第2話・仲間が俺に隠れて焼肉を食べに行くからイラッとする

ひったくりが大通りを走る。大声を上げるから俺も耳障りなんだよね?


「無意味に人へ振動を与える大声。万死に値する」


「……万死に値してたまるかっての。あのひったくり、小さな子供からカバンを盗んだのね?」


 イラの目つきが豹変する。これは怒っているな。イラは正義感が強いから。


『オートモードに切り替わります。後方から接近する男性の大声でスロスが2kカロリー消費しました』


 スーツが俺の消費したカロリーを算出してくれた。


「2kカロリーも……。ギロチンものだな」


「……あんたにツッコむの疲れてくるわね? どう考えても私の方が疲れるんだけど?」


『イラは5kカロリー消費しました。昨晩よりも体重が1kg増加しています』


「人の体重を暴露するんじゃないわよ!! 何なの、このスーツは!?」


 実験的にイラの情報もインプットしたからな。


 おそらくイラの変化にも反応するようになったのだろう。


「昨日、何か食べたの?」


「……焼肉の食べ放題に行ったのよ」


『イラの隠し事にスロスが20kカロリー消費しました』


 イラの奴。俺に隠れて焼肉に行っただと?


「イラもギロチンものだな」


「あんたはめんどくさがりだから来ないと思ったのよ!!」


 この『究極・怠惰スーツ』は俺の魔力を元に作成した究極の防具。


 俺の苛立ちを自動で感知して、その対象を処理してくれるのだ。


『これより対象を攻撃します。対象は接近する男とイラ。攻撃方法に『爆炎魔法』を選択』


 スーツからアナウンスが流れる。ん? イラも攻撃すると言ったのか?


「スロス!? 私を爆炎魔法で攻撃する気なの!?」


「……スウ」


「寝るなああああああ!!」


 うるさいなあ。イラが大声を出すから思わずイラッとしてしまった。


 と言うか攻撃方法に浮遊魔法を選択しなかっただけマシだろう?


 俺の浮遊魔法が起こす摩擦熱は火炎魔法よりも発火熱が上だからね?


『イラの大声にスロスは8kカロリー消費しました。攻撃3秒前』


「……」


「スロス!! だからプレートで会話するな!! って、『高いところに逃げろ』?」


 怠惰スーツは試作段階。


 それ故に対象への攻撃が万能ではないのだ。つまり高所への攻撃が不可能と言う事。


『3……2……1……攻撃開始』


「きゃあああああああ!! 高いところに逃げれば良いのね!?」


 イラが大股で店舗の屋根に駆け上がっていく。


 浮遊魔法を使わずしてイラのパンツを拝めるとは。


 怠惰スーツにグッジョブ。


 怠惰スーツが俺の魔力を吸い取って周囲に爆炎魔法を撒き散らす。すると聞こえてくるのは周囲の人々が口にする悲鳴のみ。


 もしかして怠惰スーツが爆炎魔法の威力を間違えたのか?


「うぎゃあああああ!!」


 ひったくりの男の悲鳴が聞こえる。決まったな。だが俺は鬱むせの状態で浮遊しているから状況を確認できないんだよね?


 早くイラが戻って来ないかな?


「うちの店が燃えちまうよ!! 誰か消火に手を貸してくれ!!」


「きゃあああああああ!! 買ったばかりのドレスが燃えるううううううう!!」


 周囲に悲鳴が飛び交う。その悲鳴が俺に新たな振動を与えてくる。


「ヤバイな、イラッとしちゃった」


『スロスは周囲の悲鳴に12kカロリー消費しました。攻撃を再開します』


 さすがにマズイよね? あの悲鳴を聞く限りだと大通りは大火事なのだろうから。


「スロス!! どうするのよ!! 街中が大火事よ!?」


「イラ? 君は大丈夫だったの?」


「何とかね!! でも……ひったくりを捕まえるのに、どうして街を燃やし尽くす事になるのよ!!」


 これは俺も想定外だった。それと怠惰スーツを耐火仕様にしておいて良かった。


「イラ、悪いけど俺を引っ張ってくれる? ここから離れよう」


「……そうね。幸いにも犯人が、あんたの怠惰スーツだってことはバレていないみたいだし」


 失礼な。それでは、まるで俺が放火犯みたいな口ぶりではないか。


「イラ、一つだけ注文をつけるね? 優しく引っ張って欲しいんだ」


「あんたはバカなの!? こんな時に優しくなんてできるわけないじゃない!!」


「優しく引っ張ってくれないと俺がイラにイラッとしっちゃうから」


「……それって私が攻撃されるってこと?」


「うん」


「だったら脱げば良いじゃない!! その怠惰スーツを今すぐ!!」


 できれば俺も怠惰スーツを脱ぎたい。だけど無理なんだ。


「スーツが壊れたみたいで脱げないんだよね? だから俺のラボに行こう」


 イラが唖然とした表情で俺を睨む。それと同時に呆れているようだ。


「はああああ……、あんたと付き合っているとこんな事ばかりじゃない」


 イラは悲鳴が飛び交う街の大通りから静かに俺を移動させて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る