第6話 境界を護る者
少し離れるとイモムシは地中に潜って行った。
ふう。出て来るモンスター全てを相手していたら、身が持たん。
あれほどの巨体を倒し切るとなれば、この剣で何回斬りつけなきゃいけないんだよ。
俺が広範囲の魔法やドラゴンのブレスみたいな技を使えれば話は別だが。
残念ながら、俺には魔法の才能が欠片ほどもない。魔法系のスキルを持たずとも魔法を使うことができる。
俺の妹エステルも魔法系スキルは持っていないけど、ちょっとした生活を便利にする魔法を使うことができるんだ。
だけど、俺は簡単な魔法一つも使うことができない。こればっかりは、生まれながらの特性なので仕方がないことなんだけどな。
『これくらいじゃ、息があがることもないか』
「トレースで走ったからな。移動なら任せておけ」
『あははは。僕についてくるってのかい?』
「それは勘弁してくれ。空を飛ぶハールーンに追いつけるわけないだろ」
そもそも速度が違い過ぎるんだけどな。
いくらトレースで疲労が無いっていっても、肉体の限界を超えた速度で走ることなんてできやしない。
「そういや、ハールーンは魔法を使うことができるのか?」
『ううん。君は……ダメだね。魔力がまるでない』
「ほっとけ」
魔法の素養がある人は俺の住んでいたアマランタの街だと、だいたい半分くらい。
残りは魔力が無く、魔法を使いたくても使えないんだ。
俺も使えない人の一人であることは言うまでもない。
大聖堂まであと200メートルほどとかなり近づいたわけだが、ここに立ち寄るつもりはなかった。
俺が何の情報も持っていなかったら、大聖堂を探索しに向かったかもしれん。
<第一の試練は「死者の大聖堂」。ありとあらゆるアンデッドがすくう。気をつけろ。奴らは生者とみるやこぞって襲い掛かって来る。
東だ。東へ進め。さすれば森が見えて来る
グスタフ・ハンコック>
俺には手記という羅針盤がある。思わせぶりな大聖堂は無視して、そのまま東へ向かえば森に到達できることを知っていた。
ひょっとしたら大聖堂には目もくらむほどのお宝が眠っているかもしれない。
だけど、俺の一番の目的は「帰ること」である。これまでの戦いから遭遇するモンスターのレベルが総じて高いことが分かっていた。
グスタフがランクCと位置付けたスケルトンアーチャーやスケルトンウォーリアーにしても、以前の俺なら全く歯が立たなかっただろう。
あの剣士とハンマー使いの二人でも難しいかもな。
「行こう」
『森に向かうんだね』
「大聖堂にはきっととんでもない奴が待ち構えているんじゃなかって悪い予感しかしない」
『命大事に。賢明だよ君は。技を習得し、君は飛躍的に強くなった。それでも、慎重さを失わない』
「あまり持ち上げるな。俺は強くない。だから、避けることのできる危険は避けたい」
『あはははは。やはり君は面白い』
ハールーンがゆらめき、赤から青に色が変わる。
◇◇◇
東へ東へと進む。途中、デスナイトという漆黒の騎士、ブラッドホースという首の無い馬に遭遇する。
デスナイトからは「斬月」というスペシャルムーブを覚えることができた。
ようやく気が付いたことなのだけど、初めて記憶した時に敵の動きに合わせて「ディフレクト」とか使っていたけど、その場で試さなくてもよかったんだよ。
動きを再現さえできれば発動するわけだから、いちいち初めて見た時にそれを試す必要はない。
見て「覚える」だけでトレーススキルで再現すれば使える。
毎回毎回発動させていては、すぐに頭痛が襲って来てその場で倒れてしまう。
あと何回、技を放つことができるのかは感覚で覚えていくしかないな。これもまた修行だ。
そして、いよいよ森が見えてきた。
行く手は高い崖になっていて、登れなくはないがちょっと難しそうだ。
というのは、崖と崖の間に一本道があって坂になっているのだが、ドラゴンの形をした骨が立ちふさがっていたから。
ドラゴンは高さが12メートルほどあり、崖を登ろうとすればあいつが襲い掛かってくることは火を見るよりも明らかだ。
両手、両足が塞がった状態で敵の攻撃を回避するなど無理だからな。
「なるほどな。次のエリアに行くにはこいつを倒せって試練か」
『分かりやすいね』
ハールーンと軽口を叩き合い、ゆっくりとドラゴンの形をした骨――スケルタルドレイクに近づいていく。
グスタフの手記によると、スケルタルドレイクのランクはB+。今まで対峙したモンスターの中では一番強い。
彼我の距離、30メートルというところでスケルタルドレイクが鼓膜を破らんばかりの咆哮をあげる。
ビリビリと体が震え、身が竦むが関係ない。
「まずはお手並み拝見だ!」
片刃の剣を振り上げ全力疾走の勢いそのままに奴の足もとを斬りつけた。
すっと刃が奴の骨に吸い込まれ、斬り抜ける。
よし、剣は通るな。
横薙ぎに飛んできた骨の尻尾を大きく右後方に移動し回避。
くるりと反転し、先ほどと同じ場所を斬りつける。
この速度なら、ついていけそうだ。しかし、相手は巨体。一撃でも喰らえばただでは済まないだろう。
三度、四度、斬りつけ、そろそろ骨を断てそうだというところで、スケルタルドレイクが身震いし動きを止める。
ハタとなり、奴の動きに注目した。
『ぐがああああああ!』
ぐ、っぐう。衝撃に耐えれるよう咄嗟に身構えるが、奴の大音量で体がビリビリと震えただけだった。
「ほう」
みるみるうちに奴の足につけた傷が塞がっていくではないか。
そういう「特殊能力」か。
覚えたぞ。その技!
◇◇◇
他に何か特殊能力を使ってくるのかと思ったが、こいつの攻撃は手足、尻尾、噛みつきと物理的な攻撃しか繰り出してこなかった。
しかし、あの回復能力を使ってくるから、傷をつけても傷をつけても元に戻りやがる。
いくらトレースを最大限に利用しているとはいえ、全部が全部トレーススキルの動作だけじゃない。
俺自身で動くこともあり、徐々にではあるが疲労が蓄積してきた。
「はあはあ……もうどれくらい戦ってんだ」
『さあ。大聖堂からここに来るくらいじゃない?』
「そんなにかよ!」
一旦距離を取り、息を整える。
スケルタルドレイクはあの場所を護るためなのか、一定の距離を離れると追いかけてこなくなるんだ。
「ここなら安全か。よしさっき覚えたあいつの技を使ってみる」
記憶を手繰り寄せ、奴の動きを再現する。
右の親指を立て、手を開き握ると同時に両目をつぶる。
「
自然と言葉が口をついて出る。スケルタルドレイクの特殊能力だけど、俺たち側になると「
この辺り、よくわからないが使うことができるのならそれでいい。深くは考えない。
考えるならば、別の事だ。
そう、どうやってスケルタルドレイクを仕留めるかってこと。そのことだけに集中しろ。
トレースの動作であっても、動かすことができないようだ。
みるみる蓄積した疲労が回復していくのが分かる。
なるほど。いつでも解除はできるのか。
「
よし。体が動く。
『休憩は終わりかい?』
「いや、もう少し
『そうかい。ゆっくりどうぞ。ここなら安全だろうから』
「そうさせてもらう」
今度はその場で座り込み、
ふむ。座った方が回復が早いのか。だったら、寝ころんだらもっと早いかも。
その分、危険が迫った時の対応力が駄々下がりするけどさ。
「さてと。そろそろ。スケルタルドレイクも見飽きただろ?」
『ふうん。何か思いついたんだね』
「まあな。
要はそういうことだ。
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