第3話・初対面の人が浮遊魔法を使えって催促するんだよね?

「……納得いかないわ」


「何に対して?」


 イラが俺の目の前で項垂れてる。そして俺は浮遊魔法で宙に浮いている。


 俺たちはイラの引き受けたクエストをこなす為、とある村に足を運んでいた。


「あんたのゴーレムは、どうしてあんなに強いのよ!!」


「良いじゃん。クエスト達成だ」


「良くないわよ!! ウェアウルフ200体を全滅させるってどう言うことよ!!」


 イラは相変わらず、細かいな。


 俺が浮遊魔法でゴーレムを動かしていたからね。だから俺のゴーレムは強いんだよ。


 だが納得いかないと言う事に関しては俺も同意見だ。何故ならば、今回のクエストは依頼内容に相違があるから。


 イラも気付いているはずだ。


「……」


「スロス、本当にプレートで話すの止めない? 私が疲れちゃうの……」


「……」


「だからと言って魔力を使って空中に文字も描かないで……」


 イラが泣いちゃったよ。誰がイラを泣かせたんだ? 犯人は見つけ次第フルボッコだな。


「ほれほれ」


「きゃあああああああ!! 人のスカートを浮遊させんな!! こんの変態!!」


「……クエストの内容がおかしいね」


「……あんた、私へのセクハラを無かったことにしないでくれる?」


「クエストの内容はウェアウルフの小さな群れを討伐するんだったよね?」 


「……うん、ウェアウルフの小さな群れが村の畑を荒らすって話だったけど。200体は小さなな群れとは言えないわ」


 おや? 遠くから村人らしき人たちが歩いてくる。今回のクエストを依頼した人たちかな?


「お疲れ様でした。まさか上級冒険者の方々に来ていただけるとは思いませんで」


「初めまして、私はイラと言います。依頼主の方ですか?」


「はい。今回のクエストを依頼した、この村の村長をしておりますジダと申します」


「……」


「スロス!! 『めんどくさいから俺の自己紹介もシクヨロ』って舐めてるの!?」


 イラが何を怒ったのか、浮遊魔法を使う俺を揺らしてくる。


 イラが揺らしてくれるから揺り籠に乗っているみたいで気持ち良いな。


「スー……」


「寝るなああああああ!!」


「あ、あの!? 何か問題でもございましたか?」


 依頼主と名乗る中年の男が俺たちのやりとりを見て慌て出す。


「えっと、……今回のクエストはウェアウルフの小さな群れが畑に現れる。と言う内容のはずですが?」


「ええ、我々も驚いております。この光景は……」


 畑には俺のゴーレムが全滅させたウェアウルフの死体が転がっている。

 

 200体もあるのだから、村長の驚きようも不思議ではない。


「と言うことは村長さんに心当たりはないと言うことですね?」


「イラ様、我々が被害に遭った時は多くてもウェアウルフがせいぜい20体。この件は村人たちも困惑しております」


 村長は嘘ではなさそうだ。朴訥な印象を与える村長にイラは困惑している。


 俺は困惑するとカロリーを消費してしまうから。だから困惑はしない、少しだけイラついているが。


「……」


 イラが右目をピクピクと動かしながら口を開く。


「……プレートで会話するなって言ったわよね? 『おかげで俺は一体で良いところをゴーレムを二体も作成する羽目になった』? ふっざけんじゃないわよ!!」


「……」


「スロス!! だから魔力で文字を書くなああああ!!」


「……そちらの方はメイガスのスロス様でしょうか?」


 村長が俺に話しかけてくる。会話すると疲れるからイラを経由して会話していたのに。


 めんどくさいな。


「そうだよ? 分かっちゃった?」


「この国で浮遊魔法を使える魔道士様はお一人だけ。存じないわけがございません」


「……で。俺をスロスと知った上で、何か質問があるのかな? 因みに小さなイラの胸を浮遊魔法でバストアップさせているのも俺の浮遊魔法です」


「あんた、そんな事してたの!?」


「ほら。たまにイラが自分より年下の女の子の胸を見ながら落ち込んでるでしょ?」


「うっ、うるさいわね!! スロス!! 妙なセクハラはやめなさいっての!!」


 村長が唖然とした様子を見せる。


 もしかして俺のイラに対する愛情表現に感動しちゃった? 


「……上空から周囲を確認していただければ今回の件、何かわかるかも、と思いまして」


 ええ? 俺が上空に浮遊しないといけないの? 断固として拒否だよ。


「スロス、今回の件はギルドにも報告が必要なの。やって頂戴」


「……スウ」


「寝るなあああああ!!」


 浮遊魔法は上空に行くほど魔力を消費すると言うのに。だけどイラが本気の目をしているな。


「はあ……、今回だけだよ?」


「パーティー組んでるんだから、協力しなさいよね!!」


 俺はイラの怒りを一身に浴びながら上空に舞い上がった。畑の周囲に生える大木よりも遥か高く。


「何もないじゃいか。……ん? あれは……」


 今度は下降してイラの元に舞い戻る。


「スロス、何かあった?」


「うん。……ちょっと離れた場所で人が集まっていたよ。火を起こしていたね」


「村人はここにいる人間で全員です。となると、よそ者が村にいることになります」


 村長が怪訝な表情で呟く。


「……怪しいわね?」


 イラが口を開く。良い予感がしないな。


「イラ、……俺はいかないよ?」


「まだ何にも言ってないでしょうが!!」


「……」


「だから何度も言わせんな!! 魔力で文字を書くんじゃないわよ!! 何よ、『めんどくさい』って!!」


 イラは首根っこを掴みながら俺をズルズルと引きずっていく。


 やっぱりか。イラが引きずってくれるなら疲れないから良いけどね?


「イラ、方向が逆だよ? 火はあっちで炊かれてるんだ」


 俺は北を指で刺してイラに話しかける。


「そう言う事は早く言いなさいよ!!」


「……」


「だからプレートで会話するなああああああ!! 『イラが行き遅れたら俺が嫁にもらってやる』ですって!? 大きなお世話よ!!」


「イラ」


「何よ!?」


「ガニ股で歩くとパンツが丸見えだよ?」


 何故かイラは俺を無言で殴ってくる。


 俺はイラの怒鳴り声にだけは我慢ができる。イラが俺のセクハラ対象だからかな?


 結局はカロリーは消費しちゃうけどね?


「ん? あれは……男物のアウターが落っこちてる?」


 俺は畑の近くに脱ぎ捨てられた衣服を発見した。

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