第7話 妹は兄以外にパンチラしない
チャイムが鳴って授業が終わり――教室の空気が緩む。
春太も、ふーっと息を吐いて開いていたノートを閉じた。
高校に入って一ヶ月も経っておらず、まだ授業のペースは掴み切れていない。
これで午前の授業は終了、昼休みだ。
「おーい、春太郎。メシは?」
「ああ、今日も弁当持ってきてる。松風は?」
春太は、近づいてきた松風にカバンから取り出した弁当箱を掲げてみせる。
もちろん、
雪季の中学も弁当なので、毎朝自分と兄の分をつくってくれる。
ニコニコ笑って懐いてきて、可愛い上に弁当までつくってくれる妹なのだ。
これではシスコンにならないほうが妹に失礼だとすら、春太は思っている。
「そっかー。俺、今日は早弁しちゃったんだよな。購買で買ってくるか」
「今日は、じゃなくて毎日早弁してんだろ」
松風はバスケ部の朝練もあるし、昼まで腹がもたないらしい。
「つーか、学食で食ってきてもいいぞ」
「学食は混むし、美味いけど量がイマイチなんだよな。購買で弁当とパンをいくつか買うのが腹もちいいんだよ」
「そんなもんか」
松風は気遣いができるタイプだが、春太の昼飯に付き合うためだけに学食を避けてるわけではないようだ。
春太が通う
弁当と惣菜パンが数種類販売していて、量も充分だ。
「じゃ、ちょっと買ってくる。春太郎、飲み物買ってきてやるよ。なにがいい?」
「水」
「シンプルだなあ……まあ、了解」
松風が苦笑して、教室を出て行く。
春太は余計な飲み物の味で、雪季の弁当を楽しむのを邪魔されたくないのだ。
「桜羽くん」
「……ああ、
と、不意に春太の前の席に月夜見
今日は、前で垂らしている髪を三つ編みにしている。
晶穂は二つ結びにしたり、そのまま下ろしたり、日によって髪型を変えているようだ。
「この前はどーも。妹さんはお元気?」
「そうそう、月夜見さんトコのチャンネル登録したとか言ってたぞ」
「おおっ、嬉しい。あたしの動画、観てくれたのかな?」
「歌はよくわからんかったらしい」
「おおっ、可愛い顔して手厳しいね、あの子」
晶穂が苦笑して、がっくりと肩を落とす。
「私も動画投稿してみようかな、とか言い出してたな」
「それはちょっと嬉しいかも。あたしも人を感化させるレベルの歌を出したいんだよね」
「妹は歌じゃなくて、踊ったりしてみたいらしい」
「まあ、JKはそっちが流行りだね。あ、あの子はまだJCか。大して変わんないけど」
「ただ、俺は妹に動画投稿はやらせたくないんだよな」
「身バレが怖いとか?」
「それもあるが、ウチの妹は警戒心薄いからなあ……特に俺の前では」
目に浮かぶようだ。
雪季が制服のままひらひらとスカートを揺らしながら踊って、パンツをちらちらさせている映像が。
間違いなく、雪季は兄を撮影係に選ぶだろう。
雪季がお気に入りの白いパンツをはいて、パンチラを撮影している兄に見せつけながら踊っている絵ヅラも容易に浮かんでくる。
『あ、お兄ちゃん。パンツが映ってるトコロは黒く潰してください。未加工の映像はお兄ちゃん一人で楽しんでくださいね。ほら、お兄ちゃんの好きな白パンツのパンチラですよ。ちらちら♡』
そんなことを言ってくる声まで、春太には脳内再生余裕だった。
妹は、兄のパンツの好みまで知っている。
白が一番で、次にピンク、水色の順だ。
雪季がはくのも、ほぼその三色に限られている。
「ちょっと、桜羽くん。黙り込まないでくれる?」
「あ、ああ」
つい、妹の白いパンツを黒く塗りつぶす未来に気を取られていた。
雪季はPC操作も苦手なので、もし本気で妹が動画投稿を始めたら間違いなく春太が映像編集担当になるだろう。
「月夜見さんがギター弾いてる姿は格好いいってさ。どうせなら、顔も観たかったとか」
「ふーん……そう言ってくれるなら許すか」
春太も、妹に付き合って晶穂の演奏動画を観た。
いわゆるギター弾き語りで、ギリギリ顔が見えないアングルだった。
衣装は、コスプレ用と思われるセーラー服姿。
パンツはもちろん見えてなかったが、胸の大きさはセーラー服の上からでもわかるレベルのサイズ。
巨乳JKの歌動画、ということで下劣なコメントもいくつか見られた。
「顔バレを気にしてるわけじゃないんだけどね。顔を見せないほうが、視聴者さんの想像をかきたてるかなって」
「月夜見さんなら、顔を見せたほうがチャンネル登録増えるんじゃないか?」
「それは妹さんのご意見? それとも、桜羽くんの?」
「……ご想像にお任せしよう」
春太の意見だが、さほど親しくないクラスメイトに言うことではなかった。
「ま、追及しないでおこう。そういや、名刺渡したのに桜羽くんも妹さんもLINE登録してないね?」
「いきなりLINEの登録するのも図々しくないか?」
「めんどくさっ。ID渡してんだから、気軽に登録してよ」
晶穂はおかしそうに笑っている。
そう言われても、春太は女子と積極的に交流するタイプでもない。
雪季のほうは人見知りするタチだし、一度会っただけの歳上女子とLINEで繋がるのはハードルが高い。
「ま、桜羽くんはともかく、妹さんに直で感想聞きたいんだけどなー。やっぱ、今時は若い女子にウケないとバズらないから」
「若い女子って……月夜見さんもだろ」
「あたしはあんま普通じゃないから」
「自分で言うか?」
「ギター弾き語りの動画投稿なんて、あんまりやらないでしょ。歌だけとかダンスだけとかなら、腐るほどあるけどね」
「ギター弾き語り自体はいっぱいあるだろうけど、女子高生はそんなにやらないか?」
「昔と比べて、ギター弾くJKは減ってるだろうしね」
晶穂は、じゃじゃーんとギターを弾くマネをする。
実際に弾けるだけあって、それだけでもサマになっている。
「ところで、君なら直で感想を聞けるわけだよね? 妹さんと一緒に、AKIHO弾き語り、観てくれた?」
「あー、観たんだが……俺もあまり音楽聴かないからな。なんと言っていいのやら」
良し悪しの判断が難しい。
適当に「良かった」と言えばいいのだろうが、それは不誠実な気がしてしまう。
「あー、桜羽くんも今時の子だね。音楽に親しんでこなかったか」
「まったく聴かないわけじゃないが……ああ、親父がサブスク契約してるから、流行ってるヤツをたまに聴いてる」
ゲームのサントラが一番多いのだが、おそらく晶穂の期待している答えではないだろう。
「聴いてるだけまだマシか。あたしの友達でも普通にバンドの曲とか聴くヤツ全然いなくてさ。CDなんて、存在すら知らないんじゃないかと思うよ」
「CDか。ウチの親父はけっこう持ってるな」
「え!? マジで!?」
晶穂が、ぐいっと身を乗り出してくる。
机の上に、その立派な二つのふくらみがどかっと乗っかっている。
「あ、ああ。親父はCD世代なんじゃないか? よく知らんけど。昔はレコードも持ってたらしいが、かさばるから処分したとか」
「おー、レコード持ってたってことはガチなのかな。お父さん、音楽やってたとか?」
「バンドはやってなかったけど、アコギってヤツは弾けるらしい。昔、聴かされた記憶がある」
アコースティックギターという、機械を通さずに音を鳴らすタイプのギターだ。
いつの間にか家から消えていて、今はない。
「へぇーへぇー。桜羽くんのお父さんって、もしかしてCDいっぱい持ってる? コンポとかある?」
「コンポ? あー、音楽聴くヤツか。よくわからん機械がリビングにあったな。アンプとか、あとスピーカーもでかいのが。片付けようと思ってるんだが、親父が抵抗しててそのまんまになってるんだよな。その親父も、最近は全然聴けてないくせに」
「桜羽くん……!」
「な、なんだ?」
晶穂がさらに身を乗り出してきて、がしっと春太の手を両手で掴んでくる。
掴んで引き寄せるようにしているので、春太の指先がかすかに晶穂のふくらみに、ぷにっとめり込んでいる。
春太が同級生女子おっぱいのあまりの柔らかさと弾力に固まっていると。
晶穂はその大きな目をらんらんと輝かせて――
「今日、桜羽くんの家にお邪魔してもいいかな!?」
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