第8話 強敵
エイミングの効果でナイフがぐんと軌道を変え、地面に向かった。
しかし、ナイフは何かに弾かれ地面に転がる。
「な、なんだ?」
『スライムかな』
ハールーンの言葉通り、ナイフの傍にぷるぷるんと体を震わせていたスライムがいた。
両手に収まる大きさとスライムとしても小型の部類だな。初心者冒険者が相手にするスライムより更に小さい。
こちらを攻撃してこようとする気配もないし、ひとまず放置してもよさ――。
殺気!
な……こいつはマズイと思うや否やキラリと何かが光ったことだけを目の端で捉えた俺は咄嗟に地面に伏せる。
ガガガガガンと金属を打ち鳴らす音が背後に響いた。
入口の扉と頭上を通った何かが打ち合わさった音だろうけど、何で攻撃されたのかまでは見えていない。
「お、おいおい!」
顔をあげ見えたものに、圧倒されるよりあんまりな光景に却って冷静になれた。
大聖堂を入った場所は広間になっていて、天井は高く、左右奥に弧を描いた階段がある。
左右の階段は中央の踊り場に繋がっていてそこに大きな両開きの扉があった。
それでだな、天井から巨大なシャンデリアがぶら下がっていたのだけど、シャンデリアだけじゃなくて幾本ものナイフが宙に浮かんでいたんだよ!
さっきはこのうち一本が飛んできたのか、いや、軌道からして別の場所にあったナイフかもしれない。
しっかし、見えているだけで三十を超えるナイフが待ち構えているとは……。
侵入者への罠にしてもオーバーキル過ぎるだろ。
『ぼーっとしてていいのかい? 僕は一旦外に出るよ』
「俺は……耐えるといいたいところだけど、この数は……っつ一斉に来やがった!」
雨あられのごとくナイフが降り注いでくる。
上からだけじゃない、正面からも飛んできやがった。
腰を落とし、じりじり下がりながらどうやって受けきるか高速で頭を回転させる。
やれる限りやるしかねえ!
「斬月!」
三日月の衝撃波がナイフを吹き飛ばす。
もう一発間に合うか。
「斬月……ディフレクト!」
今度は斜め上に三日月を飛ばし、残りは剣で打ち払おうとするも腕が戻し切れん。
ならばとディフレクトで無理やり姿勢を戻しナイフを弾く。
しかし、まだ残り三本!
一本はトレースの動作を使って右脚で蹴ることで回避。
もう一本は剣の柄裏にたまたま当たった。
ラスト一本はどうしようもねえ。肩口辺りに刺さるか。
しかし、そこへハールーンが割り込み、彼の体にナイフが吸い込まれていく。
「ハールーン!」
そ、そんなハールーン。
肩に刺さった程度じゃ俺は死なない。だけど、彼の小さな体にナイフがまともに刺されば……。
『何をぼーっとしているんだい? 逃げるんじゃなかったのかい?』
「ハールーン! 無事だったのか!」
何ともなってない。形も一切変わってない、ホッとする俺に対しハールーンが呆れたように言葉を返す。
『無事も何も。君こそ無事かい?』
「俺は何ともない」
『なんて顔をしているんだい。僕がナイフを溶かさなければ、君は今頃大怪我しているよ』
「え、あ。そもそもナイフが刺さってもすり抜けたりしていた?」
『すり抜けさせないために溶かしたんだけど?』
「あ、うん。ありがとな」
『全く、そこのスライムでも君よりもう少しちゃんと状況を見ていると思うよ』
ふむ。
スライムの周辺にはナイフが幾本も転がっている。
しかし、スライムは変わらずぷるるんとしたままで、平気な様子。
無言でナイフを拾い集め、にまにまする俺。
っと、悠長にしていては次のナイフが来るかもしれないか。
「一旦ここを出よう」
『その割にはだらしない顔でナイフを集めていたね』
「こ、これは、大きなヒントなんだよ」
『ふうん。そう言うことにしとけばいいのかな』
「何だよ。その疑った様子は」
何て言いあいながら、大聖堂の外に出る俺とハールーンなのであった。
◇◇◇
『なるほどね。確かに意味のある行為だったということにしてもいいかもしれないね』
「だろ」
重い。しかし、これがあれば、ナイフの大広間を突破できること請け合いだ。
俺たちは一旦入口まで戻った。
覚えているだろうか? 小屋から出たら必ず出て来る「門番」を。
そいつの名前はアンデットナイト。
奴は中身の無い鎧が動いているアンデッドだった。
倒した後は動かぬがらんどうの鎧となるのだ。
そいつを拝借して、大聖堂までやって来たというわけなのだよ。
「この鎧で身を護ればいける」
『ナイフも拝借したし、ウハウハってところかい』
「ナイフは有効活用させてもらうだけだ」
『ふうん』
大聖堂に来れば、いくらでもナイフが補充できるぞ、何てことは考えていないからな。
こんなところ二度とごめんだ。攻略した暁には、帰り道で持てるだけナイフを持って出ようと思っているけどね。
だけど、欲張り過ぎは要注意。動きが鈍くなったら本末転倒だ。
「準備はいいか? ハールーン」
『僕は特に』
「そうだった。行くぞー」
鎧を前に掲げ、開けっ放しになった大聖堂の両開きの扉をくぐる。
入場した。
スライムは相変わらずぷるぷるしている。
天井を鎧の後ろから確認したら、あるわあるわ大量のナイフが。
正面にもびっしりとナイフが並んでいる。
目指す先は前回確認しているんだ。左右どちらかの階段を上り、扉の向こう側へ進む。
「うおおおおおお」
気合を入れるため無駄に大声を張り上げ駆ける。
カンカンカンと乾いた音がして、鎧がナイフを弾く。
「ちょ」
案外、脆いんだな。この鎧。
何て感想を抱いている場合じゃねえ。胸側がすでにボロボロになっているようで、背中側から突き出たナイフが頬を掠めた。
い、急げ。あと少しだ。
鎧を後方に投げ捨てナイフを弾き、扉へ肩で体当たりする。
よし、うまい具合に開いた。
そのままゴロゴロと転がりつつ、扉の向こう側へ行くことができた。
「はあはあ……間一髪だった」
『休んでいる暇はないようだよ』
出た先は回廊か。
横幅は三メートルくらいと廊下としてはかなり広い。
左右は柵になっていて、階下が見える。下は食堂らしき空間だった。
数十メートルはあるかという長いテーブルと並んだ椅子が見える。
そして、行く手には人影が二体……。
右側が着流しに俺と同じような片刃の剣を腰に下げた男だったが、人間ではないな。
青白い顔をしていて口元から牙が生えている。額から細長い角も見え、整えられていないぼさぼさの長い髪の隙間から見える目がランランと輝いていた。
もう一体は人型であるが異形。
筋骨隆々で身長は二メートルを超える。くすんだ灰色の肌をしていて四本の腕を持つ。
こちらは上半身裸で下半身は黒色のズボンをはいていた。
強いな……。この二人。
今まで出会ったどのモンスターよりも強い。
グスタフは大聖堂内を探索していなかったのか、こいつらに出会わなかったのか二人のデータはない。
俺が彼らのランクをつけるとしたら最低でもAランクはつける。
分かるんだ。ビリビリとくるこの気配で。
ここに来る前
「後先考えずに使えるものは全部使わないと厳しいな……」
戦闘を避けることはできないか?
戻ることはナイフが襲ってくるから無理。
食堂に飛び降りる?
いざとなれば逃げ先としてはありだが、こいつらが追って来るだろうな……。
食堂で更なるモンスターが待ち構えていたり、罠があったら状況が悪化する。
「やるしかねえか」
片刃の剣を握り、前を見据えた。
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