第2話 バトルロビーで集会

「おお」

 そこには、おおよそ、ありとあらゆるパターンのメイドさんがいた。

 私と同じクラシックメイドドレスから、定番人気のゴシックメイドドレス。ミニスカのピュアメイドドレスに、露出度の高いセクシーメイドドレス。

 ピルグリムドレスでメカニカルっぽくしている人から、着物ベースの和風まで。

 右を向いても左を向いてもメイドだった。


「どう?」

 チームちょこころねの先輩で、メイド長と呼ばれているゆみみさんが言った。

 おそらく笑顔なのだろう、ということは何となくわかる。

 それも、おそらくは相当にいたずらっぽい笑顔。


「すごい、です」


 私はそう答えるだけで精いっぱいだった。

 可愛いキャラが大勢いた。

 まさに、パラダイス。


 だけど、私のキャラも負けてはいない。エステに十時間以上こもったのは伊達ではない。

 私のキャラ、「りぼん」はクラシックメイドドレスの無印に小悪魔風メイドプリムの白を合わせている。ヘアスタイルは変形ツインテのステラヘアー。

 マンガ風瞳Gにイラスト風メイクを合わせている。

 メイド衣装は憧れだった。

 そして、クラシックメイドドレスは、結構高かった。メセタ飛んだ。

 でも、ドレスよりも高かったメイドプリムだけは、ゆみみさんがくれた。

 条件は、いっしょにメイド集会に出ること。


 はいって答えて、私は今ここにいる。


「さ、撮影しよっか」

 いつの間にか、ゆみみさんの隣には黒髪のメイドさんがいた。

 髪をまとめる真っ赤なリボンに、私やゆみみさんと同じクラシックメイドドレスを着ている。

 身長は頭二つ分くらい高い。


 私を中心に二人が並んで、ポーズを取り始めた。

「待機中3持ってたよね。とりあえず、それで」

 私はおとなしく従う。

 ロビーアクション「待機中3」をセットすると、ご主人様の周囲で待機するポーズをとる。

 二人は、それに合わせたポーズで固まった。

「はい、撮影」

 UIを外して、SS撮影のボタンを押す。そして保存。

 私が一枚、二枚撮っている間に二人はポーズを変えて、どんどん撮っていく。

「はい、撮れました」

「撮れました、ありがとう」



「さ、他の人も紹介するよ。花恋さん、ありがとう」

「いえいえーw」


 次に紹介されたのはピンクを基調としたメイドさん。

「この方はリディスさん」

「は、初めまして」

「こちらこそ」

 リディスさんはキャストだった。

 キャストっていうのは、種族のことを言う。

 メカの人。メカなので、関節とかがメカなんだけど、顔とかは普通に人の顔をしている。

 ちなみに、私のりぼんはニューマン。耳のとがった、いわゆるエルフみたいな感じの種族だ。

 再び、三人で並んで撮影する。



 いきなりピンク色のウィスパーチャットが飛んできた。

 ゆみみさん。

「そうだ。twitterのぞいてごらん」

「twitter?」


 私はゲーム画面から目を離し、スマホのtwitterを起動する。

 少しさかのぼると、ゆみみさんのアカウントに、たった今撮ったスクリーンショットが上がっていた。

 私のりぼんさんが笑って映っていた。

「あ」


 再び、ゲーム内チャットでウィスパーが飛んでくる。


「ツイートにハッシュタグついてるよね。#メイド集会って。そこタップしてみて」

 すると。

 さっき花恋さんと撮ったスクリーンショットが。

「え!」

 すでにイイネが三つもついてる。


「みんな見てるんだよw」


 ちょっとぞくっとした。

 これ、私のりぼんさんをほめてくれてる……?

 いやいや、花恋さん人気なだけで……。

「りぼんさん、ご一緒に撮ってもらっていいですか?」

 え? 私に声かけてる?

 カメラを回すと、私の前に素敵なメイドさんが。

 頭上表示はアリカさん。7鯖全〇。

「は、はい」

 アリカさんがすすっと私の隣に来る。

 ポ、ポーズ取らなきゃ!

 私はあわててロビアクを探して選ぶ。

 そしてUIを切ってスクショを撮る。

「ありがとう。りぼんちゃん、可愛いですね!」

 さくっと心に刺さった。

 そう、可愛いのだ。りぼんは可愛いのだ。


 Twitterを見ると、#メイド集会のツイートが増えていた。

 みんな可愛い。

 その可愛いの中に私のりぼんがいた。



 心が躍った。

 喜びが沸き上がった。

 ヤバい、気持ちいい。

 これが承認欲求なんだ。



 何か、私はいけないものを一つ理解した気がした。

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