第7話・欲望全開で楽をしよう【後編】

「恩人に頼まれたら断れないさ。俺とグラ兄の知っていることなら」


「ありがとう。……どうしてアヴァだけが冒険者の資格を剥奪されたの? あんたたちって三人で冒険者活動しているんでしょ?」


「ああ、そう言うことか。オリハルコンの情報を手に入れるまでは三人で一緒に調査を進めていたけど、男爵への報告まで三人でする必要はないだろ?」


 インヴィがグラスに口を付けながら状況を説明する。


「そっか、そうよね。じゃあグラとインヴィは男爵には会わなかったんだ」


「そう言うことだ。俺とインヴィは情報を手に入れた後、アヴァの兄貴と別れて一足早くギルドに戻ったのさ」


「でアヴァは男爵を殴っちゃったのね?」


 俺の質問にグラとインヴィが深く頷いている。


 そうか。この二人はアヴァが男爵を殴った現場には居合わせていなかったのか。


 これじゃあ、アヴァが男爵を殴った状況を確認できないな。


「……スロス、さっきの質問の回答だが」


 グラが俺に視線を向けつつ口を開く。


「ん?」


「おそらくジル男爵はとっくにオリハルコンを手に入れていると思うぞ?」


「どうして言い切れるの?」


「俺たちが手に入れた情報はオリハルコンがオークションに流れるって噂だったんだ」


 グラが真面目な顔で俺に話しかける。しかしオークションか。


 そうなると下手に素人が手を出すわけにはいかないな。参加には、それなりの資金が必要だから。


「イラ、手が止まっているよ? あー……ん」


「くっ……、どうして私がこんなことを……」


 イラが顔を赤く染め上げながら食べ物を俺の口に運ぶ。何を恥ずかしがる必要があるのだろうか。


「……スロス、会話を続けても良いか?」


 グラが顔を引き攣らせているな。もしかしてアヴァのことが心配なのかな? 


「どうぞどうぞ」


「そのオークションは昨日終わっているんだ」


 なるほどね。


 グラの言う通りなら確かにオリハルコンは男爵の手元にある可能性が高いそうだ。


 どうやら俺の取るべき行動はとてもシンプルなもので良いらしい。


「イラ、男爵に会いに行こうか」


 イラは俺の言葉に力強く頷いてくれた。イラも男爵に言いたいことがあるらしい。


「冒険者が命懸けで手に入れてきた情報をなんだと思ってるのって話よ!!」


 拳を力強く握りしめ男爵への怒りを隠そうとしない。


 イラは正義感が強いから。俺もイラのこう言う一面を好ましく思う。


 だが今は、そんな事をしている場合じゃないのだ。


「イラ、俺の口に食事を運ぶ手が止まっているよ?」


「うぐうっ!! これって最後までやらないとダメなの?」


「約束したよね? 誤魔化されないから」


 イラが俺の前で項垂れている。彼女は勢いで俺を誤魔化しにかかっている。


「くっそお!! こうなりゃヤケよ!!」


「うおうあ!? イラ、お願いだからアヒージョを口に突っ込まないで!!」


「知るもんですか!! あんたが勝手に頼んだんでしょう!?」


 イラが俺の口に熱々のアヒージョを次々と運んでくる。熱すぎて口の中が火傷しちゃうってば!!


 俺は口内の熱さに我慢できず全身をジタバタと動かす。するとグラが申し訳なさそうな顔をしていた。


「すまん、スロス。アヒージョを頼んだのは俺だ」


 お前か!! こんな事態になるのなら、お前らを助けるんじゃなかった!!


 イラで楽をするつもりがカロリーを無駄に消費しちゃったよ!!

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