創造と破壊(魔術師の正逆位置)

「君ねぇ……悪趣味にも程があるよ」

「簡単に壊れちまうもん作るのが悪いんだろ? 俺は持っただけだぜ?」

「持ち方が問題なんだよ……持ち方が。普通ケーキを持つ時に、鷲掴みしようなんて思わないよね?」


 昨夜に作っておいたケーキを食べようとしていたマジシャンは、自身の相対する存在である逆位置に嘆いていた。

 それもそのはず、作ったケーキは、逆位置によって破壊されてしまったからだ。彼曰く、移動させようとケーキを鷲掴みしたところ、形が崩れ見るも無残な姿になったという。


「だったら掴み方くらい書いておけよな。俺には俺のやり方があんだから、合わせてほしいなら最初から言えよ」

「君のやり方があるというのは認めるよ? だけどこれは悪趣味過ぎるよ。君を知らない人が見たら、何の嫌がらせだろうって考えてしまうだろうね……」

「お前は俺を知ってるだろ? だったら分かるだろうが。」


 そういう問題じゃないんだけど……そう思いながらもマジシャンは、途方に暮れた様子でぐちゃぐちゃになったケーキを片付け始めた。そしてその途中、ある事に気が付いたのだ。


「ねぇ……もしかしてだけど君、全部分かった上でやったの?」

「あ? 何の話してんだ?」


 しらばっくれる魔術師の逆位置の態度に、マジシャンは全てを悟った。

 逆位置は、移動させようとした訳ではなく、最初から破壊するつもりだったのだ。

 ふと見ると、すぐ横に放置されている箱があった。日付が書かれた部分を見ると、消費期限が切れていた。逆位置が破壊したものは、自分が作ったケーキではなく、消費期限が切れたケーキだったのだ。

 自分が作ったケーキと中身が似ていた為、そのまま知らずに食べていたら、今頃体調不良になっていただろう。これは盲点だった。


「……なんだ、意味があったんじゃないか。」

「だから何の話だって言ってんだよ。」


 逆位置は相変わらずしらばっくれている。しかしマジシャンには分かった。彼は無意味な破壊はしない……と。

 しかし、いくら消費期限切れと言えど、鷲掴みにするのは如何なものなのだろうか。結局片付けは自分しかしないのだから。


「手伝ってよ、片付け。終わったら一緒にケーキ、食べていいからさ」

「はぁ? 期限切れてねぇだろうな……」


(ほらやっぱり……)


 そう思いながら、マジシャンは逆位置にアルコールを持たせ一緒に掃除を始めるのだった。

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