9−幕 物語の結末
「――このバカ野郎! ンな事まで親父の真似、してんじゃねえ!」
僕が次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。目覚めて真っ先にやってきたのは田所さんで、それはもう尋常じゃない叱られ方をした。
警察は原則二人以上で行動する。裁判等になった時の為だが僕がやったのは規則違反で減俸だってあるかも知れない。下手をすれば処分――懲戒免職になっても文句が言えない。
だけどまだ頭がぼんやりする僕に田所さんは溜息をつくと、すぐ脇で僕の手を掴んだまま眠りこけている少女に視線を移して優しい声音で言った。
「……この嬢ちゃんに感謝するんだな。お前を呼びながら傷口を必死に押さえてたぞ?」
*
押っ取り刀で駆けつけた田所さんによるとその時点で僕は意識不明だった。相当出血も酷くて足場は血塗れで騒ぎになったらしい。そんな中で小夜子ちゃんが泣きながら僕の傷を押さえていたそうだ。それを聞いて僕は手を掴む小さな手をそっと握り返した。
一六時一一分。ビルの解体現場にて病院から姿を眩ませた渡辺由美子を発見、保護。その際錯乱した少女が抵抗。権堂太一警部補……僕は全治三ヶ月の負傷を負う事となった。
凶器は現場に落ちていた釘で刺された後に暴れられて傷口が拡大、重症に至った。現場に遅れてやってきた田所巡査部長に保護されて緊急搬送。そして今こうして小夜子ちゃんが僕の手を掴んだまま眠っている。
どうして僕はまだ生きていられるんだろう……そんな事をぼんやり考えていた。死にたかった訳じゃないがその理由が知りたい。あの時渡辺由美子は確かに僕の排除――死ぬ事を望んでサイトに投稿した筈だ。それなのにどうして僕は死なずに助かったのか。
そう言えば――小夜子ちゃんが『願いは叶わない』とか言ってたっけ……まあ、何とか無事だった訳だし……今はどうでもいい、かな……。
僕は掌にある温かさを感じながら、そのまま再び目を閉じた。
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