第20話

20 成長スキルの衰え

 ゴッドファーマーは幼気な少女であるノーフを容赦なく追放。

 そして自分はその足で、別のカボチャ農家へと向かっていた。


 ゴッドファーマーは、自分がコンテストに出すカボチャを『指定農家』に育てさせている。

 しかしひとつの農家だけだと、その地方が不作だった場合に危険なので、彼は帝国の東西南北の農家にもカボチャを育てさせていた。


 そして向かった別の地方のカボチャ畑では、ノーフが育てたものと匹敵するほどのカボチャが迎えてくれる。

 ゴッドファーマーは今度こそ上手くいくだろうと思い、お得意のムチさばきを披露した。


 しかし、しかしである。

 彼の『作物の成長促進』スキルにかかれば、いつもであればカボチャは綿菓子のようにムクムクと膨れ上がるはずなのだが……。


 ……しおしおしお。


 今度はなんと音をたてるほどの勢いで、しぼんでしまったのだ……!


 大人のカバほどもあったカボチャは、子供のカバくらいになってしまった。

 想定外の出来事に、ゴッドファーマーはカバのようにあんぐりと大口を開けてしまう。


「なっ!? ちっ、ちっちゃくなった!? なんでだ!? なんでだぁ!?」


 ノーフのカボチャ畑でこのスキルを使ったときは、多少ではあるものの一応は大きくなった。

 しかし今度は多少どころか、大幅なサイズ減である。


 彼は悪い夢を振り払うかのように、ムチを振り回しまくった。

 カボチャの表面がボロボロになって、内臓のような種が飛び出すほどに打ち据えた。


 しかしカボチャはどんどん小さくなるばかり。

 最後はとうとう、ゴルフボールくらいの大きさになってしまった。


「うっ……! うおおおおっ! こ、この農家もオラを嵌めようとしているだ!

 次っ! 次の農家に行くだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 ゴッドファーマーは帝国を縦横断する勢いで、カボチャ農家を飛び回る。

 筋肉痛になってもムチを振るい続け、カボチャをいじめ続けた。


 しかし悪夢は終わらない。

 とうとう彼は最後の指定農家のカボチャまでゴルフボールに変えてしまい、ガックリとうなだれる。


「うっ……! ううっ、ど……どうしてなんだか!? どうしてなんだか……!?

 なんでオラのスキルが、急に使い物にならなくなっちまっただ……!?」


 原因はもはや言うまでもないだろう。

 そう、スキルの調律チューニングを受けていないからである。


 しかし彼はすっかり混乱しており、その結論にたどり着くことはなかった。

 来月に控えた『巨大カボチャコンテスト』をどう乗り切ろうかと、頭がいっぱいだったのだ。


 ゴッドファーマーの脳内で、悪意でできたソロバンが音をたてる。



 ――こうなったら、『作物の成長促進』スキルを使うのをあきらめて、そこそこの大きさのカボチャを出品するしかないだ。

 でも、オラが種を撒いたカボチャはぜんぶ普通のカボチャよりも小さくなっちまっただ。


 となると、他のヤツらが種を撒いたカボチャをぶん取って、出品するしかないだ。

 しかしコンテストでは、他人が育てたカボチャを自分が育てたと偽って出品するのは御法度だ。


 それに、ぶん取るところを誰かに見られたりしたら面倒だ。

 口止めしたって、田舎者は信用ならねぇからな。



 そこまで考えたところで、彼の頭にピコーンと電球が灯る。

 それは納屋にありそうな、古びた電球であった。



 ――そ、そうだ! 最初の農家である、ノーフとかいう小娘のカボチャを出品すればいいだ!

 畑のヌシであるあの小娘はもういねぇし、もともとあの畑のカボチャはオラのカボチャが植えてあるのはみんな知ってることだ!


 だからオラがあそこのカボチャを盗るところを誰かに見られたとしても、おかしいとは思われねぇだ!



 ゴッドファーマーはさっそく、ノーフのカボチャ畑に取って返す。

 バラバラにされたカボチャたちはすでに片付けられていたが、生き残ったカボチャたちはまだ畑に植えられていた。


 ゴッドファーマーは墓荒らしのように畑を荒らす。

 すべてのカボチャを掘り返し、大きさを調べた。


 残っていたカボチャはどれもサッカーボールくらいの大きさ。

 普通のカボチャよりは大ぶりだが、コンテストではブービー賞クラスのものばかり。


 とてもではないが、グランプリを狙えるものではなかった。


 ゴッドファーマーはカボチャを抱えたまま、頭を抱える。

 どうにかしてこのカボチャで、グランプリを獲る方法はないか、と……!


 ……ピコーン!



 ――他の農家のカボチャを出品できないようにしちまえばいいだ!


 でも、いつもだったらライバルとなるのはひとつの農家くらいだが、今度はぜんぶの農家がライバルだ……。

 難癖をつけてやめさせるにしても、数が多すぎるだ……。


 そ、そうだ! だったらカボチャをこっそりブッ壊しちまえばいいだ!

 大きいカボチャだけを狙ったら、コンテストへの出品の妨害だと怪しまれるから、ぜんぶの農家のぜんぶのカボチャをブッ壊しちまえばいい!


 そしたらコンテストに出るのは、このオラのカボチャだけになって……。

 優勝は間違いないだ!


 むふっ!


 あ、喜ぶのはまだ早いだ。

 きっと帝王は、この厄災を引き起こした張本人を探せとご命令されるはずだ。


 誰かに罪をなすりつけることも考えておかないと、オラが無能だということにされてしまうだ。


 あ、そうだ。無能といえば、このあいだ追放されたスキル調律師チューナーがいるでねぇか!

 ヤツが仕返しのために、こっそり帝国に侵入してやったことにすれば、万事解決だ!


 むふっ! むふふふふふっ!



「やっぱり、オラは天才だ!

 土にまみれるよりも、こうやってインテリジェンスなデスクワークをするために生まれてきた人間だ!」


 ゴッドファーマーは颯爽と立ち上がると、付き添っていたノット・リーに耳打ちした。

 野菜の王様、いや野菜の悪魔にささやきかけられたノット・リーは、その手下の小悪魔のように顔を歪める。


「かしこまりました、ゴッドファーマー様。

 ゴロツキどもを集めて、今夜のうちにカボチャ畑を襲わせましょう。

 そしてゴロツキどもにはシュタイマンがやったと供述させておけば、ゴッドファーマー様に疑いが及ぶことはありません。

 さらにゴロツキどもに、ゴッドファーマー様のカボチャだけは破壊できなかったと供述させましょう。

 そうすれば、ゴッドファーマー様のカボチャはゴロツキの襲撃にも耐えたということになり、新たなるアピールポイントができます。

 厄災をものともしないカボチャは帝王もお喜びになり、大きさに不満を言う者はいなくなるでしょう。

 今年もゴッドファーマー様のグランプリは、間違いなしです。

 最後にゴロツキどもを処分すれば、この事実を知る者は我々だけ……!

 むっふっふっふっふ……!」

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