灯台下の怪異
中下
怪異
ー死亡した行山刑事の遺品のタンスから見つかった遺書ー
この遺書を読もうとしている人、あなたは真実を知ることの代償に命を差し出す覚悟がありますか?もし無いならここで止めておきなさい。あるならこの先にある、いくつかの資料と私の体験について読んでみて下さい。
ー貼り付けられた資料ー
青森県敷島女子高生殺害事件(2019年度版)
事件名:青森県薮島女子高生殺害事件
事件発生日:2019年9月28日
被疑者:棚田満
被害者:西田桃子
身元不明3名
事件概要:2019年9月28日午後17時49分、青森県薮島の海呼灯台の下にて、当時女子高生だった西田桃子が死亡しているのが発見された。現場にはいくつかの血溜まりがあったが、どの血溜まりも彼女の遺体とは離れた場所にあり、DNA鑑定の結果でも彼女のものとは違う結果が出た。このことから彼女を殺害した前後(彼女の死体は放置されていたので恐らく前と推測される)に他の者を殺害し、死体を海に遺棄したと思われる。尚、海からは血溜まりのものと一致する血液が見つかっているが遺体は見つかっていない。警察は容疑者として当時高校生だった棚田満を逮捕した。彼は交番に「灯台に不審者が居る。格闘の末灯台から落とした」と通報しに来ていた。非常に気が動転していた様子だったという。
ーここで紙は破られているー
ー新たな資料ー
この資料は青森県敷島女子高生殺害事件の被疑者である棚田満の取り調べの際の発言を書き起こしたものである。発言の内容があまりにも常軌を逸しているため、結果的には重要な証拠とはならなかった。
行山刑事(以後行山)「まず、あなたは事件当日何をしていましたか?」
棚田満(以後棚田)「はい。私はその日、灯台守の娘の桃子さんに灯台の見学に来ないか誘われたため、灯台に行きました。その火は彼女の父親は(西田家の母は以前に他界している)急用ができて居ませんでした。」
行山「そこであなたは何をしましたか?」
棚田「灯台の中を彼女と見学しました。そして色々見てそろそろ帰ろうとなり、階段を降りてたら…」
行山「階段を降りたら何があったんですか?」
棚田満「せ…背の小さい、3人の赤いフード付きマントを被った人間が入口から入って来ました…。彼らは近くにいた桃子さんを捕まえて…彼女は逃げて!!!と言うんですが私は奴らの放つ邪悪さにおののいて、足がすくんで…そして見てしまったんですよ。奴らが彼女の顔に何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も拳を振るうのを!!!!」
行山「落ち着いてください!そんな作り話信じるはずがないでしょう!」
棚田「違います!奴らは彼女の顔を見るも無惨な肉塊にした後、ゆっくりとこちらを見たんです。その瞬間足が動くようになって俺は走って階段を駆け上がりました。奴らは物凄い速さで追ってきてとうとう1番上に追い詰められた俺は、必死に戦いました。奴らの腕を掴んだ時、汗なのか分かりませんが非常にヌルヌルしていて気持ち悪かったのを覚えています。非常に力が強く、空手部の俺でも負けそうになりました。顔は何故か常に影に隠れていて見えませんでした。そして必死に格闘した結果、全員を灯台の下に落とすことができました!!とりあえず警察に通報しようと灯台を後にした時…見てしまったんですよ」
行山「何を見たんですか?」
棚田「見たんですよ。見てしまったんですよ!俺は絶対に見てはいけないものを見てしまったんです!!!」
行山「だから何を見たんですか!!!」
棚田「奴らはね…灯台から落ちたはずの奴らはね…まだモゾモゾ動いていたんですよ…灯台から落ちたのに…生きていたんですよ…それで近くの崖に向かってイモムシみたいに四肢を使わず腰をくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねさせながら崖に落ちて行きました。それで…俺は本当にパニクっちゃって…ああああああああぁぁぁ!誰だ!誰かがこれを奴らに伝えようとしている!」
行山「いい加減にしろ!警察ナメてんじゃあねぇぞ!」
棚田「ああああああああぁぁぁ!ごめん桃子!!!!聞かれちまったよ!!あはははははははは!!!どぅーだどぅーだ!みゅーりあどぅーだ!!!!」
その後棚田は謎の言葉を繰り返しながら大量に吐血し倒れ、搬送先の病院で死亡が確認された。
ー新たな資料ー
ここまで見てしまったあなた。もう取り返しがつかない。なぜならこの件について探りを入れると必ず命の危険が伴うからだ。事実、私も取り調べの後何度も薮島で赤いフード付きマントを羽織った人間に何度も追われた。薮島の真実だけには絶対に触れてはならない。それにさえ触れなければあなた以外の人間は助かるはずだ。もし薮島に行く機会があれば、汗っかきの地元住人あるいは赤いフード付きマントを羽織った小柄な人間には注意しなさい。私の口から言えるのはそれだけだ。
ー新たな資料ー
薮島の観光ガイド
青森県敷島は自然豊かな島です!海呼山を中心に円錐状に広がっています!危険ですので海には近づかないで下さい。海呼山には海呼山神社があり、薮島の伝説について学べます!
ー新たな資料ー
捜査日記
私は今回青森県敷島女子高生殺害事件についての捜査をするにあたり、万一のため捜査日記をつけることにする。被疑者があんな姿で死んだので何があってもおかしくないからな。
11月8日
捜査1日目。住民から被疑者と被害者についての話を聞く。非常に仲が良く、言い争っている所など見たこともなかったそうだ。被疑者についてはとても優しい青年であり、人に悪口を言ってたり暴力を振るった所も見たことがないそうだ。薬物を使用している可能性も考えたがこの調子だと無さそうだ。
11月9日
海沿いのコンクリートの道を散策していてある事に気がついた。誰一人海に近寄らないのだ。人っ子一人おらず、誰も釣りなどをしていない。それどころか全く植物も生えておらず、野良猫や虫でさえもいない。漁師など居ないのか尋ねたが全部本州から送って貰ってきているそうだ。かなり不気味だったので少し調査してすぐ帰ってきた。
11月10日
海呼山神社で薮島の伝説について調べた。遥か昔に、神は元から地球に住んでいた者と子供を設け、その血を引くのが1部の薮島住民という馬鹿げたものだった。最近住民からの視線を感じる。万一に備え警戒しておくか。
11月11日
殺害現場に行った。灯台の丁度北側に昨日訪れた海呼神社が見えた。あまり事件解決の手がかりになるような物はなかったが、近くの海呼崖まで何かを引きずったような痕跡があった。恐らく死体を引きずったのだろう。ならなぜ女子高生の死体は遺棄せず交番に来たのだろう。
11月12日
住民からの視線が日に日に強くなっているのを感じる。それと最近気の所為かもしれないが赤いフード付きマントの小柄な人間をよく見るようになった。嫌な予感がする。明日で帰宅できるので頑張ろうと思う。
11月13日
捜査もそこそこにとっとと港へ行き船に乗せてもらった。1つ気づいたことがある。私に対して視線を向けてくる人間は皆半袖で汗をかいているのだ。11月中旬の青森だというのに!このことに気づいてからより1層視線を感じる。とにかくこれで捜査は一応済んだ。安心して生活しよう。
ー手記ー
ここまで知ってしまったのならもう取り返しがつきません。あなたは死に、あなたの家族も死ぬでしょう。無駄でしょうが、赤いフード付きマントを羽織った汗っかきな人間ー少なくとも見た目はーに気をつけて。
ー警視庁で発見された資料ー
青森県敷島女子高生殺害事件(2040年度版)
事件名:青森県薮島女子高生殺害事件
事件発生日:2019年9月28日
被疑者:棚田満(死亡)
被害者:西田桃子(死亡)
身元不明3名(恐らく死亡)
担当刑事:行山刑事(死亡)
青森県敷島にて起こった殺人事件。事件の内容は2019年度版と変わらないが、1つだけ追加する情報がある。それは担当刑事の行山刑事が死ぬ直前常々「奴らが来る…奴らが来る…」や「どぅーだ!どぅーだ!」などと意味不明な発言を繰り返していたことだ。2019年、彼の妻は交通事故で亡くなり、息子は行方不明となった。その後彼は帰宅途中に何者かによって顔面を殴打され死亡した。その後捜査は打ち切られ、事件が解決することはなかった。
灯台下の怪異 中下 @nakatayama
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