第7話 大聖堂に押し入る

 片刃の剣「ムラクモ」を構え、スケルタルドレイクが動き出す距離まで一気に詰める。

 尻尾の一撃をひらりと躱し、奴が前傾姿勢になったところで行動開始だ。

 

「斬月。そして、エイミング」


 ぐ、ぐうう。二つ同時だと結構くるな。

 下段から片刃の剣を振り上げると、刃先から薄黄色の三日月が生じる。

 三日月の大きさはちょうど剣の刃と同じくらいで、真っ直ぐ飛んでいく。

 これをエイミングが軌道補正。

 ぐううううんと鋭角を描き、スケルタルドレイクの額に三日月が突き刺さった。

 それだけに留まらず三日月が回転し骨を切り裂く。

 まだ完全には割れないか。

 ならもう一発!

 

 急げ、スケルタルドレイクはもうメディテーション瞑想の態勢に入っている。

 だが、これなら「狙いやすい」。

 

「斬月! もう一発、斬月!」


 や、やべえ。斬月は真っ直ぐに進んだ後に弧を描く。威力は剣で斬りつけた時の数倍になるのだが、狙いをつけるのがとても難しい。

 止まっている相手になら当てることができると思ったが、修行が足りんな……。

 クラクラしてきたが、仕方ねえ。

 

「エイミング。ぬ、ぐ、うおおお。エイミング!」


 二枚の三日月両方にエイミングの補正を与える。

 すると、有り得ない角度を描き今度はスケルタルドレイクの額を完全に破壊することに成功した。

 同時に奴の右目も粉々になる。

 

『ぐがああああああ!』


 メディテーション瞑想の硬直が自動的に解除され、スケルタルドレイクの頭が修復されることなく奴が暴れはじめる。

 メディテーション瞑想を行うには両目を瞑るという動作が必要だ。

 技を発動させるには、正確に動きを再現しなきゃならない。再現するための部位がなきゃ、メディテーション瞑想を使う事ができなくなるはず。

 俺の予想は正しく、スケルタルドレイクの回復が停止した!

 親指や手も使うのだけど、狙って斬りつけている間に回復されてしまう。かといって斬月で一気にやろうにも、今見た通りちゃんと狙った場所に当てることができない。

 となれば、額から破壊してどちらかの目を潰すことを狙うとなったわけだ。

 

「こうなりゃあとは、動かなくなるまで削るのみ!」

『その割には距離を取ったんだね』

「締まらないけど、仕方ない。もう倒れそうだよ」


 ハールーンの言う通り、カッコいいセリフを吐いたはいいが、奴から離れた。

 いやあもう、スペシャルムーブの連続使用で頭痛が酷い。

 メディテーション瞑想で回復した後、再びスケルタルドレイクの懐に潜り込む。

 

 そして、斬りつけることもう何度目か忘れたが、ようやくスケルタルドレイクを倒し切ることができた!

 

「ふ、ふうう。強さってのにもいろいろあるものだな。スケルタルドレイクの攻撃は鋭くない。だけど、タフ過ぎる……」

『ランクBだったっけ』

「そそ。よく覚えているじゃないか」

『まあ、君が何度も覚えるために呟いていたのを聞いていたからね』

 

 ハールーンに笑いかけ、片刃の剣を振り鞘にしまう。

 周囲に敵の気配はない。

 ドスンとその場に腰を下ろし、んーっと伸びをする。

 

「少し休憩したら森に入ろうか」

『そうだね。君なら進めると信じているよ』

「何だよ。突然。まだまだ先は長いんだぞ」

『ハッキリ言わないと分からないのかい? それとも分からないふりをしているのかな』

「何が言いたいんだ?」

『君とはここでお別れということさ。僕は「死者の大聖堂」より先に進むことができない。そう言う風にできているんだ』

「ちょっと待ってくれ。俺はハールーンと約束したよな。一緒にこの魔窟を脱出するって」

『そうだね。でも、進みたくともこの先には進むことができないんだ。僕が何故、あの場所にずっと留まっていたのか想像したことがあるかい?』

「……してなかった。すまん」


 ハールーンなら、空を飛び軽々と森まで到達することができるだろう。

 それにあのスピードだ。早々追いつけるモンスターもいない。回避能力にも優れ、硬直系の攻撃も受け付けない。

 彼単独ならば、「竜の谷」も易々とすり抜けることができるんじゃないか?

 だけど、彼はそうしなかった。いや、できなかった。

 だから、あの小屋で傍観者をやっていたのか。

 

「違う。傍観者を『させられていた』んじゃないか?」

『変なところで鋭いね。ところで、君の目的は何だった?』

「このクソったれな魔窟とやらを出ることだ」

『なら、行くといい。無駄な危険は避けるべきだよ』

「それじゃあダメだ。俺はこうも言ったよな。呼び出した奴をぶん殴るって。その瞬間をハールーンと見たいって」

『全く。好奇心は人を殺す。脱出するだけなら、君ならばできたかもしれないってのに』

「強情で悪かったな。あそこだろ? たぶん」

『ノーコメント。行きたいなら行くと良い。死者の大聖堂の範囲なら、ついていくよ』


 大聖堂の方向へ顔を向け、ニヤリとハールーンに笑いかける。

 抜けるだけじゃなく、大聖堂をクリアしてやろう。

 大聖堂にはハールーンが傍観者にさせられた原因はないかもしれない。だけど、この地から出ることができなくなっているのなら、この地に何かある可能性が高い。

 もし、「死者の大聖堂」のエリア全てを踏破し、尚、ハールーンが森に移動することができないのなら、彼に待っていてもらおう。

 次は森の中を探すだけだ。

 

 ◇◇◇

 

 このエリアを「死者の大聖堂」とグスタフが呼んだのは、目前にある大聖堂カセドラルがあったからだろう。

 東へ東へと進んだ場合、スケルタルドレイクがいた森への入り口まで目立った建物はこれだけしかない。

 森への入り口を探り当てたグスタフなら、アンデッドがひしめくこの地を俺よりは探索をしている。いや、ひょっとしたら彼はくまなく捜索したに違いない。

 何故なら彼は龍の谷まで至り、戻ってきたから。

 他にも出口はないかと血眼になって探したはず。結局手記には森へ至る道以外のことが記載されていなかったことから、森以外の抜け道はなかったと考えていい。

 ひょっとしたらグスタフでさえ発見できなかった別の道があるかもしれないけど、彼に見つけることができなかった道を俺が発見できる気はしないな。

 

「こんな思わせぶりな建物があって、何もないってことはないだろ」

『どうだろうね。分かりやすい場所だからこそ、待ち伏せもいるんじゃないかな』

「そっちかよ。うん。得るものが無くとも、強い敵はいるだろうな……」

『事前情報無しなら、半分以上の挑戦者は大聖堂へ入ろうとするだろうね』

「だからこその、待ち伏せか……嫌らしいことだよ」


 第一の試練「死者の大聖堂」は入り口からして、本気でこっちを殺しにかかってきているからな。

 入場するなり犬のバインドボイスと騎士の剣でハメて来るわ、疲労がピークに達する出口は出口でバカ高い体力を持ったスケルタルドレイクだものな。

 となれば、ここもまあ……。

 

 錆が浮いた両開きの扉は開け放たれている。

 自由に中へどうぞってか。

 片刃の剣を抜き、反対側の手で虎の子のナイフを握りしめる。手持ちのナイフは残り五本か。

 飛び道具が減ることは惜しいが、出し惜しみして怪我をしたら本末転倒だ。

 必要だと思ったら、迷わず使え。

 

 大聖堂の中に踏み込み、周囲を確認することなくナイフを投擲し、叫ぶ。


「エイミング!」


 どうだ? 不意をうとうとした敵がいるならば、先手を打てたはず。

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