご様子でしたな」
「そうだとも!! 陛下がお探しの浮遊石にこのオリハルコン!! 両方とも献上できれば俺の覚えもよくなる!!」
ここは、とある貴族の屋敷。そして、その一室。
肥えた男はジル男爵、最近になって資金力に物を言わせて政治の発言力を強めていた。
「……旦那様、前回の『強欲のアヴァ』の一件。宜しかったのですか?」
執事服の男が心配そうに男爵に話しかける。
「何がだ?」
「前回の一件、ギルドに警戒されてしまったかと」
「……今後、ギルドが俺のクエストを引き受けれくれないと言うのか?」
男爵は不快そうに表情を歪める。
「冒険者ギルドは王国の財務省の管轄。そこに旦那様の悪評が立つのは宜しくないかと」
「ぐわっはっはっはっは!! ベアルーシ、お前も心配性だな。安心せい、手は回しているとも」
ベアルーシと呼ばれる初老の男は首を傾げる。
「と、言いますと?」
「ふーん、お前は優秀だから話しておこうか。……実はな、財務省の事務次官と個人的に懇意にしていてな」
「……買収ですか?」
「ベアルーシ、そうストレートに言うでない!! ぐわっはっはっはっは!!」
男爵の下品な笑い声が部屋に響き渡る。
男爵の個室にいる人物は夕食を済ませ個室で寛ぐ男爵本人以外に、このベアルーシとメイドが一人のみ。
「……旦那様、そのような話は人払いをしてからの方が宜しいかと」
ベアルーシがメイドに睨みを効かせる。
「はーい。ご主人様、煎れたてのお紅茶です!!」
このメイドにはベアルーシの本意が伝わらなかったらしい。
「うーん、……素晴らしい香りだ。おい、そこのメイド」
「はーい? にゃんにゃん♪」
男爵が紅茶を煎れたメイドに話しかける。
「お前、見ない顔だな? 新入りか?」
「そうでーっす!! 最近になって故郷から都会に出てきたんです!! きゃは♪」
ベアルーシはメイドのわざとらしい仕草に表情を曇らせる。
「……その態度はメイドとしては問題があるのでは?」
「そうですか〜? 私、アイドル目指してるんですよ。きゃは♪」
メイドは明らかに態度を偽っている。ベアルーシは、この金髪のメイドに怪しさを感じ取っている。
「良い良い!! 俺もアイドルが大好きでな!! ……新入りのメイドも俺の好みだぞ?」
男爵の目つきにはメイドへの欲情を感じさせる。
この貴族は欲望を満たすことしか頭にない。
「にゃはは♪ そうですかあ? じゃあ私が大サービスしてあげますね」
「お、おい!! 新入りの娘よ、旦那様の膝の上に座るんじゃない!!」
メイドは唐突に男爵の膝の上に座り、腕を頭の後ろに回す。彼女の態度は屋敷のメイドとして正常なものではなかった。
寧ろ愛妾と言ったほうがしっくりくる。
「うほほお!! 唆(そそ)るのう……。メイドよ、名前は何という? 特別にお前は俺が個人的に可愛がってやろうじゃないか!!」
メイドの目つきが突如として変わる。まるで男爵を汚物でも見るかのようなメイドの目つき。
「イラよ。ジロ男爵、お久しぶりね?」
イラの声には殺気が込められていた。
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