第6話 妹は兄とのお風呂を恥ずかしがらない

 風呂場に入ってきた雪季ふゆが、おずおずと口を開く。

「ダメ……ですか?」

「ダメって……」

 春太は、妹のすらりとした肢体を見つめ続けつつ――

「そろそろ、二人で入るのは狭いからやめとこうって言ってなかったか?」

「たまにはいいじゃないですか♡」

 あっさりと前言を翻す妹だった。

 妹はあまり家のことで不満は言わないが、風呂が狭いことには文句があるらしい。

 風呂好きなので、身体を伸ばして入れない湯船が気に入らないようだ。

 それで、つい先日二人で一緒に入ったときに、「もう一人で入ることにしますか」などと言っていたものだ。

 妹は、その数日前の発言はもう忘れたらしい。

「それに、最近は一緒に入れるチャンスも少ないですし。今日はパパもママも遅いの確定だから、ゆっくり二人で入れます」

「まあなあ……」

「さすがに、中三と高一の兄妹が一緒にお風呂入ってたら、親も怪しみますからね」

「別にそんなんじゃないのにな」

 春太も雪季も、常識は知っている。

 高一の兄、中三の妹が一緒に入浴することを当たり前だとは思っていない。

 親にバレたら、余計な心配をかけることも理解している。

 だが、二人の意識では特殊なことではないのだ。

 二人は、幼い頃から一緒に風呂に入ってきた。

 春太の身体ががっしりと分厚くなり、雪季の身体が胸がふくらんで腰がくびれてきたというだけだ。

「ですよね。あ、私も身体洗っちゃいますね」

 雪季はタオルを外して、その中学生離れしたスタイルを兄の前に晒す。

 大きな二つのふくらみと、頂点の桃色の突起。白いお腹にへそ、くびれた腰。

 その下と――ほっそりした太もも。

 雪季はすべてを惜しげもなく兄の前で見せながら、身体を洗い、長い茶髪も丁寧に洗う。

 春太は妹のその姿をぼーっと眺めている。

 美人になったなあとは思う。

 だが、あくまで妹だ。

 たとえば月夜見晶穂つくよみあきほの胸元を見たときのような欲望は感じない。

 雪季も晶穂に負けずに綺麗だし、エロい身体付きとは思うが、どうこうしたいなどとは思わないのだ。

「お兄ちゃん、もう少し詰めてください。お互い、大きくなりすぎましたね」

 雪季は髪も身体も洗い終えると、湯船に入ってきた。

 さして広くもない湯船に、兄妹は向き合って浸かる。

 さすがにぎゅうぎゅうで、二人は脚を絡めるようにしている。

「あ、お兄ちゃん。お風呂上がったら、タオルは私の服の上に積まないでくださいよ? ちゃんとタオル用のカゴに入れてください。入れるときはお兄ちゃんのタオルが下、私のが上ですからね。順番的にそうじゃないとおかしいですから」

「雪季は細かいな。親も、わざわざ脱衣カゴの中なんて覗かないだろ」

「甘いです!」

 雪季が、ぐいっと身を乗り出してくる。

 二つのたわなふくらみが、ぷるんと揺れる。

「ウチの親は共働きで子供のことなんてろくに見てない――と考えるのは甘々ですよ。意外と親は、子供を気にしてるものなんです」

「雪季に子供がいるとは知らなかったな。俺も早くも伯父さんか」

「茶化さないでください」

 むうっ、と雪季は頬をふくらませる。

 スタイルは中学生離れした妹だが、本人が言うとおり中身はまだ小学生のようなところがある。

「共働きで目が行き届かないからこそ、見える部分は気をつけてるんですよ。特にママは。お兄ちゃん、ちょっと前にトランクスからボクサーパンツに替えたでしょう? あれ、ママも気づいてましたよ。“春太も色気づきましたねー”って言ってました」

「へぇ……」

 春太には意外な話だった。

 洗濯は休日も雪季が担当している。

 母親は、春太の洗濯物を目にすることすらないと思っていたからだ。

「私たちに後ろめたいことはなくても、親に心配させるのも悪いですから。仕事が大変な上に、子供たちが不道徳な関係だとか疑ってたら倒れちゃいますよ」

「……根本的に、一緒に風呂に入るのをやめるべきか」

「そうですね、今後も今日みたいに絶対にバレない日以外はやめておきましょう」

 春太は今後一切やめようかと言ったつもりだったが、妹は別な解釈をしたようだ。

「はー、厄介ですね。私たちが自宅で一緒にお風呂入っても、誰の迷惑になるわけでもないのに」

「バレたらシスコン扱いじゃ済まないだろうな」

 春太は、妹の裸身を眺めつつ苦笑する。

「へー、あの晶穂さんに変態扱いされるのがそんなにイヤですか。そうですか」

「月夜見さんの話はしてないだろ!?」

「ふーん、お兄ちゃんも男の子ですもんね。あの方、可愛かったし、私よりおっぱいも大きいですもんね」

「胸のサイズがどうこうって話でもなくてな……」

 はっきり言って、雪季も充分すぎるほど大きい。

 しかも年齢的に将来性にも期待できる。

 そんなことでヘソを曲げられても、兄としては困ってしまう。

「お兄ちゃん、カノジョができたらちゃんと私に教えてくださいよ」

「殺すのか?」

「人をヤンデレ妹みたいに!」

 また、頬をふくらませる雪季。

「お兄ちゃんが変な女に騙されないように、私がチェックする必要があるだけですよ」

 そういうのがヤンデレ妹なのではないか、と思うが春太は突っ込まない。

「じゃあ、雪季もカレシができたら俺に教えてくれるんだな?」

「殺すんですか?」

「身体目当てだった場合は、命の保証はできないな」

 冗談めかしているが、兄は真剣である。

「まあ、この身体に群がる殿方は多そうですけどね」

「そこはマジでそうだな」

 じーっと、春太は発育のいい妹の身体を見つめる。

 胸は大きく形もいいし、その頂点の可愛らしい小さな乳首も綺麗な薄ピンク色。

 この身体に興味を持たない男は、そうはいないだろう。

「つーか、来年からが心配だな。できれば、徒歩か自転車で行ける高校に進んでもらいたい」

「電車だと痴漢が怖いですね……」

「だよな……ああ、そうか。俺と同じ高校に来ればいい。朝も帰りも俺がついていれば、痴漢なんか近づけねぇし」

「お兄ちゃんと同じ高校!? そ、それはちょっとキツくないでしょうか……」

 学力にまったく自信のない雪季は怯んでいる。

 いくら重度のブラコンの雪季でも、できることとできないことがある。

 春太が通う高校は、このあたりではレベルが高いほうだ。

 今の雪季の学力では、合格は不可能に近いだろう。

「そ、それにお兄ちゃんのほうが一年早く卒業するんですから。根本的な解決になりませんよ」

「高校を出る前に免許を取って、車で送ってやればいいだろ」

 桜羽家には、自家用車が一台ある。

 両親は平日には使用しないので、雪季の送迎は可能だ。

「お、お兄ちゃんも大学行くでしょう。私の送り迎えをする暇なんか……」

「そんなことはなんとでもするさ」

 電車を使わなければ、さらに雪季を安全に登校させられる。

 大学の授業はある程度融通が利くというし、春太は雪季の安全を最優先にするつもりだ。

「お兄ちゃんは、本当に私に甘いですね。私が言うのもなんですけど」

「雪季が言うのもなんだな」

「きゃうー」

 春太は、雪季の頭をぐしぐしと撫でる。

 こうして妹を甘やかせる時間も、そんなに長くは続かないだろう。

 春太は、雪季の成長した身体を見ているとそう思ってしまう。

 普通なら、もうとっくに二人で風呂に入れる時期など過ぎ去っている。

 春太と雪季は特殊な兄妹だからこそ、数年間の延長期間があるだけだ。

 それが間もなく終わることを春太は知っている――おそらく、雪季も。

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