第六話 弱点のない吸血鬼
鳥の鳴き声で目が覚める。
立て付けの悪い窓を開いて外を見ると、陽の光が当たり見たことも無い蒼い鳥が鳴いていた。きっと異世界ならではの鳥なんだろうな。
「起きましたか?もうお昼前ですよ、随分疲れていたんですね」
声のする方を向くと着替えを済ませたレミリエルさんがパンを頬張っていた。
「そろそろこの宿を出たいので、準備しちゃって下さい」、そう言いながら鏡とヘアブラシを手渡された。
「うわ、酷い寝癖⋯⋯」
「ふふふ、ですねぇ。あ、エルノアさんのパンも買ってありますよ?」
私は爆散した寝癖をヘアブラシで直しながら、「ありがとうございます」と言って頂いたパンをかじる。
「かたっ」
「え、硬いですか?朝買ったので硬くなってしまったのかもしれません」
「というか吸血鬼ってパン食べて大丈夫なんでしょうか⋯⋯、さっき窓開けた時に陽の光も浴びてしまいましたし」
私の知っている吸血鬼は日光ダメ、血液以外の食べ物ダメなイメージがある。
「んー、知り合いに吸血鬼と人間のハーフがいるんですけどその方は平気でしたよ。血液以外の食べ物はあまり栄養にならないようで好まないみたいですけど」
レミリエルさんの語り口調だと異種族の交配は可能みたいだ。
「なんか思ったより吸血鬼に優しい世界なのかな?割とすぐ死ぬイメージがあったんですけど」
「理不尽な転生させられてるんですからご都合主義くらいしてもらわないと割に合いませんよ」
「あはは、それもそうですね」と言いつつ私は硬いパンをガジガジと食べた。胃に入れても特に違和感は無かったし、特別不味いとも感じなかったけど牢屋で飲み干した血液ほど美味しくは感じられなかった。
味覚は吸血鬼になりきってるんだろうな。
会話を終えた私たちは宿を出た、あの笑みの絶えないおじいさんが「またのお越しを」なんて手を振っていた。煽りかな?
ちなみにレミリエルさんはガン無視してた。そして小さく舌打ちもしていた。
「陽の光、大丈夫ですか?私の知り合いは多少立ちくらみがするみたいなんですけど」
「私、全然平気みたいです⋯⋯。何ででしょう」
外に出ると昼頃というのも相まって、直ぐに陽の光を一直線に受けたが特に身体に影響はない。
レミリエルさんも驚いているし、私も驚いている。やがて、異世界転生にありがちな俺TUEEEEを思い出した。
「もしかして、私も⋯⋯」
「あの、どうなされました?」
「吸血鬼って十字架効きますよね?私に指で十字架作って見せてくれませんか?」
レミリエルさんは私の提案に「ええ、十字架は普通にダメだと思うんですけど⋯⋯」と中々呑み込んでくれなかったのを強引に説得し、十字架を作って見せてもらった。
「やっぱり効かない⋯⋯」
「マジですか?え、やっぱり?」
そう、私には「やっぱり」の確信があった。
もしもこの転生がアニメの俺TUEEEEの類と同じなのなら、私にもきっと適用されているはず。
そして辿りついた結論としては、「吸血鬼特有の弱点がない俺TUEEEE」だ。
日光も平気だし、血液以外の食べ物も食べられる、十字架も効かない、恐らくニンニクも平気だろう。
だからといってアニメみたいに世界を簡単に覆したり、「え?俺なんかしちゃいました?」としたり顔を浮かべられる程、強くはないみたいだ。
そもそも強かったら力加減なんか分からずに牢屋をぶち壊していたはずだ。ただ弱点がないだけで力は十三歳の少女程度。
「私の俺TUEEEE、めちゃくちゃ微妙⋯⋯?」
「え、ちょ目の光無いですけど大丈夫ですか?」
レミリエルさんが私を心配する。
神からの「まあ日中は出歩けるようにしといて人間並にしてやるから後は自力で頑張んな」というメッセージを感じた。
「大丈夫です⋯⋯、頑張りましょう」
「が、頑張りましょー?」
ひとしきりテンションが萎えた後、私の目に馬車が映った。
「あれは?」
「アレは旅人用の馬車です。格安で遠くまで乗せてくれるんですよ」、レミリエルさんは馬車を指さし、「乗ってみますか?」と言う。
「あの、お金持ってないので⋯⋯」、遠慮する私にレミリエルさんは「何事も経験です。私が出しますので、いつか返してくださいね?」と言う。
私たちは馬車の口髭の生えた先導さんに「二人なんですけど、乗れますか?」と近付く。
「おう、乗ってきな。可愛いお嬢さん、アンタたち旅人なのかい?」
「ええ、最近二人で旅を始めました」
「ほーう。何か目的があるのかい?」、そう聞かれるとレミリエルさんは私の方をチラリとみた。
「何でしたっけ?エルノアさん」
「えっと⋯⋯お金儲けがしたくて⋯⋯」、急に話を振られて、素直に欲丸出しの本心を応えてしまった。私の知ってる世界だとドン引かれるやつだ。
「お、おお⋯⋯。お嬢ちゃん若いのに貪欲だなぁ」、ポカンと口を開く先導さん。十三歳の少女から出る言葉ではないよね。
「す、すみません⋯⋯」、何故か謝る私。
「いや悪くはねえと思うけどよ。まあ乗ってる間、商売が何たるかを教えてやるよ、乗んな」
私達は「乗れ」と促され、馬車の荷台に乗った。
中には既に何人か乗っていて、旅の僧侶や魔女、戦士等のファンタジーらしい方々もいた。
「おねーた、旅してるのー?」、その中でも一人、私に話しかけてくる物好きさんがいた。
「あっ、え、はい?」、異様にテンパる私にレミリエルさんが「私も乗り越えた試練です、泣かさないように」と釘を指してきた。
そう、荷台乗っていた幼女が目を輝かせて話しかけてきた。
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