第21話

21 消されたカボチャ

 ゴッドファーマーとノット・リーが企てた、カボチャ虐殺作戦。

 それはその日の夜のうちに行なわれ、次の日の朝刊を賑わせていた。


『カボチャ農家の狂気の嵐が吹き荒れる!』


『ならず者たちがカボチャ畑を襲撃、ひとつ残らず粉々に!』


『精魂込めて育てたカボチャが、一夜にしてブタのエサと化す!』


 どの新聞も一面トップで、粉々になったカボチャの前でうなだれている農夫たちの真写しんしゃがあった

 そしてどの新聞も、来月に開催される『カボチャコンテスト』のことを心配していた。


 コンテストのコミッショナーであるゴッドファーマーは、声明を発表する。


『カボチャ畑を襲ったゴロツキどもが言うには、このまえ帝国から追放されたシュタイマンとかいうヤツに頼まれたそうでねぇか!

 許せねぇだ! 捕まえて、粉々にしたカボチャみてぇに八つ裂きにしてやりてぇだ!

 でもそんなことよりも、帝国のみんなはコンテストのことを心配しているだ!

 「カボチャ祭り」は年に一度の、豊作を祝う神聖なる祭りだ、だから例年どおり開催するだ!

 そしてもちろん「巨大カボチャコンテスト」もやるだ!

 カボチャ農家は、畑に残っているカボチャがあったら出品してほしいだ!

 サイズが小さくても気にすることはねぇだ!

 ゴロツキどもに負けなかったカボチャは、大きさと同じくらい価値があるだ!

 この危機を、みんなで力を合わせて乗り切るだ!』


 この、改めての開催宣言には、帝国臣民たちの心をガッチリとわし掴みにした。

 一部の庶民はシュタイマンはそんなことをする人間ではないと擁護していたが、その声が届くことはない。


 いずれにしても、世間は『カボチャ祭り』に向けて大きく動き始めたのだ。


 ゴッドファーマーのカボチャ、正確にはノーフのカボチャであるが、それらはノーフの畑ですくすくと育っていた。

 あとは『カボチャ祭り』の2週間ほど前に収穫され、1週間ほどの期間をかけて王都へと搬送される予定となっている。


 ゴッドファーマーは声明を発表したあとは、祭りの準備に追われて大わらわ。

 おかげで収穫当日まで、カボチャ畑に行くことはできなかった。


 そしてあっという間に、収穫当日。

 王城から転送陣を使ってノーフのカボチャ畑に向かったゴッドファーマー。


 憂いも無くなった彼は鼻歌交じりであったが、畑に着いた途端、鼻水を吹き出していた。


 カボチャ畑には念のために、警備の者を付かせていたのだが……。

 彼らはコテンパンにのされ、生き残っていたはずのカボチャまでもが、メチャクチャに……!


「なっ……なんということだ!? オラのカボチャがぜんぶ壊されてるだ!?

 いったい、誰がこんなことをやっただか!?」


 同行していたノット・リーはすぐさま警備員を介抱し、何者の仕業なのかを尋ねた。


「ゴッドファーマー様! 警備の者によると、麦わら帽子にほっかむり、そしてクワを持った集団に襲われたそうです!

 警備は剣術の手練ればかりでしたが、相手の数が多すぎて、太刀打ちできなかったようです!」


「麦わら帽子にほっかむり、それにクワだと!?

 まさか……!?」


「はい! カボチャ農家の者たちに違いありません!

 彼らは自分がカボチャをメチャクチャにされ、出品できなくなった腹いせに、他のカボチャ畑を襲っていたのでしょう!」


「ぐっ……! ぐぎぎぎぎぎぎぎっ……!

 自分が出せなくなったからって、他人の足を引っ張るだなんて……!

 なっ、なんと根性のねじくれ曲がったヤツらだ!」


 自分のしたことをは棚に上げ、ギリギリと歯ぎしりをするゴッドファーマー。

 彼はすでに、すべてのカボチャ農家を、農村ごと取り潰すことを決意していた。


 しかしそれは『カボチャ祭り』が終わってからの話。

 豊作を祝う祭りの前に、農夫を大量に処分するのは世間体として良くない。


 今はそんな事よりも、カボチャをなんとかするのが先であった。


 ゴッドファーマーは崩れ落ち、土まみれになるのもかまわず畑を転げ回って懊悩おうのうする。


「ど……どうすればいい!? どうすればいいだ!?

 もうどこにも、カボチャは残ってねぇだ!」


 『巨大カボチャコンテスト』は最悪なんとかなる。

 出品できるカボチャが出てこなければ『エントリーなし』ということにして、のど自慢大会にでもしてしまえばよいからだ。


 しかしそのあとにある、イベントだけはどうしても中止できない。

 それは集まった者たちに、カボチャを振る舞うということ。


 庶民や貴族、そして聖偉たちは別にいい。

 今年はシュタイマンに壊されたからナシ! と言い切ってしまえばいいからだ。


 しかし帝王だけはそうはいかない。

 帝王はこの『カボチャ祭り』で振る舞われるカボチャを食べるのを、なによりも楽しみにしている。


 ゴッドマザーが作ったパンプキンパイが、なによりものお気に入りであった。

 それが食べられないとなると、帝王はきっと激怒することであろう。


 シュタイマンが命を狙われるぶんにはかまわないが、その矛先がコミッショナーである自分にも向けられかねない。

 なにせ自作自演とはいえ、一度ゴロツキに畑を襲われておきながら、二度も襲撃を許しているのだから。


 そのためゴッドファーマーは、なにがなんでも帝王が食べるぶんのカボチャだけは用意する必要があった。

 今となっては、ゴルフボールサイズのカボチャですら、喉から手が出るくらいに欲しい。


 帝国外の他国を探すという手もあるが、カボチャはゴッドファーマー自身が『高貴野菜』に指定しており、他国での栽培も禁止している。

 まかり間違って他国にカボチャがあったとしても、それを帝王に食べさせるわけにはいかない。


 なんとかして、帝国内でカボチャを見つけなければ……!


 彼は泥遊びをするカバのように畑を転がっていたが、やがて怒れるカバのように奮起すると、


「ノット・リー! いますぐカボチャを探すだ!

 金も人もいくら使ってもいい! この帝国じゅうをひっくり返す勢いで探すだ!

 でなければこのオラは終わりだ! なにがなんでも、カボチャを見つけるだ!」


 ノット・リーは「はっ、ははーっ!」と直立不動になり、尻に火がついた勢いで畑から走り去っていった。


 それからの数日間は、ゴッドファーマーにとって生きた心地がしなかった。


 カボチャの搬送は普段は馬車を使って行なわれるのだが、その期限はとっくに過ぎている。

 最悪、カボチャが見つかりさえすれば、聖偉の権限で転送陣を使ってハンドキャリーすることが可能。


 帝国の果てでもいいので見つかってくれと、ゴッドファーマーは毎日のように神に祈りを捧げていた。

 そしてその切なる思いは、ついに神に通じる。


「ご……ゴッドファーマー様! 帝国内でカボチャが見つかりました!

 しかも噂によると、コンテストクラスの巨大カボチャだそうです!」


「なにっ!? それは本当だか!?

 で、それはどこにあるんだか!?」


「は、はい! それが、とんでもない所に……!」


 息も絶え絶えに飛び込んできたノット・リーから告げられた、カボチャの発見報告。

 それは、誰もが思いもしない場所であった。


「なっ……なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」

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