2005年

Summer has come.(現代恋愛)

 ダンナさんは、コンビニ袋片手にしまった、という表情を浮かべていた。湯気も消えて、冷めた紅茶入りのティーポットと、お揃いのカップを凝視しながら。

「ご……ごめん」

 悪戯をして反省する子供みたいに、謝るダンナさんの姿はとても可愛らしい。一般男性よりちょっとばかし低い身長と、童顔のせいも相まってますます。三十も間近の現役サラリーマンにこんな表現するのは失礼かもしれない。でも、可愛いんだからしょうがない。乙女ゴコロを擽る。乙女、と呼べないトシだというのは余談だ。

 とにかくも、だから思わず困らせてみたいと小学生級の思惑を抱いてしまうのも、致し方ない。……多分。

「シン君が『君が淹れた美味しい紅茶が飲みたい』って言うから、一生懸命愛を込めて淹れたのにぃ」

 紅茶が冷めた位別にどうってことない。別に淹れなおせば、問題ナッシングだし。電子レンジでチンは避けたい。そこは俄かではあるが、紅茶派のこだわりってものがあるのだ。

「ヤニ切れたなーと思ってさ。そしたら我慢できなくなっちゃてさ。本当に悪かった!」

 ダンナさんは、童顔に似合わずスモーカーだ。日に何箱も開ける位の、ヘビースモーカーではないから禁煙しろとかは言わない。煙が篭らない程度なら、タバコの香りも悪いものではない。ダンナさんの存在が感じられるし。

「ショック。タバコに負けた」

「だからごめんって。こら、機嫌直しなさい」

 ……確かに、短いけどそろそろ潮時のようだ。

「それにしても、タバコ買うだけにしてはちょっと遅くない?」

 我が家と最寄のコンビニまでは徒歩二分程度だ。タバコなんてレジで買うから探す時間は殆どないはず。

「どうせ、立ち読みとかしてたんでしょー。お好みのグラビアは見つかりましたかー?」

「馬鹿、そんな本見てないよ。漫画だよ漫画!」

「やっぱり、立ち読みしてたんだ」

「……あ」


*      *      *


「折角だから、紅茶いただこうかな」

「え? もう冷めちゃったから、淹れなおすよ」

「いいって、手間かけるから。勿体無いしそれに愛が一番沢山入っている紅茶が飲みたいの」

「……その気持ちは嬉しいけど、そこはこだわりがー」

『……本日は全国各地で真夏日を越える天気となり……』

 待っている間の暇つぶしに流していたTVから聞こえる天気予報。

 そう言えば昨日の夜から寝苦しくって、クーラーつけっ放しにしてたから感覚が麻痺してた。そういえば、ダンナさんも汗をかいている。それは確かに、立ち読みでもして涼みたい気持ちになるのも無理はない。今は夏真っ盛りなんだから。

「良くタバコだけのためにこの暑い中外出したね。私絶対駄目」

「うん……確かに、俺もそう思った。コンビニ、極楽だったよ~」

 言いながら、ポットに手を伸ばすダンナさんの手を遮った。

「待ってて、今。アイスティーにしてくるから」

 窓から見える空には、とってもまぶしい夏の太陽が煌いていた。

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