悪魔兄弟の確執(悪魔の正逆位置兄弟)

 これはデビちゃんから聞いた話。


 その日、悪魔たちによる会議があり、デビちゃんこと、悪魔の正位置は弟を誘うことにした。普段は一人で行くのだが、たまには二人で行くのもいいだろうと思ったからだ。


「よし、まずはあいつを探さねえとな……何処にいるんだ?」


 普段から何処にいるのか把握できていないため、探すのも一苦労だ。手当たり次第探そうと、最初に立ち寄ったのは弟の部屋。一応ノックをして反応を待つが、返答はない。そっと開けるとやはり誰もいない。

が、彼はこの時とんでもないものを目にしてしまった。


「なんだこれは……!」


 デビちゃんが目にしたもの、それは大量の写真だった。そしてそのすべてが自分を写している。中にはいつの間に取ったのかと身震いするほどのものもある。       

 ふと一枚の写真が目に留まった。よく見ると、そこには自分と私が写っていた。後ろの風景から、つい最近に撮られたものだとわかった。


「この時……あいついなかったよな。じゃあこれ、どうやって撮ったんだよ……」


 怖くなってきたデビちゃんは、そそくさと弟の部屋を後にした。長居をすれば気分を悪くしそうだからだ。気を取り直して弟を探していると、見覚えのある後ろ姿が目に入った。


「お、いたいた。ったくこんなところにいやがったのかよ。おーい、今日の会議一緒に行こうぜ!」


 デビちゃんの声にくるりと振り返った弟は、恍惚の表情を浮かべながら一歩後ずさった。不思議に思い一歩近付くと再び一歩後ずさる。何度繰り返しても結果は同じだ。デビちゃんが近付く度に、近付いた分だけ距離を取る。

 段々意固地になったデビちゃんは、何としてでも近付いてやろうとずかずかと歩み寄った。すると弟も恍惚の表情を浮かべたままそそくさと離れていく。


(くっそ、何で離れてくんだ? 俺様が何かしたってのか……?)


 意外にも気にしいなデビルは、悶々と考えたが思い当たる節はない。そもそも普段からこのように姿を見ることが無いため関わりたくても関われないのだ。


(だが、この先は行き止まりのはず。これなら逃げられねえな)


 デビルの言う通り、その先は行き止まりになっていた。やむを得ず立ち止まった弟に、デビルは息を切らせながらもほっとした。これで何故自分を避けるのか理由を聞くことが出来る。そう思い一歩近付いた。


「……は?」


 デビルは唖然とした。それもそうだ。あろう事か、弟はデビちゃんに顔を向けたまま背中で壁をぶち破ったのだから。

 当然壁には弟の形の穴があいている。まるでクッキーの型取りをしたあとであるかのように。だが壁の向こうは外、しかもここは3階だ。普通ならば真っ逆さまに落ちているが、弟は翼を使い落ちないようにしている為、落下することは無かった。

 そんな状況でも、弟の表情に変化はない。相変わらず恍惚の表情を浮かべたままだ。


「おま……!」


 デビちゃんが声をかける前に弟は颯爽と飛び去ってしまった。突然のことに頭が回らない彼は、追いかける事も出来ずその場で呆然としていたのだという。


「なぁ、これ俺が悪いのか? 俺が急に声をかけたからか?」

「うんあんたは何も悪くない。弟が可笑しいだけだからあんたは悪くない」


 話を聞き終えた私は、こんな言葉しか思い浮かばなかった。普段自分をこれでもかと貶すデビちゃんが、こんなに弱気になりながら相談してきていることへの驚きと、弟の行動への恐怖心がそれ以上の言葉を消滅させてしまった。

 一刻も早く解決させなければ。そう思う私は、私の友人の言葉により、この事件を見事解決させるのだが、それはまた別のお話。

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