第11話

11 使えば使うほど、(俺が)得するカスタマーカード

 クズリュウはやっと、武器屋の仕入れをしてくれた。


 そのとき店内にいたエンジェルハイロウの面々は、クリスマスシーズンのオモチャ屋につれてこられた子供のように輝いていたのだが……。

 今や、歯医者に騙されて連れてこられた子供のように、呆然自失になっていた。


 出現した武器や防具が、あまりにも大きく、あまりにも異形だったからだ。

 おそるおそる商品棚に近づいた彼らは、口々に叫ぶ。


「お……おい、この鎧、デカすぎるだろ! トロール用かよ!? こんなの着れねぇよ!」


「コイツはたしかに徹甲矢だが、矢にしてはデカくて重すぎる!

 こんなの弩弓でもなきゃ撃ち出せねぇねよ!」


 客たちの苦情に、クズリュウはわざとらしいほどの困り顔を作る。


「あちゃー。そうか、ならしょうがないな。

 でもせっかく仕入れたものだから、別の客に買ってもらうしかないかぁ」


 リーダー「別の客だと?」とリーダーが聞き返すと同時に、クズリュウは店の奥に向かって指をパチンと鳴らす。

 すると、店の奥に見えていたもうひとつの入口が、ピクリと震える。


 はめ込んであったガラスごしに見える『OPEN』の看板がひっくり返り、『CLOSE』に変わった。

 つまり外から見たら、あの入口は『OPEN』になったことになる。


 途端、すぐ外で戦っていたドラゴニアンたちが、一目散で店になだれこんできた。

 エンジェルハイロウのメンバーたちは、ギョッとなって抜刀しようとしたが、剣はまるで鞘に接着されたみたいに抜けない。


 マネームーンが「『デミリタライズ』がある限り、戦う用途では武器は抜けないまね」とボソリつぶやく。

 とうとう店の中は、エンジェルハイロウのメンバーたちと、ドラゴニアンたちでひしめきあう。


 しかしお互い攻撃はできないという、異様な空間になっていた。

 クズリュウは人間たちをほっぽって、モンスターたちに接客を始める。


「いらっしゃい。新しい武器を探してるみたいだな。

 なら、あそこにある戦斧なんてどうだ?」


 ドラゴニアンは勧められるがままに、壁に掛けてあった戦斧を手に取る。

 サーフボードのように巨大なそれは、人間では押しつぶされそうなほどの重量があるのだが、彼らにとっては軽々としたものだった。


「ひと薙ぎすれば、冒険者の首を10匹まとめて狩れるスグレモノだぞ」


 クズリュウはセールストークとともに、店の片隅にいたエンジェルハイロウのメンバーを指さす。


「アイツらがこの店を出たら、斬れ味を試してみるといい」


 さらにクズリュウは、矢を探しているドラゴニアンに声をかけた。


「徹甲矢はどうだ? やじりに炸薬が込められているから、爆発で一網打尽にできるぞ。

 アイツらが外に出た瞬間に打ち込んでやれば、一発で決着がつく」


 まるで実験用のモルモットのように、事あるごとに引き合いに出されるエンジェルハイロウのメンバーたち。

 彼らは震えあがりながらも、クズリュウに詰め寄った。


「ふっ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


「おいクズっ! モンスターに武器を売るってどういうつもりだっ!?」


「しょうがないだろ、お前たちが買わないんだから。

 このままじゃ、不良在庫になっちまうからな」


「だ……だったら返品すりゃいいだろうが!

 仕入れが一瞬なら、返品も一瞬だろ!」


「手数料がかかるからやりたくないんだよ。

 それに見てみろよ、ドラゴニアンたちは喜んで買ってくれてるから、返品の必要なんてないだろ?」


 クズリュウは、物騒な武器を手に会計カウンターに並ぶドラゴニアンたちを指さす。

 会計カウンターにはマネームーンがいて、高速レジ打ちで次々と客をさばいていた。


「あ……あんなヤバい武器を持たれたら、俺たちゃ全滅しちまうよ!」


「それはお前さんたちの都合だろ? こっちは在庫が捌ければなんだっていいんだ」


「いや、待て! 仕入れの金を払ったのは俺たちじゃないか!

 だから店に並んでる商品は、俺たちのものだ!」


「確かにそうだな。でもこの店に並んだ以上、商品の所有権は店長である俺にあるんだ。

 あ、そうだ、いい考えがあるぞ」


 クズリュウはさも名案を思いついたかのように、ポンと手を打ち鳴らす。


「ドラゴニアンより先に、この店の在庫をぜんぶ買い占めちまえばいいんだよ。

 もちろん、金を払ってな」


 クズリュウはツケの生産と在庫の仕入れのために、エンジェルハイロウのメンバー全員を、ケツの毛まで毟り取った。

 しかしそれだけでは飽き足らず、まだ金をせしめようというのだ。


 あまりに身勝手な言い分に、人間たちはとうとう爆発した。


「ふっ……ふふふっ……!! ふざけるなぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」


「この、クズ野郎っ! テメェなんて、人間のクズだっ!」


「貴様っ! それでも世界一のギルド『エンジェルハイロウ』のメンバーかっ!?」


 しかしいくら罵られても、クズリュウは何処吹く風。


「いや、俺はもうメンバーじゃない。フリーエージェントだ。

 だからエンジェルハイロウに義理立てする必要なんてないよなぁ?

 これからお前さんたちが、バラバラにされようがミンチにされようが、俺は知ったこっちゃないんだ。

 だってもう、ツケはぜんぶ払ってもらったからな」


 アゴでクイッと示した先は、武器屋の外。


 そこには、真新しい武器を手に、ソワソワと窓を覗き込んでくるドラゴニアンたちが。

 まるで死神の集団のように、出待ちをしていたのだ……!


 「ひいいっ!?」と蒼白になるエンジェルハイロウのメンバーたち。

 さらに追い討ちをかけるかのように、彼らの頭上に「5:00」とカウントダウンのような数字が現れる。


 「あーあ」と、クズリュウは残念でもなさそうに言う。


「『オーバーウインドウ』のスキルの効果が現れたようだな。

 このままなにも買わないと、あと5分で強制退店させられるぞ」


「ひっ……ひぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 メンバーたちはプライドをかなぐり捨て、クズリュウにすがる。


「そ……そんな! た……頼む! 助けてくれ!」


「このまま追い出されたら、俺たち、死んじまうよ!」


「そう言われてもなぁ、なにか買ってくれればいいだけなんだがなぁ」


「金目のものはもうぜんぶ、お前……いや、あなたにあげてしまったんです!」


「だからもう、1エンダーもありません! お願いです! お願いですぅぅ!」


「生きてここを出られたら、お金はいくらでも差し上げます!! ですから、ですからぁぁぁぁ!」


 メンバーたちはとうとう、クズリュウに土下座して泣きすがる。

 足にしがみつかれ、クズリュウは降参したように両手を挙げた。


「わかったわかった。俺も鬼じゃないから、なんとかしてやろう。

 このクエストは失敗するだろうが、生きて帰れるようにはしてやるよ。

 ひとり100万エンダーで、『転送屋』を使わせてやるよ」


「ひゃ……100万!? そんなお金、もうありませぇぇぇん!」


 クズリュウは「それなら心配するな」とまた指を鳴らす。

 すると、会計が一段落したマネームーンが、店の奥からなにかを持ってやって来る。


 それは木でできた、薄いカードの束であった。

 メンバーたちにひとり1枚ずつ手渡されたあと、クズリュウは説明する。


「それは、俺が立ち上げたギルド『ヘルボトム』のカスタマーカードだ。

 それがあれば、ひとり100万エンダーまで、現金の支払いなしで買い物ができるようになるんだ。

 しかもカスタマーランクが上がれば、使える限度額もさらに上がるぞ」


 「ほ……ホントですか!? まるで夢みたいなカードですね!?」と色めきたつメンバーたち。

 クズリュウはしゃがみこんで、彼らに目線を合わせ、ニヤリと笑った。


「そう……夢の『リボ払い』ができるカードだ……!」

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